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0. 少年のエピローグ
もう随分と長いこと、考えている気がする。もし、自分の死に際に、誰かが泣いてくれたなら──それだけで、その死にゆく魂は、報われたと言えるのだろうか。そんなことを、もうずっと。果てなく長い時間をかけて。
誰かが泣いている。
小さな手。小さな背中。熱を帯びた涙……。それがいったい誰のものなのか、大切なもののはずなのに、何故だか、すぐに思い出すことができなかった。俺はこの自分自身が、何処にいて、誰なのかすら思い出せずにいた。
けれど、俺の名を呼びかける声が、その答えの全てを教えてくれた。そう、俺の名を呼び、俺のために泣いてくれるのは、あいつらしかいないのだ。
しかし、どのような顔で、どのような声で、どのような言葉で、俺はそれに応えたのだろう? だが、考える時間は残されていない。もうその時間が来たようだった。そんな問いも、やがて、全てが遠ざかる。声も涙も、痛みも嘆きも、温もりも愛情も、その全てが一様に遠ざかってゆく──。
そう、俺、アッシュ・グエン・ローリーは死んだのだ。