命のスキル(1)
少し前に、あるドキュメンタリー番組を見た。
一人の救急救命医に密着した番組で、このような番組を見ると、「人の命を救うこと」の意味について考えさせられる。
番組のタイトルは、「命のスキル~ひとりの救急医の選択~」。
番組紹介には次のようにかかれている。
「福岡市の中心部、天神に位置する済生会福岡総合病院の救命救急センター。ここに久城正紀という医師がいる。救急車で運ばれてきたさまざまな患者の処置を行う救命救急医だ。
重症患者が搬送され、自身の目の前で患者が命を落とすことも日常の現場。まさに、地域医療の最後のとりでで闘っている。
「本当に助けられなかったのか」「自分じゃなければ・・・」。正解が分からない葛藤もある中、彼は救命と向き合い挑戦し続ける。「誰かのためになる」そう信じ、次なる舞台へ向かう軌跡を追った」
福岡市にある済生会福岡総合病院。
番組では、その病院の救命救急センターで働く久城正紀という救急救命医に一年密着していた。
ある日、久城医師が救命救急センターに詰めていると、一人の急患の連絡が入る。
救急隊員からの電話で患者の様態を聞くと、生死に関わるようなかなり厳しい状態とのことだった。
すると、久城医師はスマホで何かを打ち込み始める。
彼はそれを「トラウマコード」と呼んでいた。
人員が必要だと判断し、関連の医師に一斉コールを送ったのだ。
「トラウマコード」とは、重症の外傷患者に対し患者の到着前に専門の医師を集め、検査、輸血、手術の体制を整えるものだった。
しかし頻繁にトラウマコードを発信してしまうと、関連の医師のプライベートの時間を奪うことにもなる。そこには一つの葛藤があった。
久城医師は、トラウマコードについて次のように述べる。
「外傷の重症患者にマンパワーをどれだけ割けるか。
難しい病院の方が多い。
たくさん呼んでしまうと、その医師たちのプライベートな時間がなくなってしまう。
みんなで考えながら救急の出血に対する治療をなるべく早くすることが“理想形”。
短時間で命を扱う診療をしないといけない。
外傷診療の場合は経験があってチームで受け入れられる体制が必要」
人を救うという理想と、その前に横たわる現実。
その理想と現実の壁は、この場所にも厳然として立ちはだかっていた。




