第三話 「捕縛」
縄で縛られている。フライも翔も、二人とも両手両足を縛られて床に転がされてしまった。
宇宙海賊たちは話を聞かなかった。通信さえしてこなかった。今まであんなに効果あった自殺攻撃なんかやってる暇がなかった。いや、一応やったんだけど、乗り込まれて追いつめられてからやったはずなんだけど……フライには本当に死ぬつもりがない。たぶんそれがバレてしまったのだろう。
━━結局、見てのとおりだ。あんな作戦効果ある奴らにはなんか絶大だけど、そんなんどうでもいい奴らにはノーダメージ。全く利かないのだ。
(だから、だから俺は、宇宙海賊なんかの出る宙域に入るってユウゾウに教えられて、イヤ~な予感がしたんだ。やめようっていったんだ。事実状、ここは無法地帯だ危険だってユウゾウが忠告してくれたのに、フライの奴、『あ、じゃ、もしかして追っ手も近寄ってこれなくて、逆にいっかも?』とかいいやがって。
フライってほんと、世間知らずだよな〜。ユウゾウの主導権はフライにあるから、ユウゾウだってきっとイヤ~なの我慢したんだ。なのにさ……)
猿ぐつわを噛まされているので文句も言えない。絶叫魔の翔の本領を発揮できない。
フライはなぜか寝ていた。いい気なもんである。
ちなみにここはブリッジである。ブリッジの床は白くて結麗だけど、もうくっついているのはイヤだ。
部屋には三匹見張りがいる。やっぱり、地球と違い猫たちはでかい。みんな一メートル七十センチくらいありそう。武器も取り上げられちゃったしユウゾウも今は役に立たないし、なんかもう絶望感漂っている。
「あっ、お頭!」
あくびをしていた眼の青い猫が、急にまじめな声を出した。……ボスキャラのお出ましらしい。
━━白猫だった。目は水色。髑髏マークの入ったでっかい帽子を被っている。身長約百五十センチ。なんかちょっと露出度高げな服装。短めなマントも羽織っている。どうやら、メスらしい。
「ギャーギャーうるさい小僧と、自分を姫とか言い張って自殺しようとするいかれた小娘を縄で縛っておきましたゼ。他に猫の乗組員はいないようです」
今度は、頬に傷のある赤い猫が言った。
「あ、ワリィワリィ。金庫がもうベラボーにゴージャスでさあ~このあたいもさすがに我を忘れて飛びついちゃって〜。しても、なんかちょっと変な船だね~。おもろいけどさ」
白猫はヒゲを全開させて、めっちゃ嬉しそうに笑った。
「ったく、一体どこの坊ちゃん嬢ちゃんだい? あっ、わかった! あれかい? 駆け落ちかい? いーね~ロマンチックでさ~! お金持ちにもアレだろ、いろいろ悩みはあるんだろ? 大変だねー。世の中<シンデレラ>みたく簡単にめでたしめでたしってわけにゃいかないこともあるさね~」
白猫はいい奴そうに笑った。
「それにしても、ヘ〜んなの。耳も尻尾もないなんて。どこの変身製品使ってんの? これじゃ、本物の地球人みたいじゃーんっ‼︎ あっ、もちろん本物なんか見たことないけど」
翔は変ブレスレットなんかつけてない。腕につけてるのは、アームウォーマーと、ソーラーウォッチだ。言いたかったけど、猿ぐつわのせいでな~んも言えない。
「うっさいな〜黙れこのモグリ!」
横から、いきなりフライが言った。いつのまにか猿ぐつわが外れている。というか、縄も解けている。
「安眠妨害って言葉知ってる? おまけに、翔のこと変なんてぬかしやがって! 変なのは、そっちじゃん⁈」
宇宙海賊キャットたちは動揺した。フライは悠々と立ち上がった。
「どういうことだ⁈」
紫の猫が言った。
「ほぉーお」
目を光らせるのは、白猫。面白そうに口角を上げて笑う。
フライは、左耳の猫ピアスを外した。
すると、ピアスは瞬く間に銃に変貌した。猫を思わせるデザインの、ちょっとキュートな銃。
「私、一応元姫なわけ。(←もうやめた気でいる)さらわれたりしたときのために、縄解きなんて寝ててもできるわけ。護身術だって習ってたわけ」
驚く翔。銃もそうだが、彼女のセリフ!
━━だったらなんで早く教えてくれないんだっ! っていうか、俺の縄も解けよっ!
「へぇ……変わった銃だね……!」
白猫は目を見張った。
「これ、昔から王家に伝わる物で、子供のとき、お父様とお母様にもらったんだ。
━━あんたたちさ~人様のこととやかく言ってる暇があったら、自分たちのこと省みてごらんなさいよ。私、宇宙海賊って情報網すごいと思ってた。かっこいいと思ってた。なのに、ガッカリ。私の顔も知らないなんてね……フッ……笑っちゃう」
「なんだとぉ⁈ 俺たちはかっこいいぞぉ! 七つの宇宙を翔ける宇宙海賊だぞぉ! 情報網だってピカイチなんだぞっ‼︎」
紫の猫が喚く。なんかかわいい。
「ま、宇宙海賊にもいろいろあるってことね。いいけどさ~別に」
「チクショー舐めやがって!」
なんか一色即発。銃撃戦が始まりそう。ああ、頼むフライ。相手を挑発すんな。
「待ちな」
冷静沈着な声。お頭の白猫のセリフだ。
「あんた、一体誰だってんだい?」
「だから~。元姫よ、元・ひ・め‼︎」
「……」
「フライよ! フ・ラ・イっ‼︎ 本当に知らないのぉ⁈」
フライは歯ぎしりする。牙が折れそうなくらい。フライって実は知名度とかないのかなと、朔は心配顔。
「ざけんなっ! 知ってるわい‼︎ あの愛らい茶虎の姫君だろっ‼︎ それがどうした⁈」
「だから、私よ。わ・た・し! ソレ私!」
フライはちょっと忘れていた。フライは今茶虎茶虎したでっかい猫じゃなくて、はやりの猫人間の姿をしていることを。
「ふざけんな! フライ様は、そんな変なブームに踊らされるような、バカな金持ちの娘とは違うわいっ‼︎」
赤い猫が更に体を赤くして言った。
「あー、言ったわねェ! 実は私もなんか変なブームだな~とは思ってたけど、星のみんなの中にもそう思ってる猫が実は一杯いるら〜けど、ソレって言わない約束よ! 暗黙の了解よ! それが大人なのよ! だってブームの火付け役ってうちの親父なんだもん!」
結局、フライも地球人=翔のことを変だといっているようなもんである。
「でもそうかー、この姿だからわかんなかったのね。ちょっと安心。でもさーあんたたちテレビ観てないの? ニュース観ないの? 私のこっちの顔もバシバシ出てんだけどな~」
ユウゾウにもテレビがある。宇宙でもテレビは映るらしい。もちろん地球の放送とは違う。フライはおもしろがって自分関係の放送を最初こそ録画していたが、最近は飽きちゃって録画していない。
しかし、誘拐事件って、犯人捕まるまで公表しないんじゃなかっただろーか。いや、もはやなにも言うまい。常識なんて通用しないのである。だって、いきなり賞金稼ぎが攻めてきたりもするんだもん。
「言っていることがよくわからんな」
白猫は、野郎どもに訊く。
「何か知っている奴は?」
「……」
「………」
「…………………」
「信じらんないっ‼︎ 連日報道してんのにっ! だ~れも知らないの? そんなのアリ?」
彼らは、フライがさらわれたことも知らないらしい。(いや、本当は無関係な人間巻き込んだ家出なのだが)
「最近、幻の秘宝ニャンピース探しに明け暮れていたからな。悪いが、世間のことには疎いんだ。テレビなんか観てる暇はなかった」
白猫がクールに言った。登場したときとなんかキャラが違ってる。
「そうだぜっ! 宇宙の怪獣コスモドラゴンとフレアドラゴンに、うちの<宇宙は広いな大きいな・イカさん丸・3号>の必殺兵器、<ジャムすんなよジャムすんなよ砲)エーンド<宇宙だって真っ二つ⁈ ビーム>をぶっ放したときのあの勇姿! これはとてもニクールじゃ語れないぜ!」
「……結局ぶっ放すだけぶっ放して、全然利かなくて。戦いにもならん前に、逃げてきたんだけど………。
しかもブラックホールがアレで、ジャンプアウトしたらアレだし……」
「チクショー! 情報屋のくそオヤジ! ガセネタなのか⁈ 何がニャンピースだ⁈ そんなんどこにあるってんだっ‼︎ なんでドラゴンが出てくんだよっ‼︎ ドラゴンって伝説上の架空の生物じゃなかったのかっっ⁈」
わけわからない。青と赤と紫は各自好き放題なことを言っている。しかも同時に。
「黙れ! リア! サイト! フロント!」
白猫が威厳のある声で一喝した。……なんか、変な名前である。どうやら、リアサイトとフロントサイトから取ったらしい。コードネームとか渾名とかかもしれない。
「……あ」
サイト(青猫)が、思い出したように言った。
「そういえば、お頭。変な手配書が……」
懐から取り出したのは、カナルも持ってた例の手配書! それを受け取った白猫親分は、不気味なほど手と声を震わせてこういった。
「ほほぉーお? サぁイトぉ、これはぁいったぁぃどういうことだぁい?」
「えーと、あまりにふざけた手配書なんで、誰かのイタズラかと。で、メモ用紙代わりに。あっし、実は副業で放送作家やろうかと思ってて、ちょこちょこアイディアをば。もうプロットは完璧ですわぁ。アハハ。だって一億猫大判ですゼ? そんな大金あるワケ━━」
「ばか猫っ‼︎」
親分は子分を殴った。涙々のサイトくん。白猫は何度も手配書を見た。目の前の二人と見比べた。
《名前:翔 特徴:地球人。耳と尻尾がない。凶象。噛みつく。目つき悪い。ジャンキー。イッちゃってる。近づくと危険! 臭い。詐欺師。洗脳狂。エトセトラエトセトラ》
白猫はちょっとびびった。本当なら、かなりコワイ。
《フライ姫誘拐の大犯罪者。生死を問わず、捕らえた者には一億籍大判支給(超マジで?)。宇宙の塵にしてもOK。地球人はコワイ。このままだと地球侵略しちゃおうかな〜? とか王様言い出しちゃうかも! 地球人愛護団体がテロ起こすかも! そんなことになる前に捕まえよう! やっつけよう‼︎ みんなでがんばろう‼︎ 今日こそ我らが勝利‼︎》
なんか本当にイタズラみたいだ。これ書いた奴はばかかもしれない。
よく見ると、フライの絵も描いてあった。言うまでもないが、翔の凶悪な似顔絵と違い、天使のような清らかな猫絵である。猫と猫人間の両バージョン。
《おかわいそうなフライ姫。呪いをかけられてお姿を変えさせられてしまった。まじめなフライ姫はいつだって誇りを持って、我らが本来の猫の姿をしていたのに。憎むべき大犯罪者の手により、心の自由が奪われている模様。呪い? 魔薬? 魔法? 洗脳? 御自らのお命まで絶たれようとなされる。おいたわしや……》
まだまだ統く長い文面。これではカナルみたいなのが信じちゃってキレちゃうのも頷けるかもしれない。 そんなことが書かれているとは知らない翔は、なんで写真にしないんだ⁈ 俺は絶対そんなアブねー顔してねぇのに……‼︎ なんだったら撮影くらいさせてやるのにぃ‼︎
━━とか考えていた。いや、テレビで自分がとてつもない扱いされているのは知っていた。だからちょっと嫌な気はしたが、最近はあんまり観ていないし、手配書にまでそんなコト書いてあるとは思わなかった。
「はん! 要するに、あんたがフライ姫。そっちのが、凶悪犯・翔‼︎ で、そっちのを殺すか捕らえるかして、姫さんをお助けすれば、宝くじよりもすっご〜い‼︎ 賞金がいただけるってわけだね? こりやスゴイ。すごすぎる。やったね! リア! サイト! フロント! あたいら今日から大金持ちだよっ‼︎ 大ハッピ~&超ラッキ~だよっ‼︎」
何を思ったか、白猫は手配書を子分たちに放って、フライへ向けて歩きだす。
フライは銃を握る手に力を込める。ちなみに白猫は銃すら手にしていない。いや、装備はしている。でも、手に取ろうともしない。
リアとサイトとフロントは、一応ずっとフライたちに銃を向けている。いつでも発砲可能だ。
挑戦的に白猫は笑った。
「ハッ! 何が、護身術だい? 猫一匹殺したことないお姫様のくせして」
「う、打つよ! 近づくと、打つからね!」
「━━打てば?」
白猫の脚がフライの銃を蹴り上げた。それを片手にキャッチして、浅く笑う。
「かわいいね。彼氏の前で虚勢張っちゃってさ。でも、残念だったね。恨むなら、自分の血を根みな! ━━それとねっ、狸寝入りしながら作戦考えるのはいいけど、ハッタリかましすぎは、よくないよっ!」
読まれている。なぜか完全に白猫はフライの考えを読んでいる。
白猫は優雅に言った。
「リア! その子をもう一度縛ってやんな! おっと、縄抜けは得意だったけね? ど~しよっかな? とりあえず、気絶させとく?」
白い右手が、フライの腹を打つ。
フライは昏倒した。




