くらす!(1)
「で、ボクに聞きたい事とは?」
アールピーが無機質な声色でこのみ達に問いかける。
「さっき私達に起こったことを答えられる範囲でいいから教えて」
「構わないよ、なんでも聞いてくれ」
「私達を襲おうとした敵はアールピーが用意したものなの?」
「ボクが用意したものではないさ。君達の世界ではどうなのかは分からないけれど、『ゴッドブレス』はやらせなし、仕込みなしの真剣勝負なんだ。だから先ほどの魔物はこの世界に住む在来種だし、彼らの自由意思に基づき襲ってきた。その辺りは野生動物と行動原理はさほど変わらないと思うよ、君たちが手ごろな獲物に見えたんじゃないかな」
「じゃあ、ゲームみたいに勝てる相手が勝てるタイミングで出てくるってわけじゃないの?」
「なるほど、そういう意図の質問なんだね。このみは聡いな、お見込みの通りさ。まあ、いきなり全員リタイアになるような事になればボクが困るから、人類が繫栄しているような比較的初心者向けのエリアに転移しているというのも事実だけどね。ただそれも絶対ではない。事実、ボクも最初からさっき見たいな変わり種くることは、想定していなかったよ」
アールピーはそう答えると、後ろ足で数度顔を掻いた。
「さっき襲われた魔物と戦って勝ち目があると思う?」
「このみ先輩、戦う気なんですか!?危ないですよ、早く街に行きましょう」
このみはノノカの言葉にぎこちない笑みで返す。
「ははっ、ノノカちゃんの気持ちはわかるよ、私も戦いたくないし。でもさ、この番組が人気になるためには、刺激が必要だと思うんだよね。私も弟と一緒にアメコミ原作のハリウッド映画とかたまに見てるとさ、早くド派手なアクションシーン来ないかなってなるしさ。視聴者が減ればみんな無事でも元の世界に帰れないかもしれない。なら、勝てる可能性がある相手からは簡単に逃げられないよ」
「このみ先輩………」
ノノカは説得する言葉を探し、やがて諦めたのか口を閉ざした。
「教えて、アールピー」
「うーん、本来レベル差に言及するような質問は受け付けないんだけれど、最初だしサービスしておこうかな。初戦から面白い相手に当たったわけだし、相手をせずに街を探すのも味気ないからね。結論から言うと、勝つことは可能だ。君達相手に催眠を仕掛けてくることからもわかる通り、真正面から戦うのは苦手な種だ。逆に相手が勝てると思うまで姿を見せないわけで、戦いたいと思ってもそもそも戦闘にならないかもしれないけどね」
「たしかに少ししか姿が確認できなかったけど、弱そうだったわよ。私一人きたら逃げるくらいだし、油断しなければ相手にならないんじゃない?」
桃子は如何にも熟練の冒険者ですといった余裕のある口調で流暢に語る。
「根拠なき謎の自信」
「あっ、吉田さんはいつも大体あんな感じです」
「吉田さんはやめなさい、桃子、せめて桃子と呼んで!!ふふっ、私がどうしてこんなに落ち着き払っているか気になるでしょ?気になるわよね??いいわ、よ~く聞きなさい。私は古今東西ありとあらゆる異世界ものに精通した、いわばプロフェッショナル!!『南中の異世界マエストロ』といえば聞き覚えがあるんじゃないかしら」
「むしろ聞き覚えがあって欲しくない二つ名」
「桃子………さんは、いつも自分の机でラノベ呼んでたんで、無駄に詳しいはずです」
「それは頼もしいな。これまで何人も下界で言う異世界転生ものに詳しい参加者がいたけれど、概ね彼女たちが想像していたイメージとこの世界は一致していたようだしね。恐らくは、他の番組でクリアした帰還者あたりが記憶を元に作品に仕上げたんじゃないかな、あくまでボクの想像だけれどね」
「ボッチは身を助ける」
「なんか棘のある言い方だけど、まっ、好きなだけ頼りなさい」
「ふふっ、そんな異世界に詳しい君達に朗報だ。というより、これが無ければさっきの魔物に打ち勝つことは不可能だろうね」
「………アールピーさん、私達が勝つには何が必要なんですか?」
アールピーは地面を蹴り上げ、ノノカの体をタタッと頭のうえまで駆け上がると、上から覗き込むように目を合わせた。
「クラスさ」
真っ白な毛皮を持つこの饗宴の主催者はそれだけを告げると、いつもの愛くるしい表情でノノカに微笑みかけた。




