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てんせい!

「『ゴッドブレス』………直訳すると『神の息』」


「神といえば半裸。半裸のオッサンの吐息………臭そう」


「違う、神の祝福!!君たちの世界の宗教でいうところの『幸多からんことを』って奴だよ!!はぁ、調子が狂うな」


 真っ白なフワフワのぬいぐるみのようなソレは、ため息をつきながら台座の上から少女たちを見下ろす。


「ユウ先輩、私の頬っぺた叩いて貰っていいですか。なんか意味不明でついてけなくて」


 パチンっという打擲音が鳴り響く。


「無駄。叩いたところでついていけない。私も」


「それなら、なんで叩いたんですか!うるるちゃんも、どうしてちょっと嬉しそうなの!?」


「へへっ、アレですかね、きっとこれは私の夢の中なんですよ。えっと、ちょっと待ってくださいね。すぅぅ…………ワーッ!!!!…………おかしいな、夢の中にいる時は絶対叫んだり走ったり出来ないのに、見てください、私ピョンピョンしてません?」


 うるるは意図的に体を大きく動かし、自らが夢の世界にいるのか確かめようとする。


「みんな一旦落ち着いて。今はアールピーさんの話を聞こう」


 このみは自分に言い聞かせるように言った。


「ありがとう、助かるよ。もう一度自己紹介をしておこう。ボクは『天使』で、崇高なる神々が住まう神界の人気ドキュメンタリー『ゴッドブレス』のプロデューサーを任されているアールピーだ。さん付けは仰々しいし、気軽にアールピーと呼んでほしいな。プロデューサーとは言っても、この番組の制作スタッフは僕一人だしね。仲良くやろう。ここまではいいかい?」


「あ、あの、神界って………」


 疑問を口にしようとするノノカをこのみが右手で制止する。


「大丈夫。続けて、アールピー」


「円滑な進行への協力、重ねて感謝するよ。ボクの紹介は終わったけど、君達が知りたいのはどうしてこんな状況になっているか、ということだろう?端的に言うと、君達は死んだんだ。乗っていたバスの滑落でね。覚えてるかい?」


「バスが崖から落ちた?結局、私は止められなかったの………?」


「おっと、君が責任を感じることじゃないよ。君の名は『このみ』だったかな。君の行動は的確で迅速だったさ。ブレーキは踏めないと判断して、ハンドルをきって崖とは反対側の岩肌にバスをぶつけて止めようとしたんだろ?あの危機的状況下において、パニックになることなく即座に生き残るための手段を講じるなんて、普通はできることじゃないさ。結果こそ伴わなかったけれど、君の選択は最善だったと思うよ」


 『死』という現実を突きつけられ、重苦しい空気が周囲を覆う。


「過ぎ去ったことをいつまでも悔やんでも仕方ない。君達は事故で死んだ。それは事実だ。だけど君達は運が良い。『ゴッドブレス』の出演者に選ばれたんだからね」


「出演者ってどういうこと?」


 ユウが努めて冷静な口調で質問する。


「ふふ、ボクの番組に興味を持ってくれて嬉しいな。『ゴッドブレス』は君達の世界で言うところの『リアリティーショー』に近い。君達は確か、日本の女子高生という種族だよね。恋愛リアリティーショーなんかが流行ってると聞いてるよ」


 アールピーはそう言うと、猫がするように顔を地面すれすれまで低くし、前足を突き出し大きく伸びをした。


「リアリティーショーってなんですか?」


「そんな事も知らないの、うるる。うるるでも分かるように優しく教えてあげて、ノノカ」


「そのリアクション、ユウ先輩も知らないですよね!?えっと、リアリティーショーっていうのは、ドラマみたいな台本ありの作り話じゃなくて、一定のコンセプトだけが決められてる中で、出演してる人がそれぞれ自由に行動するドキュメンタリー番組です。恋愛なら、シェアハウスで男女が共同生活するってテーマだけがあって、実際に誰がどう過ごして、誰とくっつくかは決まってないみたいな。最初はぎこちない関係性が、いろんなイベントを通して少しずつほぐれていって、困難や衝突の果てに最後は運命の人と結ばれるっていう展開が、超キュンキュンするんです!!ユウ先輩も一度見たら100%ハマりますよ!!動画配信で昔のシリーズも見られますし、今度私の家で皆で一緒に全話一気見しましょうよ!!」


 ノノカはアールピーに背を向け、熱のこもった口調でまくしたてる。


「ノノカちゃん、ステイ!ステイ!!」


「分かった、ノノカ。つまり、私たちは神様相手に恋愛するってこと。見染められれば成功、振られれば失敗。生死をかけた恋愛バトル。滾る展開」


「ええっ!!わ、わたし、恋愛どころかお父さん以外の男の人と話したこともないのに、初恋前にいきなり血みどろの恋愛バトルに参戦するんですか!?しかも、神様ってことは超上流階級の愛され系オラオラ陽キャに決まってますよね??きっと、日サロで二度焼き三度焼きしたゴリゴリのサーファーとか、女の子にお酒を飲ませて18禁規制に引っかかるようなアレコレをいたす事しか考えてない全身海綿体みたいな、穢れきった生粋のオス♂ばかり………無理です、そんな所に引きずり出されたら同じ空間にいるだけで溶けちゃいます!!」


「君達は神様にどういうイメージを持ってるんだい!?………こほんっ、話を戻そう。『ゴッドブレス』は君達が想像するような番組とは少し違う。『ゴッドブレス』は君達の世界で言う『異世界転生』ものに似ている」


「異世界転生って………なんのとりえもない冴えない主人公が偶然トラックに轢かれて、違う世界で蘇って、なぜか圧倒的な力で無双して、現実世界では一ミリも縁のなかったモテモテライフをエンジョイするっていうアレですか!?」


「じゃ、若干棘がある気がするけれど、概ね合っているよ。君達はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界に転生し、現地で起こっている様々な問題を解決する。崇高なる神々は君達が奮闘する姿を見て、時には喜び、時には涙する。コンセプトを言ってしまえばそれだけさ。ちなみに君達の姿は既に神界に放送されている」


「えっ、今も?」


 ノノカはキョロキョロと周囲を見渡し、恥ずかしそうに髪型や衣服を整える。


「もちろんリアルタイムで全ての映像を流しているわけではないよ。君達の下界で見ている番組がそうであるように、プロデューサーであるボクが編集し、時系列や話の内容を整え、少しばかり味付けをして、届けるという仕組みさ。とは言っても、異世界転生に関する説明とリアクションは序盤の大事な掴みの部分だからね。ここまでの会話は半分以上使うことになるとは思うよ」


「じゃあ………」


 話を続けようとするノノカの唇をアールピーは尻尾で塞ぐ。


「まだまだ質問したい気持ちは分かるけれど、先ほども言った通りこれは番組なんだ。視聴者となる神々に良質で刺激的な映像を届けなければならない。いつまでもお喋りだけというわけにはいかないだろ?」


「えっ、どういう………」


「こういうことさ」


 アールピーが現れた時のように、少女たちの前方の空間が乱れ、濃緑の鱗に覆われた一体の怪物が顕現する。


「なに?アレはなんなの!?」


 ノノカの悲鳴にも似た叫び声がだだっ広い空間に飲み込まれていく。


「ドラゴンさ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?下界では空想の産物と思われているみたいだけれど、きっと君達のように神に選ばれた人間が元の世界に戻った際に広めたんだろうね。君達には今からこのドラゴンと戦ってもらう」


「そ、な………じょ、冗談、ですよね。象より大きいし、口から火が…火が………」


「冗談じゃないさ。さあさあ、立って立って。頑張って戦わないと、番組開始数分でリタイアになってしまうよ。そんなことになったら、ボクが大目玉を喰らうことになる」


 いつの間にかアールピーの表情は元のぬいぐるみのような無機質なものに戻っており、その瞳はまっすぐと少女たちを捉えていた。


「や、やだやだやだ、こっち来ないで!!」


 ノノカは目の前の現状から逃げるように目を瞑り、懇願と共にか細い腕を前に突き出す。すると、虚空に金色の円形陣が刻まれ、そこから無数の氷の槍が射出される。


「ゴアァァァァアアッ!!!」


 目にもとまらぬ速度で放たれた透明な矢は瞳を射抜き、ドラゴンは地面を揺るがす咆哮をあげながら、闇雲に突進を試みる。


「あぶなっ………」


 その巨体は一番近くにいたこのみを捕捉し、子どもの背丈ほどもあろうかと鋭利な爪が振り下ろされる。


「このみ先輩っ!!」


 圧倒的な体格差から繰り出される一撃は、このみの肉体を容易に砕くかに思われた。しかし、その爪先は少女の薄い皮膚の表面で、まるで分厚い空気の層に阻まれているかのようにピタリと止まっている。


「このみから離れろ!!」


 ユウが大木のようなドラゴンの脚に体当たりをすると、三階建てのビルほどもあろうかという巨体は木の葉のようにふわりと浮き、次の瞬間、轟音とともに地面に叩きつけられた。


「え、あっ、ええっ?みんな、強い…無双、そっか異世界無双ってやつですね。じゃあ、天才万能美少女な私にも必殺技的なやつがあるんですよね、多分!?こ、こんな感じかな………えいっ!!」


 うるるが不器用にポーズを取り、剣を振り下ろすような動きをすると、その軌跡を追うように光の粒が集まり、激しく明滅する金色の刃となりドラゴンを一刀の下に切り伏せる。


「ガァアアアアッ!!!!」


 地獄の窯が開いたかのような断末魔が少女達の鼓膜を震わせると、彼女達の視界は激しく迸る鮮血で赤く覆われた。


 オーロラのように彼女達を包み込んだ血飛沫のベールは、未来を暗示しているかのようだった。



*********************************************************


1コメ神)本編も当然のように1コメ!!そして新シーズン開幕おめでとう!!

2)いよいよ本編スタートか

3)新シーズンも完走予定

4)この時が来るのを舞ってたぞ!!!!!!

5)ずっと踊りながら待機してたの想像すると草

6)ほら、あれだよ、そんな神様もいただろ、岩の前で裸踊りする変態

7)いきなりチートで冷めた、視聴やめます

8)すぐネタばらしあるから落ち着け

見逃さない神様)アールピーお約束のチュートリアル戦闘、俺でなきゃ勘違いしちゃうね

10)ここまでコメも含めていつもの流れ

11)今回の子は冷静だし落ち着いてて良い感じ。応援できそう

12)ちゃんとドラゴンに立ち向かっていけたしね。何気に凄い度胸

13)すぐに力を使えるのも偉いな、勘がいい。俺だったら気づかず即逃亡コース

14)アールピーさん、ひょっとして仕込んでる?

15)仕込みなしのリアリティショーだぞ、台本なんてあるわけないだろ(すっとぼけ)

16)初見

17)半分位予告映像で見たシーンだった…でも良い子達っぽいし次回に期待

栄養神)一方的に異世界転生したと告げられたと思ったら突然ドラゴンに襲われて狼狽しつつも圧倒的な暴の力であっさり勝利してしまう女子高生からしか得られない栄養がある

18)栄養摂取条件が厳しすぎる件

19)もうその栄養とる必要ないだろ(真理)

20)パンダでも、もっとまともな栄養取ってる定期

21)何も知らない女子高生が戦ってるのって興奮するよね

22)分かるけど同意したくない神心

23)神の息が臭いという風潮

24)少なくともお前のは臭いという事実

25)もう19シーズンか

26)1stシーズンの頃から見てるけど、今回はクリアできるかな

異国の神)19シーズンも基本的な構成は同じみたいだね。予告映像で転生者の人となりを視聴者に伝え、本編に入ると即座に参加者に番組のコンセプトを簡潔に説明し、絵的に退屈にならないようすぐに最初の戦闘。マンネリではあるけれど、テンポが良く、小気味いい。少女達も順応性が高そうだし、見応えのあるシーズンになりそうだ。楽しみに視聴させて貰うよ

28)カワイイは正義。視聴継続します

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