冷たい夜の向こうで
スマホの通知音が鳴った。
「......なんだよ」
ソファの隅に転がっていたスマホを手に取り、画面を確認する。メッセージアプリの画面には、悪友・山田雄二からのメッセージが並んでいた。
『お前、帰ったんか?』
『まさかそのまま寝る気じゃねぇよな?』
『同窓会、時間までに来いよ』
悠は無意識にため息をついた。
『......わかってる』
そう返したものの、正直気が重い。成人式の後、春海と話して気持ちは揺れっぱなしだった。けど、あのまま家に閉じこもっても何も変わらない気がしていた。
「......行くか」
無理やり立ち上がり、クローゼットを開ける。適当なコートを羽織り、スマホと財布をポケットに突っ込む。鏡をちらりと見ると、さっき整えた髪がまだしっかりとキープされていた。コンタクトのおかげで視界もクリアだ。
「......ま、なんとかなるだろ」
そう呟きながら、玄関のドアを静かに閉めた。外に出ると、夜の空気が肌に突き刺さるように冷たかった。吐いた息が白く染まるのを見つめながら、悠はポケットに突っ込んだ手に力を込める。
同窓会の会場は、駅前の雑居ビルの最上階にある洒落たレストランバーらしい。雄二が「映え狙いで決めた」と言っていた場所だ。正直、そんな雰囲気に馴染める気はしなかったが、断る理由もなかった。
ビルの入り口に着き、悠は小さく息を吐いた。冷えた空気が喉に刺さるようだった。重い足取りでエレベーターのボタンを押し、扉が開くとゆっくりと乗り込む。小さな箱の中にひとりきり。自分の心臓の音がやけに響いて聞こえた。
「......ほんま、気楽でいいよな」
誰に言うでもなく呟いて、悠はゆっくりとエレベーターに乗り込んだ。扉が閉まる瞬間、心臓が小さく跳ねた気がした。
やがてエレベーターが静かに止まり、扉が開いた。そこは温かな空気が漂い、ささやかな笑い声とグラスが触れ合う音が微かに聞こえてくる。
「......行くか」
悠は胸の奥に絡みついた重苦しさを振り払うように、足を踏み出した。