前歯が折れた(1)
二週間ほど前の出来事だ。
朝、定期的な習慣として行っている、デンタルフロスによる歯間清掃中のことだった。
右上の前歯の歯間にデンタルフロスを通して前後に動かしている時に、突然手に感じていた抵抗が消えた。口の中に、何か異物があるような感触がある。固くて、ちょうど一本の歯くらいの大きさ。
私は嫌な予感を感じながら、その異物を口の外に出した。
やはり、それは歯だった。
歯間清掃中に歯って折れるものなのか。
その折れた歯を観察する。
すると、その歯の根本の中央に、金属の棒のようなものがついている。どうやらその棒は、以前、虫歯治療としてその前歯を削り、削った箇所を金属で覆う際に土台として歯の中に埋め込まれていたもののようだった。
経年劣化なのか、その金属の棒を支えていた歯の根元から、その金属の棒が外れてしまったのだ。
私は顔が青くなる。
特に歯の痛み自体はまったくなかったが、歯が折れたまま放置するわけにもいかない。当然歯医者に通う必要がある。
それは、また多額の治療費がかかることを意味していた。
仕方がないので歯医者の予約をしようと思ったが、ふと、その二週間後に歯医者の予約が入っていることを思い出した。
前回の虫歯治療が完了した際に、定期検査のためにその三ヶ月後に歯医者の予約をしていて、その予約日が二週間後にせまっていた。
私はその定期検査の時に、前歯が折れたことを歯医者に伝えようと決めた。