第26話 十一日、②
(通過地)羽根
(原文)
今し、羽根といふ所に来ぬ。
わかき童、この所の名を聞きて
「羽根といふ所は、鳥の羽のやうにやある」
といふ。
まだ幼き童のことなれば、人々笑ふ。
時にありける女の童なむ、この歌を詠める、
「まことにて 名に聞く所 はねならば 飛ぶがごとくに 都へもがな」
とぞいへる。
男も女も「いかで疾く京へもがなと思ふ心あれば、この歌佳しとにはあらねど、
「実に」と思ひて人々忘れず。
※羽根
室戸市羽根。高知県東部。土佐湾に望み、「奈半利」から東南8㌔の地点。
※ありける女の童
例の女の子。七日に歌を詠んだ例の女の子
(舞夢訳)
(お昼の)今、羽根という所に来ました。
幼い子供が、ここの地名を聞いて、「羽根という所は、鳥の羽みたいな所なの?」と(素朴な)言葉を口にします。
まだ幼い子供の言葉なので、船上の人々が、面白がって笑っていると、
例の女の子が、この歌を詠みました。
「本当に、その地名の通りの羽根ならば、(私たちも鳥になって)飛ぶように京の都に帰りたいと思うのです」
この歌を聞いた男の人も女の人も、とにかく早く京の都に戻りたいと思う心が強いので、この歌そのものが素晴らしい出来とは思わないものの、「その通りだね」と、この歌を忘れることはできません。




