第二の人生の始め方(2)
グラスハープ奏者になるために、それまでの仕事を辞めた一人の男。
男は、さっそくグラスハープのためのワイングラスを手に入れ、グラスハープの練習を始める。
男には大学教授の父親がいたが、突然仕事をやめてグラスハープの演奏者になると言い出した男の挑戦を、父親は半ば呆れたような目で見ていた。
始めはなかなかうまく演奏ができない。
それでも、男は一人で演奏の練習を続けた。
自分の父親から「グラスハープの演奏者になるなんて考え直したほうがいい」というような言葉を掛けられても、グラスハープの練習をやめなかった。
なんとか数曲の演奏ができるようになったら、男は大きな荷台を取り付けた自転車にワイングラスを乗せて街に出る。
街でストリートミュージシャンとしてグラスハープの演奏をするためだった。
夜の街の広場に自転車を止め、グラスハープの演奏を始める。
その繊細の音は、街の雑踏に簡単にかき消される。
それでも演奏を続けた。
すると、「グラスハープ」という楽器の珍しさに、何人かの人たちが彼の前に立ち止まった。だけど、立ち止まる人の数は多くはなかった。ほとんどの人が自分の前を素通りしていく街の中を、男は黙々と演奏を続けていた。
男の前には投げ銭用の箱も置かれていたが、一晩演奏してもその箱の中に入れてもらえたお金は本当にわずかだった。
その現実を見て、男はさすがに心が折れそうになる。
だけどそれでも諦めることはなかった。
ほとんど収入が得られないとしても、ストリートミュージシャンとして街中でグラスハープの演奏を続けた。
やがて、そのグラスハープの演奏道具を運搬できる車も手に入れ、自宅から遠く離れた場所でも演奏をするようになる。
ときには国外まで行って演奏することもあった。
だけどどこで演奏しても状況は変わらなかった。
彼の演奏するグラスハープの前に多くの観客が集まるということはなかった。
そんなある時、彼に一つのチャンスが舞い込む。




