第四話 「監禁」
「ほら! リア。ボサッとすんな! お姫様をうちらの船の寝室にお連れしろ。そうだね━━敬意を表して守衛を五匹ばかり部屋の外におつけしてね。おっと、ダクトとかある部屋はだめだよ。どっかから悪いコネズミでも進入したら、大変だからね」
赤猫リアは言われたとおり、フライを連れてブリッジから出ていった。
「フロント。あんたはそうね、通信を入れて。お姫様をお助けしたってね! あたいら、英雄になれるよっ‼︎」
だが、紫猫フロントはひびっていた。青猫サイトも同様。
「どうかした?」
自猫はニヒルに笑った。
「だ、だって、フライ様にあんなことして!」
「そ、それに、まだそこに凶悪犯が……!」
自猫の判断は結構的確だった。的確だったのだが、子分たちにはわからない。
「ひ、姫様にあんな……! 凶悪犯にさらわれて、いくら洗脳されてるからって……!」
「━━洗脳⁈ ばーか。だからあんたたちはばかだってのよ。あれは正真正銘まともな目だよ。駆け落ちっての、本当かもね。あれは、あれだね、恋する女の子の目だね。そこの男に惚れちまったのさ」
「そ、そんなばかな.......っ⁈」
「恋は盲目ってね。よくあることだよ。ま、あの年頃じゃ恋に恋してるだけかもしれないけどさぁ。シチュエーションに酔ってるのかもね。愛の逃避行。泣けるね。━━さて、と」
白猫は翔に目を向けた。
「かわいそうに。怯えてるね。━━ほら、フロント。起こしてやんな」
フロントは動かない。
「……こ、コワイっす。凶悪狙はイヤです!」
「チッ! あたいらだって、お尋ね者には代わりねぇってに。……ばかだねぇ。こんな朴念仁っぽくて凡庸ぽくて何かあるとすぐ絶叫しそうな男が、凶悪犯なわけないじゃん」
すごい。全部当たってる。
「おおかた、金にでも釣られて、片棒担がされただけの哀れな男よ」
……ちょっと、違う。
白猫は自ら屈んで、翔の背を壁に預けて、起こしてやった。
「へぇー、よく見ると結構いい男だねぇ」
白猫は目を見張った。翔を眺め回す。
「あ、あたいさっ、あたい、エイムっての!」
頬を赤く染めて、白猫エイムが言った。サイトとフロントは嫌な予感を覚えた。
「あんたはさ、あんたは……あっ! 誰だいっ、猿ぐつわなんか噛ませやがって⁈ これじゃあ、喋れないね。ごめんね」
エイムは翔の猿ぐつわを外してやった。途端に、翔が吠えた。
「フライを返せっ!」
エイムは鼻白んだ。翔はすごい勢いで吠え続ける。
「返せっ‼︎ 放せっ‼︎ 放せよっ━━‼︎」
はっきり言って怖かった。なんかいきなり別人みたいだった。さっきまで青ざめていたくせに、いきなり火がついたように、叫びまくっている。怒れるドラゴンを起こしてしまったかのようだ。
「きょ、凶悪犯コワイ!」
フロントとサイトは竦み上がった。
「返せっ‼︎ 返せ‼︎ 返せよ━━‼︎」
ドラゴンはコワイ。宇宙最強の生物らしーから。いや、しかし、でかいし強すぎるし、怖がってる暇もない。見たことなくって、実感湧かないほうが多い。あれは幻獣なのだ。
で━━、猫たちが最も嫌うのは━━犬。そう。猫たちの歴史は、好戦的な犬の星との戦争の積み重ねであった。今はもうずーっと平和だけど、潜在的なコンプレックスがあるのかもしれない。
怖いのだ。
翔は狂犬みたいに吠え続けている。
「う、うわぁぁぁぁっ噛まれるぅぅぅうっ‼︎」
サイトとフロントは銃を捨ててブリッジから逃走していった。
「あっ……! ちょっとてめーら……っ‼︎」
エイムは置いてきぼりにされた。彼女は一匹で、翔を見続けた。吠え狂う犬。
「かっ、かっこいい……!」
なんかよくわからないけど、すっごい強そう! ライオンなんか目じゃないくらい(一度しか見たことないけど)。ドラゴンのがでかくてすごいけど、アレはもう話になんないくらい強すぎるし。
━━実際の翔は捕縛されて吠えるだけしか能のない、非力な少年にすぎなかったが。
「━━すごいすごいすごい素敵っ‼︎」
エイムのお目々に星座がきらめく。
「返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ‼︎」
ついにエイムのその目にハートマークまでもが浮かんだ。
翔の声帯の勝利だった。




