25. 異物たちの晩餐〈2〉
俺たちがギルドに到着すると、ユウキは、すでに酒気を帯びた顔で出迎えた。昨日以上に饒舌で、口元にはどこか浮ついた笑みが浮かんでいた。
「飲み過ぎではないか、ユウキ殿」
「勇者なんか飲まずにやってられませんよ」
顔を真っ赤にした彼は言った。しかし、笑いながらも、その視線はどこか虚ろだった。勇者という名で呼ばれ、剣を握ることを宿命づけられた異邦人。その重みに耐えるには、こうして酔わなければならないのかもしれない。
「それよりモーリスさん。皆さんが来てくれて嬉しいんですよ」
「前向きに検討する、と言ったはずだが?」
「皆で相談して、と回答を持ち帰られるのは営業マンの失敗パタンですよ」
そう言うとユウキは酒を飲み干し、声をあげて笑った。彼の言っていることがよく理解できず、俺たちは首を傾げた。
「私、ギルドの方達に勇者様とのパーティーの件を報告してきます」
「リーザ、すまない。任せるよ」
「こっちにきて、金ならあるんです。いくらでも食べて飲んでください」
「それではお言葉に甘えようか。ロゼ、いただこう」
「はい、モーリス兄さん」
俺とイーサはユウキの正面に並んで座った。ダーリャは珍しく俺の膝の上だ。
「それで出発は?」
「ロゼさんの声が聞けて嬉しいですよ。ええと、明日ですかね」
「それは急ですね、勇者様」
「さっき、聞いたばかりですが、討伐に向かった上級冒険者パーティーが全滅したそうですよ」
「全滅?」
「ええ。森林の深部。古い廃坑の周囲を取り囲むように奴らは巣を張っている。そこに何かがあるんでしょう。全くきな臭いですよ。廃坑とは……あまりにも定番の展開だなあ」
「ユウキ殿はこの世界に来たばかりなのに、事情に詳しいというか、達観しているというか」
俺は素直な感想を述べていた。
「以前にいた世界でね、時間があればそういった類の書物を読んでいましたからねえ。まさか転生なんてものが実在するとは思いもしませんでしたが」
俺はユウキの言葉に前世でのことを思い出し、親近感を覚えた。火の灯る卓の上、酒の匂いと共に、“前世”という言葉がしんと空気に沈んだ。俺自身も経験した、あの異質な目覚め──その感覚が彼の中にもまたあるのだ。もっと様々に彼に尋ねてみたいという欲求に駆られた。
「転生。ユウキ殿はそれをどのように考えておられますか?」
「まだ夢かと思ってますよ。ほら、召喚時に見た目なんかも変わっていますから。まだ自分の魂と身体とが馴染んでいないような」
「馴染まない、ですか?」
復唱するように俺は尋ねた。
「ええ、ええ。身体の方に主導権を握られているっていうんですかね? 戦っていると、尚更それを実感させられるんです。戦いっていう野蛮なものへのどうしようもない熱情が湧くというか……。まあ考えてもみたのですが、魂にも重みがあるなんて話も聞きますが、僕の魂はこの世界にとって余計なものだと思うんですよ。この世界の重みの総量に対して、余計な一、というか。勇者なんて言ったって、この世界にとって僕は余計な重みなんですよ」
「余計な一、ですか」と俺は切り出した。
「少なくとも私には、ユウキ殿は、勇者としてこの世界が本当に必要としているものを持っているように感じられますよ」
「ハハハ。お世辞が上手いですね、モーリスさんは!」
「いえいえ、昨日、今日とあなたと話してみて、何となく感じたことを口にしたまでです」
少しだけ神妙な顔つきをした後、言葉を探すように笑って、ユウキは杯を持ち上げた。
「まあモーリスさん。僕のつまらん話はこれくらいにして、今日は飲みましょう」
「はは、そうですね。ほどほどに」
(もしこの世界に“重さ”があるのだとしたら、俺たちは、天秤に乗せられた異物なのだろうか? その重さの均衡を崩すのか、それとも、傾いた天秤を支える錘になるのか。魔王の身体に魂を宿す俺は──答えは、まだ出ていない。)
ちょうどアイリッシュが戻ってきて、俺たちは食事を楽しんだ。
皿の上に並ぶ簡素な焼き肉と、湯気を立てるスープが、緊張を少しだけ溶かしていく。あの異様な魔物。言葉にはしなかったが、明日の依頼が命を落とす危険を孕んでいることを、俺は内心で意識していた。
それでも──今夜だけは。
笑い合い、食べ、語らう。そんな時間を、俺たちは必要としていた。
明日の出発を“日の出過ぎ”と決め、酒を飲み続ける勇者ユウキを残して、俺たちはギルドを後にした。




