第16話 七日②
(滞在地)大湊
(原文)
かかる間に人の家の、池と名ある所より鯉はなくて鮒よりはじめて川のも、海のも、異物ども、長櫃に荷続けておこせたり。
若菜ぞ今日をば知らせたる。歌あり。その歌、
淺茅生の 野辺にしあれば 水もなき 池に摘みつる 若菜なりけり
いとをかしかし。
この池といふは所の名なり。
よき人の男につきて下りて住みけるなり。
この長櫃の物は皆人、童までにくれたれば、飽き滿ちて、舟子どもは腹皷をうちて海をさへおどろかして波たてつべし。
※人の家の、池と名ある所より
「池」と言う場所にお住まいになられているお方から
現在南国市十市
※鯉はなくて
土佐では、鯉はいなかった。
※若菜ぞ今日をば
正月七日は、級友では「若菜摘み」の行事があった。七種類の野草を摘み、羹として供した。邪気を祓い、万病を除くと信じられていた。
※淺茅生の~
浅茅の生えている場所。
都に住み、都で教育を施された知性ある女性が、帰京する前国司に贈った。
(舞夢訳)
そうこうしておりますと、「池」と言う場所にお住まいになられているお方から(の贈り物ということで)、鯉は入っておりませんが、鮒をはじめとして、地元の川や海の産物や、いろいろの物を長櫃に満載して、使いの者が懸命に担ぎ続けて来ました。
その中でも、若菜が、京が「七草を食する日ですよ」と教えてくれます。
そして、贈り物には、歌が添えられております。その歌は、
(京の都と異なり)淺茅生しか生えていない田舎の野辺ではありますが、水をたたえた「池」ではなくて(単に地名の「池」と言う場所に住むだけの私が)摘んだ若菜をお届けいたします。
なかなかに、面白い歌でありました。
(贈り主の言われる通り)、この「池」と言う場所は「地名」なのです。
身分の高い(京都で育ち教育を受けた)女性が、夫に従い、その地に住みつかれたのです。
贈られた長櫃の中の物は、船の中の全員と、子供たちで分けていただきました。
とにかく全員が満腹で、船頭などは、腹をポンポンとたたいて、海まで驚かせたので、ますます波を立ててしまいそうです。
貫之は、京の都でもトップランクの歌人。
もしかすると、「池」に住む女性にも、歌の詠み方を指南していたのかもしれない。




