すてーたす!(2)
「ぐへっ!!」
「うるるちゃん大丈夫!?」
転移早々地面に上半身から倒れ込んだうるるをノノカが抱き起こす。
「うぅ…なんか階段の最後の一団を踏み外したみたいな地味な衝撃が………皆さんは何で平気なんですか………」
「場面転換といえばジャンプ、お笑い番組の基本」
「お約束だよね~」
「えっ、そういうイメージだったんですか!?私としては青春映画でありがちな未来に向かってジャンプ的なのをやりたかったんですけど」
「おほんっ、盛り上がってくれるのは喜ばしいことなんだけど、番組的にはまずは異世界に転移した感想が欲しいところかな」
アールピーの言葉うけ、一同はプレーリードッグのように一糸乱れぬ動きで周囲を見回した。
「ここは………森だね。特に変哲のない」
「わ~、なんか普通で反応しづらいです~」
「絵的に地味、チェンジで」
少女達の目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。植生こそ日本の木々とは異なるものの、一目で異世界に来たと分かるようなインパクトに欠けているのは否めない。
「散々な言われようだね………じゃあ、こういうのはどうかな。このみ『ステータスオープン』とそれっぽく言ってくれるかな」
「えっ、私ご指名!?しかも、それっぽくとか無茶ぶりだし………緊張するなぁ。こんな感じで良いかな、『ステータスオープン』!!」
このみが上空に向かい右手を掲げ凛々しい声で叫ぶと、スクリーン上の画面が浮かび上がる。そこにはこのみに関するデータが表示されており、身長・体重といった馴染み深いものから、攻撃力、魔力といったおよそ現実世界では縁のない数値まで、ズラリと並んでいる。
「身長と体重………!?ちょ~~~~~~~~~~~~っ!!!ダメだって、ダメダメ、これはルール違反でしょ!!閉じて、今すぐ!!クローズクローズ!!」
「どうしたんだい、下界の人間は毎回似たような反応をするけれど、ただの身体的特徴を示した数値じゃないか。間違っているわけでもないのに、どうして隠すのかなぁ」
「間違ってないから余計に困るのっ!!」
このみはステータス画面を隠すべく前に立ちはだかるが、画面は肉体をすり抜けるように前へ前へと自動で移動し、3人は顎に手を当てマジマジと数値に目を通す。
「へへっ、このみ先輩って意外とあるんですね………」
「着痩せ」
「ここまで一覧になっちゃうんだ、私の番じゃなくて良かった…………」
このみがキッと睨みつけると、3人は即座に視線を逸らした。
「このままじゃ、話が進まないな………仕方ない、ステータス画面から体重は消しておくよ、これでいいかい?」
「スリーサイズも!!」
アールピーがため息とともに尻尾を一度大きく振ると、画面から個人情報が取り払われ、通常のゲームでも見られるようなシンプルなものに切り替わった。
「テレレレッテッテレー、エンタメ性が落ちて視認性が上がった」
「尊厳と等価交換のエンタメ性とか流行らないから!!はぁ、えっと、これが私のステータスなんだね。攻撃力とか魔力とか私あんまりゲームやらないから、見てもピンとこないかも。ノノカちゃんってゲームとかやる人だっけ、なにか分かる?」
「私もそこまで詳しいわけじゃないですけど、このレベル1ってのは何かの間違いですよね。私達さっきあんなに強かったわけですし、多分レベル99とかの誤植だと思うんですけど」
「確かにこれじゃ無双できない。修正求む」
「えへへ、私はレベル999でお願いします、デコピンとかで魔王倒してドヤりたいので」
アールピーは画面を見つめ、少し時間が経ってから大きくひとつ欠伸をし、後ろ足で顔を掻いた。
「ん?アールピー、なんで何も言わないの?これも番組の見せ場の一つなんでしょ?早く直さないと視聴者さんから突っ込まれちゃうと思うけど」
「まぁ、ステータスのことは一旦忘れて、せっかく異世界に来たわけだし、大いなる冒険の旅路へ歩みだそうじゃないか!!」
「いやいやいや、私にステータス画面を開かせたのはアールピーでしょ。………あのさ、あくまで単なる確認なんだけどさ、私達ってさっきみたいに最初から強いってことでいいんだよね?」
このみの問いかけにアールピーはスッと顔を伏せた。