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こんびに!!(2)

「いらっしゃいませ~」


 店内に入ると爽やかな挨拶とともに、揚げ物の香ばしい匂いが肺一杯に広がる。ノノカは初めて会う異世界の住人である店員に軽く会釈をすると、すぐさま店の奥まで進み、商品を見る振りをしながら恐る恐る周囲の様子を窺う。

 棚に並ぶ商品はどれも見覚えのあるものばかりで不審な点はなく、店内放送はいつも通り良く分からないキャンペーンの告知をしている。


「ここって、本当に異世界なんですか。あの店員さん、むしろ元の世界より丁寧ですし、身なりもピシッとしてるような………」


 ノノカは声を潜めつつ、商品を物色するこのみの袖を引っ張る。


「ほらっ、見て見て、ノノカちゃん!これ新しい味でてたのずっと気になってたんだよね、買ってみる?」


 このみはノノカの話を遮り、手に取ったチョコ菓子をグイと突き出す。


「えっ、あっ、食べてみたいですけど、今はそんなことしてる場合じゃ………」


「すいません、からあげクンここにあるの全部お願いします」


「私はフラッペ買い占め」


 レジからはうるるとユウの能天気な声が聞こえる。


「ちょっとユウ先輩、このみ先輩の奢りだからって無茶な買い方しないでください。うるるちゃんもあんまり無駄遣いしないで。まだ始まったばかりなんだからお金は計画的に使わないと」


「えへへっ、大丈夫だよ、ノノカちゃん。電子決済も使えるみたいだから。異世界もキャッシュレスが基本なんだね」


「私の方はキャッシュレスどころか無料。全品大放出だって。買わないと損」


「えっ!?いや、そんなわけない………」


「いえ、お客様、異世界コンビニは無料が基本!さらにさらに、いつでもどこでもご利用可能!!しかもしかも、元の世界に帰りたい場合はそちらの裏口からすぐに帰れるオマケつきです!!!さぁさぁ、どうぞこちらにお越しください」


 満面の笑みを浮かべた店員はノノカの腕をガシッと掴み、店の奥にある扉の方にグイグイと引きずっていく。


「ちょっと、やめてください!!このみ先輩、助けてくださいっ!!」


「え〜、そこから帰れるんだ〜。良かったね、ノノカちゃん。少し用事あるからさ、先に戻ってて」


「えへへっ、私達はもう少しココにいるね」


「グッバイ、ノノカ。私も行けたら行く」


「そんな、どうして…………………そっか、そうですね。簡単に行き来できるなら、一人で行っても大丈夫ですよね。じゃあ、また後で」


 ノノカはそう言うと、フラフラとした足取りで奥に続くドアに向かう。


「……ちょ………まちっ…………きい……………」


 どこからか壊れたラジオが最後の力を振り絞って電波を拾い上げたかのような断片的な音が響き、ドアノブに手をかけたノノカは歩みを止めた。


「もう、うるさいな〜。邪魔しないで、私は帰るんだから」


「待ちなさいって、言ってるでしょ!!」


 瞬間、大音量の怒声がノノカの耳管を駆け巡り、大地が反転したかのような衝撃が走ると、ぐにゃりと空間が歪み、見慣れたコンビニの内装が崩れていく。

 恐怖に腕で顔を覆ったノノカがゆっくりと目を開くと、先ほどまで買い物をしていたはずのコンビニはどこにもなく、仲間達は地面に突っ伏すように倒れている。


「えっ……皆どうして………私は何してたんだっけ…………コンビニで……………」


「まだ変になっちゃってるの!?しっかりしてよね!!さっきまで和気藹々と話しながら歩いてたのに、いきなり4人が散り散りになって、ブツブツ言いながら茂みの方に歩きだしたのよ!!私をからかってるのかと思ったら、茂みの奥から変な動物出てくるし、なんかバタバタ倒れてくし、止めようとしたらうるさいって言われるし、メチャクチャ怖かったんだから!!」


 少女は瞳に微かに涙を浮かべ、堰を切ったように語りかける。


「ご、ごめんなさい、不安にさせちゃって………その前にひとつ気になってることがあるんだけど………」


「なに?」


「………どちら様ですか?」


 ノノカを抱きしめている少女の指先に力が込められ、爪が肩に食い込んだ。

 ノノカはその微かな痛みを口から発することは出来なかった。

からあげクン全制覇は漢の浪漫

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