夢を追うことは生半可なものではない(3)
ザ・ノンフィクション
『ボクと古着と下北沢 〜夢と現実のヴィンテージ〜 前編』
番組の中で出てきた、三人の若者。
それぞれ別の形で、下北沢で古着店を経営している。
最後の一人が北海道出身の宝さん(34)。
古着に対する思いが強く、長年にわたって古着に関わってきている。
だけど経営はぎりぎりで、通帳残高がわずか9万円というときもある。それでも宝さんは焦ることはない。番組スタッフが、「なぜ、焦らないんですか」と尋ねると、「古着が売れるから」と答える。だけど、売上が伸びず古着の仕入れ代金にすら事欠くような状況だった。
宝さんは数年前から、食事は一日一食にしているという。
その食事がご飯ともやしだけという日もある。
それはすべて、古着の仕入れ代金を捻出するため。
なぜそこまでして古着店を経営するのか。
彼は次のように言う。
「『好きだから』しかないんですよね」
好きなもののために人生を賭けて挑戦する。
言葉で書くとそれは美しく、誰もが目指すべき道であるような錯覚を覚える。だけど、その理想は現実とかけ離れている場合も多く、そのようなときは何かを犠牲にするしかない。
自分の今の生活か、あるいは、理想そのものか。
おそらく宝さんは自分の今の生活を犠牲にして、理想を追い求める選択をしたのだろう。そこまでいくと、どこか清々しさすら感じる。
彼はカメラに向かって、どこか淡々とした口調で、
「夢を追うってそんな生半可なものじゃないと思ってたんで」
と言った。
60分の番組の中で、この言葉が一番重たい言葉だった。




