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28. 四女フェリム・グエン・ローリー〈1〉

 四女フェリム・グエン・ローリーは天真爛漫な子だった。

 悪く言えば向こう見ずで悪戯好き、いつだって俺を心配させていた。でも、誰よりも俺と遊ぶのが好きな子だった。


 褐色の肌に映える白い髪の間から、可愛らしく生えた角は魔族の証。真紅の瞳。四歳くらい。見た目は、まだ明らかに幼かった。


 ガウル村のはずれで初めて会った日も、「双子の弟だ」と言い張るグリムを追いかけ回していた(だが、彼はどう見てもドワーフの子だ)。二人で追いかけっこをして遊んでいる内、ここに迷い込んだとグリムが説明した。


 「帰る家があるなら、今のうちに戻るんだ」

「わかったのだ! よぉし、グリム、行くのだ!」


 彼女は溌剌とそう言ったのだが、立ち去ろうとする俺にいつまでもついてくる。背中の小さな羽をぱたぱたと羽ばたかせながら、「お家はまだなのだ? わらわ、もう疲れてしまったのだ」と、グリムの静止にも関わらず、俺の背後にぴったりとくっついて離れようとしない。


「あのな……ここは帰る場所のない奴が集まる場所なんだ。いいから俺の言うことを聞いて帰るんだ」

「わらわたちは今、お家に向かってるおるのだろ? のお、グリム、そうなのだろ?」

「俺たち、捨てられた、帰る場所、ない」

 背後を歩いて着いてきていたグリムが朴訥と言った。


「そうか……それは、すまなかった」

 俺は立ち止まり、素直に謝った。

 しかし、フェリムは俺の言葉を聞いていなかったのか「お家! お家! わらわのお家!」と相変わらず嬉しげに飛び回っていた。


「……わかった。そしたら俺とも追いかけっこをしよう。お前たちが勝ったら、着いてきてもいいぞ」

「追いかけっこなのだ! やるのだ! グリム、お前もいっぱい走るのだ!」

「よし、その気だな。それじゃ行くぞ。どんっ」


 俺は全速力で駆け出した。瓦礫やゴミの山の間を潜り抜け、ごつごつとした岩場の影をすり抜けて走った。


「面白いのだ! 楽しいのだ!」

 走って追いかけるグリムを置いて、フェリムは笑いながら飛んでくる。俺は大きな岩を盾にして、華麗に追走を逃れる。しかし、次の瞬間、俺は信じられない光景を目にする。


「ばこーん、なのだ!」

 という声と共にフェリムが触れた瞬間、大きな岩が勢いよく弾けて四散する。


「だめ、フェリム、触るの、壊すの、だめ!」

 グリムが後ろの方で叫んでいる。しかし、その声も彼女には全く届いていないようだった。


 飛び回りながら、あちこちに触れて、彼女に触れられたものは、次々に跡形もなく壊れていった。壊れ方は様々だった。ただ砕けて壊れたものもあれば、溶けて消えたもの、破けて散り落ちたものもあった。そうやって嬉しそうに辺りのものを端から壊して回りながら、無邪気な笑いを絶やさず、走り続ける俺を追いかけてくる。


「──ストップ、ストップだ!」

 立ち止まった俺は振り返り、声を張り上げた。その声に、フェリムは空中で急ブレーキを踏む。


「どうしたのだ? もっと遊ぶのだ!」

「この勝負、きみの勝ちだ!」

「でもわらわ、まだお前をタッチしてないのだ……」

「さあ、見てくれ! ボロいけど、ここが俺たちの家だ!」


 その言葉にフェリムは目を輝かせる。


「きみらは俺との勝負に勝った。だから、君らさえ良ければ、ここに一緒に住んでくれないか?」

「本当にいいのだ? わらわたち迷惑かけないのだ?」

「急に塩らしいじゃないか」

 俺はそう言って笑った。


「住むのだ! わらわ、このお家に住むのだ!」

「よしよし。でもな、フェリム。いいか。我が家にはいくつか約束事があるんだ。それを守れるかな?」

「守る! わらわ、絶対に守るのだ! グリムにもわらわが、きつく言って聞かせるのだ!」

 彼女は目を潤ませて叫んだ。


 騒動を聞きつけて集まった他の兄妹たちにグリムも混じり、事情を説明した。「アッシュ、またか。お前ってやつは……」とビリーは呆れ顔をして見せたが、それでも、すぐに二人を歓迎した。そんな俺たちをよそに、頭上のフェリムは、いつまでも嬉しそうに飛び回っていた。

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