冒険の本質(6)
2024年のピオレドール賞の授賞式が、2024年12月10日、イタリアの北東部、ドロミテ山塊にある山岳リゾートで行われた。
ピオレドール賞は1992年にフランスの山岳雑誌によって創設された。
ピオレドール賞はその年に行われた最も優れたアルパインクライミングの表彰を行うもので、どの山に登ったか、どれだけ難しいルートだったかだけではなく、冒険性や探究心なども加味して受賞者は決められる。
「ピオレドール」とは、フランス語で「金のピッケル」という意味。
この賞は「登山界のアカデミー賞」とも呼ばれているらしい。
その2024年のピオレドール賞に、平出和也氏、中島健郎氏の両氏も受賞していた。
2023年に、未踏壁だったティリチミール北壁への登頂を成功させたことが評価されたものだった。
しかし、両氏は2024年7月にK2で遭難してしまっている。
当然、その授賞式に本人が出席することはなかった。
代わりに、平出氏の妻、中島氏の妻の二人が授賞式には出席しトロフィーを受け取った。トロフィーを受け取る際は、会場全体が温かい拍手に包まれていた。
番組では、そのピオレドール賞の授賞式会場での、他のクライマーへのインタビュー映像も流された。
そのインタビューの中で、同じくピオレドール賞を受賞したアメリカのクライマーは、平出氏、中島氏について次のような言葉を口にした。
「彼らは成功を求めるのではなく その経験を追求していたのです」
「それこそが冒険の本質です」
K2西壁という極限の場所に挑戦し、そして遭難した平出氏と中島氏。
そのK2西壁という場所は、死と隣合わせの場所だった。
だけど、そのような場所だからこそ、逆に強く「生」を感じられる場所だったのかもしれない。そのような経験を二人は求めていたのかもしれない。
私たちの日常生活の中で「死」は希釈されてしまい、その日々の中で自分の「死」を感じることはない。
だけど、「死」はいつだってすぐそばにいる。
ただ、それは決して悲観するべきものではなく、「死」が隣に立っているからこそ逆に、今この場の「生」を感じることができるし、その「生」のありがたみに感謝することができる。
二人の「冒険」は、そんな当たり前のことを改めて思い出させてくれたような気がした。




