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或る人のFIRE日記  作者: 鷺岡 拳太郎
2025年01月
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FIRE後に初めて受けた人間ドック(6)


内視鏡室の前の座席に座って自分の検査を待っていると、看護師が近づいてきて、紙コップを一つ手渡してきた。




「胃を膨らませる薬なので、飲んで下さい」




その紙コップの液体を一息に飲み干す。








胃カメラ検査には経口のものと経鼻のものがある。


つまり、内視鏡を口からいれるか、鼻からいれるかの違いになる。




それまでのがん検診ではずっと経口のものしかやっていなかったのだけど、前回、22年2月の検査のときに初めて経鼻のもので検査を行った。




鼻は口よりも入口が狭いので、始めに入れるときに圧迫感がある。だけど、一度入ってしまえば経口のものよりも苦痛は少ない。口から入れるとどうしても喉を介して入れることになるので、内視鏡のケーブルが喉を通る度に猛烈な吐き気をもよおす。やはり検査時の苦痛という点では経鼻の方が少なかった。




だけど今回人間ドックを受けたK病院では経口のものしか対応しておらず、内視鏡を口から入れて検査することになっていた。その点も、私が今回の胃カメラ検査に気が重くなっていた理由の一つだった。








内視鏡室のドアが開き、看護師が顔を出して私の名前を呼ぶ。


私は「はい」と答えて、内視鏡室の中に入った。




そこには三人の女性がいた。


二人は白い看護服を着た看護師で、モニターを見ながら作業している青い作業着を着た女性が医師のようだった。


その青い服を着た女性が私の方を振り返り、「よろしくお願いします」と言った。マスクをしていて顔はよく見えなかったが、若い女医のようだった。私は、珍しいな、と思いながら「よろしくおねがいします」と言葉を返した。




「麻酔薬になるので、二回に分けて飲みきって下さい」


ベッドの上に座っている私に、看護師が小さな器を手渡してくる。私がそれに口をつけて飲むと、ひどく粘り気のある液体でシロップのような味がした。




「それでは左側を向いて、ベッドに横になって下さい」




私はベッドに横になる。




とうとう私の胃カメラ検査が開始された。


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