裁判所ガイドツアーに参加してきた(8)
ガイド役の裁判官の説明も終わり、裁判官は法廷側から傍聴席側に移動して私たちと同じように傍聴席に座った。
この同じ法廷でこれから、ある実際の事件における「口頭弁論期日」が行われることになっていた。
事件を担当することになった裁判官は訴状をチェックし、形式的に不備がなければ、公開の法廷で裁判を行う日時(口頭弁論期日)を指定し、その日時に裁判所に来るように原告と被告を呼び出す。その口頭弁論期日までに被告は裁判所に答弁書を提出しなければならない。答弁書を提出しなければ、原告側の訴えを認めることになってしまう。
その口頭弁論の期日決めが法廷で行われることになっていた。
私たちが傍聴席に座っていると、一人の男性が法廷に入ってきた。
私たち傍聴人が入ってきた入口と同じ入口から入ってきて、傍聴席に座っている私たちを見て少し戸惑った様子を見せる。それはそうだろう。「口頭弁論期日」が行われる小さな法廷に、八人もの傍聴人がいたのだから。
彼は傍聴席を横切り、法廷内に入る。
そのまま原告席に座った。
おそらく、原告側の代理人(弁護士)なのだろう。
今回の事件は、「過払金の返還請求」という事件だった。
原告側の企業が間違えて被告人に不要な手当を支払ってしまい、その過払金の返還を被告人に求める訴訟とのことだった。
原告側の代理人が、鞄から書類や手帳を取り出して準備を始める。
しばらくして、裁判官席のすぐとなりの扉が開いて、もう一人の男性が入ってきた。傍聴人や弁護士が入ってきた扉とは別の扉だ。
今回の事件を担当する裁判官だ。
傍聴席に座っていたガイド役の裁判官が立って一礼をする。わたしたちも彼に倣って、立ち上がって一礼をした。
それが、裁判が始まるときの儀式だった。