転職したときの話(8)
私がそれから5年以上にわたって勤務することになる、企業Bの事業所。
本社から電車を乗り継いでその事業所に着くと、正門の受付で自分が中途採用された社員で今日が事業所に出社する初めての日だということを告げる。
受付にはその情報がすでに知らされていたのか、私はゲスト用のIDカードを受け取って事業所の敷地の中に入った。
セキュリティー上、敷地の入口にはゲートのようなものが設置されていて、そこでIDカードをかざさないと通門できないようになっていた。
建物の中に入るのも、そして建物の中で様々な部屋に入るのもすべてゲートが設けられていて、ゲートを通るためにそのIDカードが必要になる。
建物に入り、建物の入口から入ってすぐのところにある受付に、同じように自分が中途採用された社員である旨を告げる。
受付にいた女性は私にその場で待つように告げ、どこかに内線電話をかけた。
私は、見慣れない建物の中をどこかきょろきょろと視線を巡らせながら、これからやってくるであろう見知らぬ人を待った。
不安で押しつぶされそうになるのを、必死に耐えていた。
「どのような人が来るのだろうか」といった不安や、「本当にこれから私はこの場所でやっていけるのだろうか」といった不安。様々な不安が次から次に胸に湧き上がってくる。
そのまま建物を飛び出し、逃げ出したくなる。
だけどそんなことができるわけがない。
私は胸の中を吹き荒れる不安を必死に耐えるしかなかった。
しばらくして、一人の男性が受付にやってきた。
上下とも、企業Bの作業着を着ている。
眼鏡の奥の鋭い目が、どこか冷徹な印象を抱かせるような人だった。
これから企業Bで私の直属の上司となる、U室長だった。




