前歯が折れた(2)
会社員時代、朝、更衣室で作業着に着替え、居室に向かう途中で自動販売機に寄ってコーヒーを買うのが日課だった。
そしてパソコンを起動させ、コーヒーを飲みながら、昨日から新しく来ているメールを確認する。
仕事の中では多大なストレスに晒されていた。
私は別にタバコを吸うわけでもなかったので、そのストレスに対する対処法は甘いコーヒーを飲むくらいだった。甘いコーヒーを飲むという精神的にプラスの行為と、仕事というマイナスの行為。その二つを組み合わせることによって、精神を保ちながら、日々、なんとか仕事を前に進めていた。
コーヒーを飲み終えると、私はまた自動販売機に寄り再びコーヒーを買う。本当に精神的に疲弊しているときなどは、より直接的な効果を得たいという思いに駆られ、いわゆる「ジュース」と呼ばれる甘い飲料を買うこともあった。
どう考えても体に良くなかった。
何よりも、歯の健康にとって良くなかったのだと思う。
一応は一日二回はしっかり歯を磨くようにはしていたのだけど、その磨き方もあまりよくなかったのだろう。よく虫歯ができていた。
しかも、歯医者に行くことも私にとっては大きなストレスだったので、その虫歯もひどくなって、どうにも痛みに我慢できなくなってから歯医者に行くという始末だった。
ひどくなってからの虫歯治療だったので、歯も大きく削ることになってしまったし、また、長期にわたって歯医者に通い続けることも珍しくはなかった。本当に悪循環だった。
FIRE生活に移行して、会社という多大なストレス源が無くなった。
それもあり、日常的に加糖コーヒーを飲む必要もなくなったし、甘い「ジュース」を飲む必要もなくなった。
それによって虫歯になることも少なくなったのだけど、私の歯にはそれ以前の「つけ」のようなものが溜まってしまっているのだろう。
今回の「前歯が折れた」というのも、そのつけの一つだった。