閑話3. 今日は、あたしだけのお兄ちゃん
再掲 第13話〜第14話、ガウル復興から旅立ちまでの間の一幕。
お兄ちゃんたちが旅に出るのに、あたし一人だけここに残るのにはまだ納得いってない。
何かいい作戦はないかしら?
「──防衛を任せられるのはダリアだけだ」
みんなはそう言うけれど、ガーちゃんと鳥さんたちに任せておけば大丈夫なのに。それで足りないんだったら、他のお友達もみんな呼んだっていいんだ。熊さんも、狼さんも、鬼さんたちも、近場だからすぐに来てくれる。
でも、約束したから。「毎晩お兄ちゃんと一緒に寝る」って。イーサちゃんはゴネてたけど、あたしの勝ちだ。
今晩からしばらくは、あたしだけのお兄ちゃんなのだ。
昔から、寂しがるあたしたち兄妹とお兄ちゃんは一緒に寝てくれた。
──でも、あの時とは違うの。
今日は、あたしだけのお兄ちゃん。
あたしだって、少しは大人になったんだ。イーサちゃんと比べたら、それは胸もないし、子供っぽい体つきだけれど。誰にも邪魔されず、お兄ちゃんを独り占めできる。
寝巻きも、(理由はよくわからなかったけど)言われるがままに、下着だって歓楽街のお姉さんたちに聞いて用意した。どっちもすっごく可愛いいんだから。髪だって、お肌だっていい調子だ。
完璧よ、ダリア。あなたは大人のダリア。
素敵な、素敵なダリア嬢。
あたしはお兄ちゃんの部屋の前まで来て声に出して唱える。少し緊張する。心臓の音がはっきりと聞こえる。とっくん、とっくん。って鳴っている。
大丈夫よ、ダリア。
完璧・完璧! あたしは大人のダリア。
素敵な、素敵なダリアさん。
「お兄ちゃん、入るね」
あたしは部屋の戸を叩きながら、尋ねる。中から返事はない。
(まだ帰ってないのかな? どこかに出かけちゃったのかしら?)
「入るよ、お兄ちゃん」
あたしは恐る恐る扉を開ける。お兄ちゃんは静かな寝息を立てて眠っている。
「もう、約束したのに……」
あたしは、ちょっとだけ寂しい気持ちになる。
「約束したんだもん、約束、したんだもん……」
(でも、街の復旧作業で疲れてるんだよね。すっごく頑張ってたんだもん)
自分のわがままに腹が立つ。
「でも、約束だから、うん、そう約束したから。入っちゃうからね」
大丈夫よ、ダリア。
完璧・完璧! あたしは大人のダリア。
素敵な、素敵なダリアさん。
今度は、心の中で唱えてみる。
お兄ちゃんが起きてしまわないように、そっと布団の中に潜り込む。真横に伸びたお兄ちゃんの腕の中に飛び込むようにして。お兄ちゃんの寝息が耳元にかかって、何だか顔が熱ってくる。何だかそわそわして寝ているどころじゃない。
でも、何だか懐かしい感じがする。
昔、あのボロボロのお家でみんなで寝ていた頃のことを思い出す。風もぴゅうぴゅう吹き抜けるお家だったけど、寒いと感じたことなんて一度もなかった。みんなでぎゅうぎゅうに身を寄せ合って、それがとっても暖かかった。
お兄ちゃんは、みんなのお兄ちゃんだった。
「懐かしいな」
心の声が思わずこぼれる。明日からはやっぱりイーサちゃんも、アイリッシュも誘ってあげようかしら。なんて、考えてもみる。
「ダリア……」
「お兄ちゃん……?」
あたしは驚いて体をお兄ちゃんの方に向ける。だけど、お兄ちゃんは眠ったままだ。大人のダリアさんを焦らせるなんて、流石はお兄ちゃんだ。
(寝言かしら? もう、びっくりしちゃった)
「ダリア、おっきくなったな」
「うん」
寝言だと分かっていてもあたしはそれに頷く。
「寒くないか、もっと近くにおいで」
「うん」
あたしはぎゅっとお兄ちゃんの胸にしがみつく。お兄ちゃんの匂いがする。とっても大好きな匂い。とっても暖かくて、耳を寄せると、お兄ちゃんの穏やかな心臓の音まで聞こえてくる。あたしの心臓の音もお兄ちゃんに聞こえてると思うと、また顔が熱くなる。
うん、決めた。
みんなのお兄ちゃんは明日から。
でも、今日だけは──あたしだけのお兄ちゃん。
お兄ちゃんの胸の中。
今日のあたしは、少しだけ大人のダリアさん。




