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第21話九日、②
(行程)大湊から奈半の泊へ
(原文)
かくて宇多の松原を行き過ぐ。
その松の数幾そ許、幾千年経たりと知らず。
本ごとに波打ち寄せ、枝ごとに鶴ぞ飛びかよふ。
おもしろしと見るに堪へずして船人のよめる歌、
「見渡せば 松の末ごとに 住む鶴は千代のどちとぞ 思ふべらなる」
とや。
この歌はところを見るにえ勝らず。
※宇多の松原
「土佐日記」以外の文献では見られない地名で、未詳。
手結岬の御殿の鼻にいたる6キロほどの浜辺らしい。
さて、船は宇多の松原を行き過ぎます。
目に見える松原の松の木は、(とにかく多くて)いったい何本あるのやら、数千年生え続けているのか、全く見当もつきません。
その数え切れない松の木の根元ごとに波が打ち寄せ、枝ごとに鶴が飛び交います。
この絶景を見ているだけでは物足りなくて、船上の人(紀貫之)が詠んだ歌は、
白砂を見渡せば、松の根元ごとに鶴が舞っております。
おそらく鶴は、千年の友と思い、舞い続けるのでしょう。
船上の人(紀貫之)は、(詠み終えてから)「ひどくはない歌だけれど、この絶景に勝るとは、とても言えない」と語られました。




