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16. ハイネからの手紙〈1〉

 魔族の襲来のあと、ガウルの街の復興は少しずつだが確実に進んでいた。あの後すぐに届けられたハイネからの手紙には、街の復興についての詳細な提案も同封されていた。それはすぐに、焼け野原で行われた民会で満場一致で承認された。それからの日々、俺も微力ながら、できることをやった。


「グリムがいたらあっという間なのになあ!」

 召喚したオーガたちと立ち働きながら、ダリアは愚痴をこぼしていたが、住人たちの街を復興させようという想いが、その作業を着実に前進させていた。


「よお。やっぱりアッシュじゃねえか!」

「パパンさんじゃないか!」

「おめえが生き返ったなんてマリンの奴が言ってたが、まさか本当だとはなあ! それにお前ちょっと死んでるうちに少し男前になったんじゃねえか」


 パパンは大声で笑いながら、泥に汚れた逞しい腕を俺の首元に絡ませて言った。彼もマリンと並ぶガウル村の古株だった。俺たち兄妹に、ガウル村の外でも生きていけるようにと、読み書きなんかも教えてくれた。多少老けたがあの頃と何も変わっていない。


 改めて街に降りてみると、俺の見知った顔に出会うことがあった。彼らは今、それぞれにこの街での役割を果たしているようだった。心なしか、彼らの表情には以前とは違う明るさが灯っているように見えた。


(それにパパンさん、男前って……? 死んではいても顔つきなどに変化があったのだろうか? 人体とは不思議なものだ)


❇︎


 あの夜、俺たちは家に帰って家族だけの時間を過ごした。

魔力を使い果たしてしまったイーサを俺が背負って、俺たち四人は帰途についた。俺の背中で寝てしまったイーサは「兄さん、兄さん、イーサはね」と夢の中でもまだ何か話したげだった。


 イーサの能力は、彼女の膨大な魔力をあの銀色の光の粒に(どうやら生命を司どる精霊たちだそうだ)変化させているらしい。それだけでなく、彼女は俺を回復させるために自分の魔力だけでは足りない部分を、大陸中を歩き、死にかけの草花や動物たちに手を合わせることで、消滅を待つだけの精霊たちの力を借り集めていたそうだ。そのどちらにも途方もない時間と努力が必要だった。


「イーサお姉様は今回の件で、あの力を殆ど使い果たしてしまったと思います」

 アイリッシュが不安げな表情を浮かべて言った。

「俺のために……」

「お兄ちゃんが落ち込む必要はないよ」

 ダリアが明るく言う。「だって、イーサちゃんはお兄ちゃんに帰ってきて欲しくて、そのためにずっと頑張ってきたんだから。せっかく頑張ったのに、お兄ちゃんがそんな顔してたら、イーサちゃん落ち込んじゃうよ」

 俺はベッドで眠っているイーサの額にそっと手を置いた。

「ありがとう、イーサ」

 妹の寝顔はどこか満足げに見えた。


 それからアイリッシュが夕食を作ってくれた。俺たちは眠っているイーサのそばでゆっくりとそれを食べた。

「簡単なものなので……」

 アイリッシュは自信なさげに言ったが、俺にはそれが、これまで食べたどんな食事よりも「美味い」と感じられた。


「ついでにね、西門の外で怪しい人たちが武器を持って待機してたから鳥さんたちが全滅させておいたって」

「こらこら、戦意の確認もせず殲滅はやりすぎなんじゃ……」

「一応あたしも見に行ったんだけど、どこの国の紋章もなかったから大丈夫かなって。徒党を組んだ野党の類かなあ。そんなことよりね、鳥さんたちも久しぶりにいっぱい遊べて楽しかったって! お礼言われちゃったよ!」

 俺は食事をとりながら楽しそうに話すダリアを見ていると、これ以上何も言うまいと思った。


 食後、アイリッシュが片づけを引き受けてくれた頃、ダリアが俺の元に一通の封筒を差し出した。

「そうだそうだ! 届いてたよ。ハイネちゃんから」


 それは末の妹、ハイネからの手紙だった。立派に押された封を切る前に、少しだけ迷った。なんとなく、こういう時のハイネは、熱がこもりすぎている気がして。──昔からそうだった。頭がいいんだが、感情だけは止められないところがある。 

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