表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/50

36. 身勝手な葬送〈1〉

 俺の選択は、単なる身勝手な虐殺だ。

 救いたい、助けたい、守りたい。どんなに言葉を重ねても、その実、救われたいのも、助けられたいのも、守られたいのも、そして、赦されたいのも、すべて俺自身だ。そして、これから俺が成す業の全てを、兄妹たちに共に背負わせようとしている。でも、それも全て、もう決めたのだ。


「ふふ、非業の魔王の名に相応しいじゃないか」

 俺は小さく唱える。


「フェリム、精一杯手加減して、彼ら全員を奈落の底に突き落としてやってくれ。できるか?」

 俺は命じるように言った。フェリムは一瞬だけ、不思議そうに小首を傾げた。だが、すぐににんまりと笑みを浮かべる。

「お兄ちゃま。わらわ、やるのだ!」

 フェリムは、俺の言った通りに、岩壁をよじ登る魔物たちを、最小限の力で、次々に突き落としていった。ダーリャもフェリムを手伝う。


 その間に、俺は、アイリッシュを近くに呼んだ。イーサにも耳を傾けるよう促す。

「二人の力を限界まで俺に貸して欲しい」

 俺は二人の目を順番に凝視しながら言った。言いながら、俺は両の手を胸の前で握りしめる。声が震えていないか、自分にももうわからなかった。


「当たり前です! 私の力は兄さんのためにあるんです」

「お兄様。私に何ができるかわかりませんが、お兄様のために最大限やらせてください」

 二人はそれぞれ、そのような反応を示した。

「ありがとう、二人とも」

 俺は微笑んだ。


「兄さん、でも、いったい何を……」

 イーサはまだ不安げだった。

 俺は、二人にことの経緯と、俺が今から、やろうとしていることを伝えた。


「……これは、俺のわがままだ。誰が何と言おうと、救われるのは俺だけだ。でも、俺はそうしたい。お前たちにも、一緒に背負わせることになるが……」

 イーサの目には、涙がうっすらとにじんでいた。彼女は小さな肩を震わせながら、必死に声を張る。

「全部、全部……、私は兄さんと一緒に背負いたい!」

 ほんの少しの間があって彼女は言葉を繋いだ。「やっと、やっと、こうやって兄さんと色んなことを分け持てるんです。楽しい感情も、嬉しい感情も、悲しい感情も、苦しい感情も。ずっと待っていたから……兄さんがそうしたいなら、私は喜んで悪魔にだってなります」

 その瞳には凛とした光が射していた。


「お兄様、私にできるのでしょうか……」

 彼女には誰よりも辛い苦難を強いることになる。その耳も尾も、力なく萎れている。その姿に俺の胸は締めつけられる。

「アイリッシュ、俺は他の兄妹たちと同じように、お前のことも信頼してる。お前ならできる」

 彼女の瞳は揺らいで見えた。「……なあ、俺って、無責任な兄貴だよな。でもな、アイリッシュ、俺は、お前に任せたいし、()()()()()任せられるんだ」

 俺の言葉に、その瞳の奥底からじわりと溢れ出るものが見えた。俺がそう信じたかっただけなのかもしれない。


 それから、フェリムとダーリャを呼んで俺の企ての全貌を伝えた。

「わらわ、やるのだ!」

「みゃあ!」

 と二人は大きく頷いた。


「……誰よりも迷ってるのは俺だ。誰よりも情けなく俯いているのも俺だ。誰よりも意気地なしで、惨めで、醜い表情で躊躇しているのも、全部が俺だ」


 俺は改めて、皆の目を見つめた。皆もまた「兄」として、俺を見つめ返しているように感じた。今の俺には、それだけで十分で、それが何よりの拠り所であるようにも思えた。


「さあ、魔王アッシュ・グエン・ローリーの初仕事だ」

 俺は岩壁の淵に立って力強く唱えた。


 迷いはある。不安もある。俺にできるのだろうか、と何度も考える。それでも、俺の足は動いた。胸の奥が、鈍く軋む。足元には、暗く深い奈落が広がっている。そこに向けて、俺は一歩を踏み出した。


「みな、身勝手な葬送を始めよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ