再会
何よりも目を背けたかった存在——それでいて、悠の視界に最初に飛び込んできたのは、藤宮春海の姿だった。
人ごみに紛れ、足早に帰ろうとした悠の視界に、春海の姿が飛び込んできた。視線を逸らしたいのに、目が離せなかった。肩まで伸びた髪が揺れ、成人式のときと同じ綺麗な振袖を羽織っている。その顔は、あの頃と変わらない柔らかな笑みを浮かべていた。
悠は目をそらし、ポケットに突っ込んだ手に力を込めた。
「......須藤くん?」
声が追いかけてきた。振り返るべきか、一瞬迷ったが、無視するには胸に刺さるものがあり、結局足を止めた。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
春海の声は、思いのほか軽やかだった。あの過去がなかったかのように。
「......まあ、普通に。」
言葉を切り詰めることで、これ以上踏み込ませまいとする自分がいた。けれど、春海は一歩踏み出してきた。
「須藤くん、ちょっと時間あるかな?」
無意識に足が後ずさる。今さら何を話すつもりなんだ。けれど、その問いを断るのは、それこそ過去から逃げるような気がして、ため息をつきながら頷いた。
近くのカフェに入ると、春海はコーヒーを両手で包み込むようにして、小さく息を吐いた。
「須藤くん、成人式で私を見て、驚いたでしょ?」
悠は苦笑する。
「そりゃまあ、まさか来るとは思ってなかったし。」
春海が通っていたのは別の高校。成人式で会うとは思わず、ましてや声をかけられるなんて想定外だった。
「......あのときのこと、まだ気にしてる?」
不意に春海がそう言った。その声が妙に優しくて、悠は無意識に拳を握った。
「気にしてるっていうか......忘れられるわけないだろ。」
自嘲気味に呟いた言葉に、春海はふっと笑った。痛みがにじむその笑顔が、悠の胸に鈍い音を響かせる。
「私ね、気にしてないよ。」
その言葉が、心に深く突き刺さった。
......気にしてない?
悠の中に、何かが崩れ落ちる音がした。春海がずっと抱えていたはずの傷も、後悔も、何もかもが消え去ったかのように思えた。だけど、そうじゃない。彼女はただ、そう言えるほど強くなっただけだ。
「......俺は、」
何かを言いかけたが、言葉は喉の奥で詰まった。声にならない思いが、コーヒーの苦みとともに胸の中に広がっていった。