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檻城(おりじろ)の姫君 ━━檻の城で、自由を夢見た姫君━━  作者: うさぎさん⭐︎
第三章 宇宙海賊

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第七話 「伝説」



 ━━翔は気づいた。自分の部屋の前に一匹の猫がいる。体育座りして、俯いて、尻尾を体に巻きつけている。

「フライ?  どうしたんだ?」

 フライは顔を上げた。起き上がる。

「う、ううん。なんでもないのっ! おやすみなさい、翔」

「おやすみ」

 フライは隣の彼女用の個室へ入っていく。翔も部屋へ入った。またもベッドへ倒れる。

 ……フライの奴、どうしたんだろう? おやすみなさいが言いたかったのかな……? なんか俺のこと待ってたみたいな感じだったけど……? 

 なんか、元気なさそうだったな。なんかあったのかな………? 

 翔は、ベッドの上へ腰を下ろした。フライの部屋のほうの壁を見つめた。

「………もしかして、あいつらに連れて行かれたときに、なんかされたんじゃ……⁈」

 エイムに殴られて気絶して、あの赤猫に連れて行かれた後。━━もしかして何か……..⁈ 

 そう考えると、何かいても立ってもいられなくなった。

 その時。部屋のドアがノックされた。

「フライ⁈」

 翔はドアへ駆け寄った。ドアの向こうから現れたのは、フライではなく、白猫だった。

「エイム⁈」

「よっ」 

 エイムははにかみながら、部屋の中に入ってきた。

「いいのかよ⁈ 主役が抜けてきて」

「よく言う。本当の主役は、翔でしょうに」

 エイムは部屋を見渡した。ナイトテーブルの上の、翔のショルダーバッグと高校の制服に目を向けた。

「あっ、それ? 俺の高校の制服なんだ」

「?」

「学校。勉強教えてくれるトコ」

「あ。あー……」

 なんかエイムは居心地悪そうに身じろいだ。

「あたいぃー、学校、行ったことないからー」

「そうなの?」

「う、うん………」

 エイムは恥ずかしそうに下を向いた。でもまだ珍しそうに、制服とかを見ている。

「触ってもいい………?」

 翔は微笑した。

「いいよ」

 翔もナイトテーブルに歩み寄った。気後れして、恐る恐るそれらに振れるエイムは、なんか小さな子供みたいでかわいかった。

「ほら」

 翔は自分の胸の前で、彼女に見えるように、ブレザーを広げた。

「うわー。なんかすご〜い! かっこい~っ! 頭、よさそうっ!」

「そうかな?」

 エイムは星の踊るような瞳でブレザーを見つめている。翔は、エイムの肩にそれをかけてやった。エイムは驚いて、すっごく嬉しそうに笑った。その場でターンしながら、

「うわぁーいっ‼︎  すごいすこいっ‼︎」

 笑う笑う。無邪気な白猫。エイムも結構若いのかもしれない。もしかしたらフライとおんなじくらいかも。

「ありがとうありがとうっ‼︎」

 エイムは綺麗にそれを折ってテーブルの上に戻してくれた。今度はショルダーバッグを見つめる。

「これ、かっこいいね!」

 エイムは剣に龍が巻きついた、金色のキーホルダーに触った。金属の擦れる音。つばの辺りに、青い石がまっている。中学の時の修学旅行で買った奴だ。青い石と赤い石があって、迷った末、青いのにしたのだ。

 翔はベッドに腰掛けた。ゆっくりと笑った。

「ね、コスモドラゴンとフレアドラゴンって、どんなの?」

「え? えっとね、蒼いのと赤いの。強いんだよねー」

「かっこいい?」

「うんっ! あたいは結構好き。あとねー、メテオドラゴンってのもいるらしいな」

「どんなの?」

「黒っぽい奴。目が紅くってさー。やっぱでかいらしいねっ‼︎ あたいもまた見たことないけど。あたいのおじいが、見たらしいよ。翔は、ドラゴンが好きなの?」

「どうかな? かっこいいとは思うけど」

「だよねっ!  かっこいいよね〜っ‼︎ ……実物前にすると、佈いけど。ねっ、コレ、あたいにくんない?」

 青い石のついた、地球の小さな思い出のキーホルダー。でも、エイムに言われるまで忘れていた。そんなちっぽけな思い出と、存在。

「……いいよ」

 翔は、キーホルダーをバッグから外して、エイムの手に握らせてやった。

 ちょっぴり惜しい気もしたけど、エイムの笑顔を見たらそんな思いも吹き飛んだ。 エイムはキーホルダーを手のひらの上で遊ばせている。

「エイムはさ、なんで宇宙海賊になったんだ?」

 なぜだろう。翔はエイムに親近感みたいなものを感じていた。

「え、うーん……」

 エイムは床に腰を下ろした。先程のフライと同じ体育座り。ベッドの上の翔を見上げる。

「あたいはさ~、他になんにもなかったんだよね……できることが。それだけ」 

 エイムはどこか寂しげに笑った。

「あたいのおじいが、やっぱりかしらでさ〜、でもうちの親は今時海賊なんてはやんないって逃げちゃった。あたいは置いてかれた。おじいはあたいを育ててくれた。あたいは頭になるために生まれたんだって、おじいは言った。あたいも、ばかだから、他のことなんてできないしね……」

 翔はエイムの喉を撫でてやった。

「そんなことねぇよ。エイムなら、きっとなんだってできるよ。だって、今日のエイム、すごかったもんな。強いし、頭いいし」

「頭いい……? 本当に? そんなこといわれたの初めて! あはは~うれしぃな。あっ、でも、宇宙海賊になったこと、後悔はしてないよ。みんなばかだけど、いいヤツでさ〜、あたいはみんな大好きなのっ! そのおかげで翔にも逢えたしね。あたい、今日すっごく、宇宙海賊やっててよかったな~って思ったの」

 でも、エイムの表情は曇った。

「けど、けどさ……疲れちゃうの。みんなの前にいると、いつも頭をやってなきゃいけないから」

 翔の頭の中には、自分の遥か彼方の家が浮かんだ。学校が浮かんだ。翔は両方とも大好きだけど、時には疲れてしまうことがあった。

「だけど、翔は違うの。翔の前だと、二人っきりだと、ただのエイムに戻れるの」 

 翔はエイムに心を許した。似ていたのだ。エイムは。自分に。そしてなにより━━。

「あたいは、翔が大好きなの!」

 ━━フライに。

「エイムは、偉いな」

「えへへ~そうかなぁ?」

 翔は辺りを見回した。ナイトテーブル。ガラステーブル。デスク。ワードローブ。チェスト……などなど。フライは、地球っぽい家具をこの部屋に最初から備えてくれていた。青い地球のホログラフを再生したりもできる。

 ━━白い天井、白い蛍光灯。白い壁   

 ━━壁の向こうの部屋に、フライが居る。

「なぁ、<檻城の姫君>って、知ってる?」

「え? ……うーん。あ、あれでしょ? 伝説でしょ? 檻みたいな城に閉じ込められたお姫様が、遠い星から来た男の子と恋をするの。お姫様は、男の子にキスをしてもらうんだ。そうするとね、姫の呪いは解かれるの。檻城は消えてなくなるの。それで、お姫様はええと━━どうすんだっけかな……?」

「思い出せない?」

「え、えっとねーうーん……逃げるんだったかな……? なんか悲しい話だった気がする」

「悲しい?」

「うん。あぁそうだ! お姫様は死んで、男の子は自分の星へ帰っちゃうんだ! でも、最期に姫は言うの。『幸せだった』って………」

「…………」

「やだね。なんか無理やり感動させようとしてるっていうか、自己完結っての? 無理に綺麗にして、美化してるっていうか━━でも、よく翔知ってたね。これ、わりとマイナーなんだけどな? あははー。なんであたい知ってんだろってか? うちの親が昔聞かせてくれたのかな……? おじいかな?」

「━━フライが、前に言ってたから……」

 エイムの顔色が変わった。

「……」

 考え込んでしまった翔には、エイムの変化がわからない。

「……なんだ、そうか……そういうことか。あたいも酒に酔ってるのかな? すぐ気づきそうなもんなのに……」

「……」

「あんな、あんな姫さんの、どこがいいの?」

「……えっ?」

「あたい、知ってるよ。フライ姫は、まじめだって評判だけど……けどさ、でも、笑わないんだって」

「……笑わない……?」

「そうだよ ! 決して笑わない変なお姫さんだって! あたいも見たことないや。嘲笑くらいなら今日、見たけどさ。それすら珍しいんじゃない? 表情のとぼしい姫なんだって!」

「嘘だ!」

「嘘なもんか! なんだったらみんなに訊いて回るといいよ。あんた、いい加減目ェ覚ましなよ! あんた、利用されてるだけじゃないか! このままじゃ、あんたいつか殺されるよ⁈  あんたの星になんか帰れっこない‼︎ 今はまだいいさ。でも、戴冠式が近づいてごらんよ。猫ってさ、キレると怖いんだよ? あんた、確実に死ぬよ。

 ……そうだ。うちらの船においでよ! 王家だってまだ知らない秘密の隠れ家があるんだっ! 仲間以外にゃ場所も教えちゃいけないんだけどさ、あんたなら平気だよっ‼︎  あたいじゃ、あんたを地球へは帰してあげられないけど、かくまってあげられる。少なくとも、あんな自分勝手な姫さんといるより、長く生きられるはずだよ⁈」

「……」

「そうしなよ⁈  ねぇ、そうしてよ⁈  あたい、あんたが死んじゃうんなんて嫌だよぉ!」

 エイムは、翔の腕にすがりついた。翔はなぜか、彼女から目を逸らしてしまった。

「…………。あんたさ、王家舐めてんの⁈  そりゃばかばっかだけど、あそこにはマイティがいるんだよ! 切れ者のあの黒猫がっ‼︎」

「……マイティ?」

 いろんなところで聞いた名だ。翔は、重鎮じゅうちんかなんかだろうとは思っていたが……。

「あんた……そんなことも知らないの? なんにも話してないんだね。あのお姫さんは。よくそれで、あの子のこと、信じられたね⁈  公爵家のプリンスさ。へぇ~じゃぁあのことも知らないんだ? かわいそう」 

 意地悪く、エイムは笑った。

「フライ姫はね、もうすぐ域冠する。それは知ってるよね? 十六で戴冠するのが、うちらの星の王家の習わしさ。その時、その時さ━━ほんとに考えつかなかった? ふふふ、結婚するんだよっ! 当たり前じゃん? 星をつかさどりながら、子孫代々栄えさせていくのが、王家の使命だもん! あはは、あははは」

 エイムの笑いが掠れる。翔はものすごく怖い顔をしていた。でも、エイムは言わずにはいられなかった。

「その、その相手ってのがあれだよっ! 婚約者のマイティさま。あはははは。あの子は、結婚しちゃうんだよっ‼︎ 残念だったね! あはは、あはははは……」 

 泣いていた。エイムは表面上は笑っていたけど━━心の中では泣いていた。どうして今日逢ったばかりなのに、こんなにこの人のことが好きなんだろう……? 心が壊れそうだ。砕けそうだ。悲しくて愛しくて、こんなにも想いが膨らんで膨らんで破裂しそうだ。

「……なんだよそれ……」

 迷い子みたいに呟いて、翔はエイムの両腕を掴んだ。━━痛い。怖い。翔の目は、怖くて怖くて、でも悲しい。

「なんだよそれっ⁈  そんなの俺聞いてないぞっっ⁈」

 エイムは泣きそうになった。子供のように大声で泣きたくなった。

「翔のバカっ‼︎」 

 逃げてしまった。もう、見ていられなかった。エイムは翔の部屋から逃げ出した。 

 なんで。なんで翔は、あの子のことばかり、あんな、あんなに一生懸命に想ってるの? あの子のために、声を嗄らして叫ぶのっ⁈  あの子のために、あの子のために、そればかり━━‼︎




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