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第18話 ある人の子の

(滞在地)大湊


(原文)

ある人の子の童なる、ひそかにいふ。

「まろこの歌の返しせむ」といふ。

驚きて

「いとをかしきことかな。詠みてむやは。詠みつべくば早言へかし」といふ。

まからずとて立ちぬる人を待ちてよまむ」とて求めけるを、夜更けぬとにやありけむ、やがていにけり。

「そもそもいかが詠んだる」といぶかしがりて問ふ。

この童、さすがに恥じて言わず。

強ひて問へば言へる歌、

「ゆく人も とまるも袖の なみだ川 みぎはのみこそ 濡れ勝りけれ」

となむ詠める。

かくはいふものか、うつくしければにやあらむ、いと思はずなり。

「童ごとにては何かはせむ、女翁ておしつべし」

「悪しくもあれ、いかにもあれ、便りあらばやらむ」とておかれぬめり。


※ある人の子の童

 紀貫之の子供。女の子とされている。


(舞夢訳)

ある人のお子様(紀貫之の子供)が、そっと口に出しました。

「(仕方ないので)私がお返しの歌を詠みましょう」と言うのです。

一同は、驚いてしまい

「それはまたおもしろいね、本当に詠めるの?読めるのなら早く詠んでお返ししてあげて」と声をかけます。

その子供は、

「『まだ帰りません』と言って席を立った人が戻るの待って詠みます」と言うので、皆で探したのですが、さすがに夜も更けてしまったからか(あるいは、いつになっても返歌がない気まずさを感じたのか)、その人はお帰りになった後でした。

「さて、どう詠んだの?」と皆が催促するので、子供は、当初は遠慮がちでしたが、無理に聞き出しました。


「京の都に戻る人も、この地に残される人も、辛い別れなので、袖に涙が流れます」

「袖に流れる涙川の水際は、涙が増すばかりなので、ますます濡れるばかりなのです」


「ものは言いよう」なのか、子供なのに、上手に詠めていると思います。

こんな歌を詠めるようになっていたとは、全く予想をしておりませんでした。


主人(紀貫之)は、

「子供が詠んだとは、体裁がよろしくない」

「年輩の祖父母が詠んだということにしよう」

「悪かろうが、どうであろうが、今後何かのついでに、届けるとしよう」

と言われ、子供の詠んだ歌を、そのままにしておかれました。



「田舎特有の無神経な歌詠み客」に呆れかえっていた一行は、貫之の子供が詠んだ歌に、胸を撫でおろす。

ただ、当の田舎歌詠みは、居心地が悪過ぎて、帰ってしまった。

「何故、返歌がないのか」その理由も理解できなかったと思われる。

そもそも、これから船出する人々に対して、これから起こり得る「海難事故、その後の涙」につながる歌を、「朗々と」詠んでしまった、そんな無神経極まりない輩なのだから。

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