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第3話  廿三日、八木のやすのりといふ人あり。

(滞在地)大津・舟戸


(原文)

廿三日、八木のやすのりといふ人あり。

この人、国に必ずしもいひ使ふ者にもあらざなり。

これぞたわしきやうにて馬のはなむけしたる。

守からにやあらむ、国人の心の常として今はとて見えざなるを、心あるものは恥ぢずになむ来ける。

これは物によりてほむるにしもあらず。


※八木のやすのり

「やすのり」は「康教」あるいは「泰典」とされる。

土佐の国の有名氏族の人。

かつて京都で暮らしたことがあったらしい。

※国に必ずしもいひ使ふ者にもあらざなり

必ずしも、国司庁の命令を受け、使い立てするような身分のお方ではありません。

※たわしきようにて

「たわしき」は「立派な」の意味。

※守からにやあらむ

国守の仕事柄、お人柄が良かったからでしょうか。

※国人

「国人」は、その土地に住んでいる人。


(舞夢訳)

二十三日になりました。

八木やすのりという、(立派な)方が(ご挨拶に)お見えになりました。

このお方は、必ずしも、国司庁の命令を受け、使い立てするような身分のお方ではありません。

(この国で、相当な実力を持たれている立派な、お方です)

ところが、このお方は、極めて格式が高く、正式な儀礼に則して、餞別をなされたのです。

それは、(前任の)国守の仕事柄、お人柄が良かったからでしょうか。

地方の国人のほとんどは、(新任の国守に気兼ねをして)、今を限りとしていなくなる前任の国守などには、派手な見送りなどはしないものなのですが、さすがに立派な心を持った人は、そんなことを気にせずに、お見送りに来られたのです。

これは、餞別で立派な品々をいただいたから、褒めているのではありません。



当時、僻地の土佐は、流刑地だった。

京の都で、大貴族ではなかったけれど、それなりの邸宅に住んでいた紀貫之は、土佐の国庁の建物の貧相さ、そこから見える山村風景の寂しさに、驚いたことと思われる。

京都での経験や常識が通用しない、限界集落のような、異世界である。

そのような「お先真っ暗」の国守生活の中で、地域豪族でありながら、過去に京都暮らしの経験を持つ「八木やすのり」は、紀貫之にとって、数少ない心許せる相談相手だったと思われる。

また、「八木やすのり」としても、国守に協力し、親交を深めることは、地域における自分の立場を、更に強化することになった。

それもあって、「八木やすのり」は、去り行く紀貫之にも、精一杯の誠意を示したと思われる。

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