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或る人のFIRE日記  作者: 鷺岡 拳太郎
2025年03月
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人生で一番暗かった夜(6)


不動産会社の担当者と水周りの業者は、私を残して帰っていった。


それまでの騒がしさが夢であったかのように、私は突然一人だけの部屋に取り残された。








どこかその部屋が非現実の世界であるかのような気がした。




いつもの日曜日のはずだった。


それなのに、私の一つの不注意のせいで、突然私の目の前には「引っ越し」という文字が突きつけられていた。


何かまずいことが目の前で起きている。


そのことは認識しているのだけど、それを正面から直視することを私の脳が拒否していた。


私は完全に思考が停止し、ただ目の前の現実から逃避するかのように、ふらふらとした足取りで遅い昼食を近所のスーパーに買いに行った。


その昼食は全く味がしなかった。








午後四時になって、家にガス会社の担当者が訪れた。


私がそのとき住んでいた部屋から◯号室に引っ越すにあたって、ガスの契約が必要だったのだ。ガス会社への連絡は不動産会社の担当者の方でしてくれていた。


私はガスの手続きの仕方についてその担当者の話を聞きながら、ようやく目の前の現実を認識し始める。いくら現実を拒絶しようとしても、現実から逃避しようとしても、その現実は変わること無く目の前にある。そのことをようやく私は一つの事実として認識できるようになった。




少なくとも対処法を考える必要があった。


担当者が帰っていくと、私は一人だけの部屋で、その「対処法」について考え始めた。








私が不注意で風呂の水を溢れさせて台所の床を水浸しにした。




そのことをこのまま黙っているということは可能なのだろうか。


もし、そのことをそのまま黙っていると、その先にはどのような未来が起こり得るのだろうか。




おそらく業者は排水管の確認のために床を剥がすだろう。


そこで排水管からは水漏れがないことを発見する。


そしてその時に、床が大量の水を含んだ形跡も見つかるかもしれない。


そしてもしそのときになって不動産会社から追求されて、「実は私の不注意で床を濡らしてしまいました」と告白するとしたら……。




当然、「なぜそのことを黙っていた」ということを今度は厳しく追求されることになる。








どう考えても「このまま黙っている」という選択肢の延長線上の未来に、希望を持てるような要素は何一つ無いような気がした。


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