第81話 十六日、③
(行程)京の自宅に到着
(原文)
夜更けて来れば、所々も見えず。
京に入り立ちて嬉し。
家に到りて門に入るに、月明かければ、いとよく有様見ゆ。
聞きしよりもましていふかひなくぞ、毀れ破れたる。
家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり。
中垣こそあれ、ひとつ家のやうなれば望みて預れるなり。
さるは、便りごとに物も絶えず得させたり。
今宵、「かかること」と、声高にものも言はせず。
いとは辛く見ゆれど、志はせむとす。
(舞夢訳)
夜も更けてから京の街に入って来たので、いろいろと見たいところはあるのですが、(暗いので)よく見えません。
ただ、今は京の都にいる、それだけでも、うれしいのです。
ついに、屋敷に着きました。
門の中に入りますと、月の光が明るいので、屋敷の様子が、よくわかります。
前もって(様子を)聞いていたのですが、それ以上に、言葉にはできないほど、壊れておりますし、あちこちボロボロになっておりました。
(情けないことですが)留守の家を預けた人の気持ちも、荒れて杜撰なものだった、ということなのです。
(そもそも)お隣の屋敷の方が、「中垣を一つ隔てただけの、一つの同じ家のようでありますので、私どもに預からせていただきたい」と言って来たから、預けたのですが。
それもあって、当方では、京の朝廷を含め、京に便りを出す時には、必ず何らかの物品をお礼として、届けていたのです。
ただ、今夜は、京に戻ったばかりです。
「こんなひどい有様で」など、大声を出さないようにします。
実に辛く、悔しいことですが、それでもお礼はしようと思います。
遠国土佐の国守を難儀しながらも立派に終え、長く辛い船旅を終えて、ようやく夢に見た京の都そして、我が家に戻った。
しかし、隣人に信頼して預けていた屋敷は、酷いとしか言いようがない荒れ放題。
「隣人が希望したから預かってもらったのに、心づけも欠かすことはなかったのに」
そう怒ったところで、すでに夜も遅い。
土佐から戻った全員が、長旅で疲労困憊。
「せめて、今夜は怒鳴り込むようなことはしない」と気持ちを抑える。
「それでも、お礼を渡すか」と苦虫を嚙み潰す。
「安請け合い」「謝礼はしっかり受け取る」「しかし、仕事はしない」
京都人によくある批判と同じ。
勝手に使ったり、火事にしなかっただけでも、感謝するべきかもしれない。




