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閑話2. お兄様の腕の中で……

再掲 第10話、魔族討伐後の一幕。

 私はお兄様たちのお役に立てなかった。


 やっぱりお姉様たちはすごい。魔族をあんなに簡単にお倒しになってしまった。魔族たちが死んだ今でも、私は足の震えがとまらないのに……。


 そして、ご兄妹の絆……ああ、抱きしめ合っている姿は神々しくすら見える。今にもこぼれ落ちそうな涙を私は必死にこらえる。


(私なんかがここにいていいのでしょうか……?)


 アイリッシュ・グエン・ローリー。──私なんかが軽々しく名乗っていい名前じゃないんだ。こらえても、こらえても、次々に涙が溢れてくる。


(だめ、泣いちゃだめだ。涙を拭って笑わないと)


 私は流れた涙を必死に拭ってお兄様たちを見つめる。するとお兄様が顔を上げて、私の方を見つめているのに気がつく。まるで「君もおいで」と言っているような優しい目で。


(私なんかが、あの輪に加わっていいのだろうか?)


 だめ。いいわけなんてないのに、私の足は自ずと動き出している。駄目なのに、気がつけば、お兄様たちの目前にいて、私はそれ以上動けず、立ちすくむ。お兄様がまた私の目を見て、こくりと頷く。どうして? どうして、こんなに優しい目をしてくださるのだろう。


(だめ、だめに決まってる。こらえて。あなたは元奴隷、汚らしいアイリッシュ)


 駄目だと分かっているのに、私は輪の中にそっと足を踏み入れる。お姉様たちが、私のためにそっと場所を空けてくれる。お兄様の腕が、私のことも優しく包み込む。


「アイリッシュ、もふもふがくすぐったいよお」

 ダリアお姉様が笑いながら言う。


「いいえ、アイリッシュの尻尾は柔くて気持ちがいいです」

 イーサお姉様が優しい声で言う。


「こらこら、みんな兄妹なんだから、仲良くすること!」

 アッシュお兄様が()()()()向けて言う。


「ごめんなさい、私、お兄様たちのお力になれなくて」

 お兄様は首を横に振る。言葉と涙が一緒に込み上げて、また勝手に溢れ始める。


 そんな私を、三人はこれまでよりもっと優しく、それでいて力強く抱き寄せる。ぎゅっと。ここにどんな言葉もないけれど、言葉以上のものがそこにはあって、胸の奥から温まっていくような、不思議な感じが私を深く深く包み込んでいる。


「私、泣き虫で、ごめんさない……」


「アイリッシュ。泣いたっていい。泣きたいときは、うんと泣くんだ。そして、その分、笑いたいときにうんと笑えるように」

 お兄様はまるでご自身にも、私たち全員にも言い聞かせるようにはっきりと言われる。


「その時が来たら、一緒に笑おう」


 お兄様の言葉は、その声は、胸の奥の一番深いところを、底から揺り動かすような響きを持っていた。そう、まるでじかに魂に語りかけるような、とっても不思議な響き──。


 お兄様の言葉にふれると、私は声を上げて泣いていた。とめどなく流れ落ちる涙を、もうどうやっても止めることができなかった。そして、その涙の先に、──いつか、心の底からこの人たちと笑えるように。


 私の中に、願いのような、誓いのような、祈りのような……まだよくわからないけれど、すごく確かな想いが生まれて、そしてそれが、やわらかに輝き始めるのを感じた。

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