おやすみなさい
遠くの街灯と僅かな星明かりしか差し込まない部屋の中、何処かで奏でられた夜の騒音は、絶え間ない、正体不明の雑音と、仄かに燦く虫の音と共に、ひんやりとした夜風に相乗りして、開け放した窓より流れ込む。
シーリングライトを消し去った部屋の中では、空気清浄機の表示灯がけばけばしく自己主張を続け、落ち着いた白い光が、暗がりにその本体を潜ませた板タブの四隅から発せられている。それ以外には光源のない部屋の中、空気清浄機の明かりに照らされたつるつるした白と灰色の月は、その後背に虚数の月を結び描く。
夜の創り出した闇より暗く、木板の天井にぽっかりと空いた黒黒としたその穴は光さえも呑み込むブラックホールのようで、視線をも捕えて離さず、ふと目を逸らそうにも吸い寄せられるかのようだ。
何もない、いつも通りの沈み行く静かな時間
硝子の紗幕が取り去られ、解像度の低い視界の中、忍び寄ってきた眠気によって外側から内側へと靄に世界は侵食されてゆく。
おやすみなさい