人生で一番暗かった夜(7)
不動産会社の担当者から「引っ越し」を告げられた日。
その日の夜、私は全く眠ることが出来なかった。
これからどうするべきか。
どのような手を打つべきか。
このまま私の「過失」を黙っておくということは可能なのか。
その問題についてひたすら考えていた。
明日からはまた企業Aで、朝から午後10時までの長時間労働の毎日が待っている。睡眠をとらないと身体はもたない。
そう考え、ベッドの上に横になってはいたのだけど、水漏れ事故のことがどうしても頭から離れなかった。もし私の方で何かしらのアクションを取る必要があるのだとしたら、一日も早くそのアクションを取る必要がある。行動が遅くなればなるほど、問題は拡大していく。本当に後戻りできなくなる。そのことを本能的に感じていたので、その日のうちに自分の中で何かしらの結論を出す必要があるとも思っていた。
だけど、私の中でいろいろな考えがぐるぐると回り続けて、自分が今、何をすべきかも分からなくなってしまいそうだった。
結局、一睡もできずに夜明けを迎えようとしていた。
今、思い出しても、その夜は本当に苦しかった。
企業Aにおける長時間労働。
その中で発生した水漏れ事故。
その二つは夜の間中、私を苛み続けていた。
突然、目の前が全く見通すことができなくなった闇に包まれてしまったかのような気がした。
夜明け近くになって、私はようやくひとつの結論を出した。
「朝起きたら、水漏れ事故についてすぐに保険会社に連絡をしよう。そしてその日の午前中に不動産会社にも電話をして、私が不注意で風呂の水を溢れさせて、台所の床を水浸しにしたことをすべて正直に話そう」
どう考えても、このまま黙っているわけにはいかなかった。
始めから、「正直にすべて話す」以外の選択肢なんて、私には与えられていなかった。