38. 身勝手な葬送〈3〉
俺は死んだ時、どんな顔をしていただろうか。
絶望に打ちひしがれ、発狂して、醜く引き攣ったまま硬直していったのだろうか? モーリスとしての死の時はどうだったか。家族に囲まれる幸福と、果たせぬ後悔の懺悔の中で、それでも微笑みながら死ねたのだろうか? 家族たちの目には、そんな俺の死に姿がどのように映っていたのだろうか。
目の前に安らかに横たわる彼らの姿は、あまりにも美しすぎた。
俺は膝をついて、目の前で健やかに眠るひとりの少女の頬をそっと撫でる。浅黒く日焼けした頬は、ジーナのものだ。王国の南部の農村で五人の弟たちと暮らしていた。結婚の約束をしていて、残していく弟たちの心配ばかりしていた。
「ジーナ……」
彼女の名を呼ぶ。しかし、返答はない。
隣にいるのは整った顔立ちの少年はアベルだ。奉公に出された貴族家で気難しい令嬢に付きっきりだった。悪態ばかりつく、その令嬢の心のうちを知り、その命を賭して生きてゆくと誓った直後に消息を絶った。自分の未熟さと心残りばかりを語って聞かせた。
「アベル……」
彼の名を呼ぶが、やはり、返事は返ってこない。
「……ルーナ、ニコ、チェニス、ライバン、ミチェル、ウェルス、ジーク、ブラン、カーチャ、トニー、ロバート、ブランカ、サイス、ルーゲン、ドラン、ズーマ、ケルズ……」
俺は時間の許す限りに皆の手を握り、その名を呼んで回った。今ここで、全員の名前を呼んでやることができない。時間はそれを許さない。でも、ここにいる皆の名を、俺は知っている。
肌の色も、声の色も、何もかもが一人一人違っている。生まれた土地も、育った土地も、それぞれ違っている。ルーランド王国内だけではない。大陸中から集められた子供たち。この綺麗な素肌な奥に、引き攣った嘆きが、怒りが、悲しみが、あの「助けて」という絶望の声がある。しかし、異様なほど安らかに眠っている。
こうして彼らの姿を見つめ、手を握り、その体温と鼓動とを肌で感じると、俺の意思は揺らぐ。それが、俺の身勝手で押し付けた、単なる死化粧とわかっていても、本当に彼ら自身がその姿を取り戻したのだと錯覚してしまいそうになる。
中身は異形のままで、一時的な姿を与えたに過ぎないと、頭では理解しているのに、皮膚と皮膚が触れ合うと、どうしようもなく弱い自分が姿を見せる。
しかし、彼らはそれ以上何も語ってはくれない。俺の名を呼び返してくれることもない。どうか、勇気づけて欲しいと願っても、聞こえてくるのは穏やかな寝息だけだ。
皆の安らかな表情。俺が、今から終わらせる。
俺は彼ら一人ひとりの名を、彼ら一人ひとりの生い立ちを、彼ら一人ひとりの表情を、彼ら一人ひとりの体温を知った上で、それでも彼らを終わらせるのだ。──彼らの最期がせめて、彼ら自身のものであるように。言い訳がましくそう唱えながら。
「お兄ちゃま。連れてきたのだ」
フェリムがラマスを抱えて降りてくる。手当を受けていたアイリッシュはイーサの膝の上でようやく目を覚ましていた。
「幸せそうに寝ているから、わらわ、そっと連れてきたのだ」
フェリムは彼を起こさないよう小声で言って、そっとラマスを降ろして寝かせた。
「ありがとな、フェリム」
「うん、なのだ」
俺はしばらく黙って彼の表情を見つめた。フェリムの言うように幸せそうな表情をして見えた。アイリッシュの変化の魔法の効力がそう見せているだけだ。しかし、どこかその仮面の奥から、もうひとつの表情が浮かび上がるのを見ないではいられなかった。
俺は彼の手を握りしめる。握り返してはこない。しかし、その指先からは確かな温度が伝わった。
「なあ、ラマス。俺は満足だ。これで満足なんだよ……」
どうしようもなく涙がこぼれ落ちていた。どうやってもその涙を止めることは叶わなかった。自分の感情のあり方も、どうして自分が泣いているのかさえわからず、それはいつまでも流れ続けた。悲哀の涙であり、奇妙にも歓喜の涙でもあるように思えた。
どちらにせよ、それは魔王らしい、醜悪な涙であった。




