第71話 七日、②
(行程)淀川をさかのぼる。
(原文)
一歌にことの飽かねば、今一つ、
「疾くと思ふ 船悩ますは 我がために 水のこころの 浅ききなりけり」
この歌は、都近くなりぬる喜びに堪へずして言へるなるべし。
淡路の御の歌に劣れり。
「ねたき、いはざらましものを」とくやしがるうちに夜になりて寢にけり。
(舞夢訳)
歌を一首詠んだのですが、飽き足らないので、もう一首、詠みました。
さっさと(都に)帰りたい)と思っているのに、肝心の船を困らせるのは、きっと私に対して、川の水の心が、浅いからなのでしょう。
この歌は、ようやく京の都が近くなった喜び(希望)に対して、船の進みを邪魔するような川の水の浅さに、イライラとして我慢できずに、口から出てしまったのでしょう。
それにしても、淡路のお方の歌には、負けたと思われたようで、
「ああ悔しい、歌なんて詠まなければよかった」と悔しがっていると、夜になったので、そのまま寝てしまいました。
長旅で疲れ果てて、一刻も早く自宅に戻りたい。
でも、自宅近くになって、道路は大渋滞。
その心理に近い。
イライラしても、どうにもならない。
それがわかっていても、イライラする。
希代の歌人、紀貫之も、普通の人なのである。




