ALS嘱託殺人事件(1)
6月13日の日経新聞に、次のような記事が載っていた。
「ALS嘱託殺人、医師の上告棄却 懲役18年が確定へ
最高裁第2小法廷(高須順一裁判長)は12日までに、京都市で2019年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者(当時51)の依頼に応じ殺害したなどとして、嘱託殺人などの罪に問われた医師の大久保愉一被告(47)の上告を棄却する決定をした。10日付。懲役18年とした一、二審判決が確定する。」
事件は、2019年に京都市で発生した。
発生した当時もこの事件は世間の耳目を集め、ニュースなどでも色々と報道されていた記憶がある。
事件には三人の人物が登場する。
一人目は被害者となった林優里さん。
亡くなった当時は51歳だった。
同志社大を卒業後にデパートで勤務していたが、その後、設計士を目指して渡米し、ニューヨークで長く暮らした。
帰国後は東京の設計事務所で働いていたが、2011年にALSを発症してしまう。独身で、実家のある京都に戻る。
母親は20年前に亡くなっていた。父親は京都市内に居住していたが、高齢の父親にかかる介護負担を気遣い、バリアフリーのマンションで6年半にわたって一人暮らしを続けた。
ヘルパーが24時間体制で在宅の患者に付き添っているような状態で、介護支援を行う障害者向けの福祉サービス「重度訪問介護」を利用していた。胃ろうで食事を行っており、自発呼吸はあった。晩年は寝たきりで、意思疎通はパソコンの視線入力や文字盤を使って行っていた。
発症初期は呼吸器の装着に同意していたが、その後、拒否に転じたという。
ALS患者は呼吸筋が動かなくなり、いずれ呼吸が自分でできなくなる。
そうなると当然亡くなってしまうのだが、それを防ぐためには呼吸器を装着する必要がある。ただし、呼吸器を装着するともう二度と取り外せなくなる。身体は全く動かず、呼吸すらも自分ひとりではできない状態で生き続けなければならなくなる。
「家族に負担をかけたくない」と人工呼吸器をつけない選択をするALS患者は約7割にものぼるという。
被害者となった林さんは、事件の1年前から安楽死への願望をブログやツイッターで発信するようになっていた。