表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届かない君を見つけて  作者: Lost
第一章
1/5

プロローグ

「ずっとあなたが好きでした。私と付き合ってください」



 ──ああ、またこの夢だ。

「…ごめん、春海とは付き合えない」

 毎晩毎晩飽きもせず、未練がましいにも程がある。



 彼女は何も言わなかった。

 ただ、瞳が揺れ、ぽつりと涙が零れ落ちる。

 拭おうともしないまま、静かに頬を伝い、次々と滴る。肩がわずかに震えていた。



 失敗した。

 あの時、俺には彼女を受け入れる覚悟がなかったんだ。

 だって俺はまだあの頃の傷を抱えていて、心の中が苦しさでいっぱいだったから。

 彼女は背を向け、駆け去った。

 「…待ッ」



 目が覚める。

 最悪の目覚めだ。

 暗い天井がぼんやりと視界に広がる。息苦しい。全身が重い。

「死にてぇ」

 生きていたくない。

 こんな気持ちになるくらいなら、目を覚ますべきじゃなかった。夢の中でずっとさまよっていられた  ら、どれほど楽だっただろう。



 成人式のことを思い出す。

 久しぶりに会う面々。スーツや振袖に身を包み、懐かしさと虚勢が入り混じった会話。

 二次会、三次会と酒が回り、歩けないほど酔った。

 そしてーー春海が俺を介抱してくれた。



 スマホを手に取る。時刻は午前二時。どうせ眠れやしない。

 メッセージアプリを開き、春海の名前をタップする。

 「ごめん。あと、ありがとう」

 送った瞬間、後悔した。



 何に対しての謝罪なのか、何に対しての感謝なのか──説明すべきことは山ほどあるのに、言葉が見つからない。

 削除しようとしたが、その前に既読がついた。

「どうしたの? 酔いはもう抜けた?」

 ああ、まただ。

 彼女は昔と変わらない。何をされても、何を言われても、優しく応じる。



 本当なら、ちゃんと返事をするべきなんだろう。

 でも、俺は今さら何を言えばいい?

 言葉が見つからず、スマホを伏せる。

「結局、俺は何も成長していないな」

 昔も今も、相変わらず具体的なことは何一つ言わずに、ただ言葉を並べているだけ。

 言葉が足りないまま、ただその場をやり過ごしている。

 もう一度、春海に向き合うべきなのはわかっている。でも、そんな勇気は俺にはない。



 成人式の夜は終わったのに、俺の中の《過去》はまだ終わらない。

夢の中の春海の言葉が、また頭をよぎる。

「ずっとあなたが好きでした」

もう終わったはずの言葉が、今になって俺の中に棘のように刺さっている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ