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8.


 「なんて事っ!思った通りクリスティーナは肌の色が白いからどんな色でも似合ってしまうわ!髪色を考えるとシックな色味もいいけれど、若いのだから明るくて華やかなものもいいわねぇ……次はこれを着てみてちょうだい!」


キャパオーバーにより、サロンで気を失った私は…目が覚めると公爵夫人様の着せ替え人形になっていた…。


制服のままで目を覚ました私に、公爵夫人様がドレスを用意してくださった…。身長が低い私のサイズをお店からわざわざ取り寄せてくださったそうだ…そのドレスを着て、公爵夫人様の指揮のもと公爵家の優秀な方々に色々と…本当に色々とこねくり…手を掛けていただいた。そしてようやっと、食堂へと通された…。


(…私に…一体何が起きてるの?…これから一体……どうなるのかしら……)


広い食堂のそこには、公爵閣下と夫人、そしてフェルベールがすでに先に着いていた。


フェルベールが席を立ち、クリスティーナのもとまで近付くと、クリスティーナの頭のてっぺんから足の先までを何回も視線を往復させて「クリスティーナ嬢か?」と問いかけたので、クリスティーナが答える。


「はっはい!クリスティーナ・ブロワでございます」


「なっ!なんて事だ……」


「ちょっと!フェルベール!貴方なんて無作法なの!信じられないわっ他に言うべき事があるでしょう!」


「あ…あぁ、ククリスティーナ嬢…綺麗だ。とても」


噛みながらも一言だけ褒めてテーブルまでエスコートをした。その間も視線はクリスティーナから逸らさない。


そんな我が子の姿を見て夫人は溜息をついているが、父親である公爵は驚きと興味を持った。

頭を下げるクリスティーナに対して声を掛ける…


「話は聞いている、クリスティーナ嬢…挨拶はいいから楽にして席に着きなさい。食事にしよう…」


(食事……喉を通る気がしないわ…)


公爵が右斜め前、夫人とフェルベールが目の前という布陣が敷かれたテーブルにて、クリスティーナは食事を味わう事なく、問われるがままに答えていたが…メインの肉を口にした時、意識がそれに集中した。


(流石公爵家の方々が召し上がるお肉は違うわ…素材そのものの違い…それに召し抱えておられる料理人の技量ね…なんて素晴らしいのかしらっ!)


それまで淡々と質問に答えていたクリスティーナが、メインの肉を食べ始めた辺りから頬を緩ませ、目はキラキラと輝き始めた事に気付いたフェルベールが、「クリスティーナ嬢、肉が好きなのか?」とダイレクトに聞いてきたので、クリスティーナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


(いけないっ!今の私は前髪が……きっとだらしない表情が見られてしまったんだわ…)


「しょっ食事中…お見苦しい姿を、申し訳ございません!…」


「何を言っているんだ!美味しそうに食べる姿が見苦しい訳がないじゃないか」


「そうよクリスティーナ、王族って訳じゃないんだから、緊張せずにいいのよ!」


(そう言われましても…奥様は王妹様であらせられますし……そもそも公爵家の方々は王家に連なるお立場なのです。爵位も持たない私が食事に同席している事があり得ないのです……)


クリスティーナは心の中で必死に訴え掛けつつも、眉を下げ…微妙な面持ちで食事を続けた。


「もうっ、あなたが余計な事言うから!」と母親にブツブツ小言を言われたフェルベールは、「せっかく笑ってたのに…」と残念な気持ちになった事を自分でも不思議に思いつつ食事を終えたのであった。


そろそろおいとまをという雰囲気を出すクリスティーナをエメリアーナが引き留め、フェルベールと三人で食後の紅茶を楽しむ事になった。


「さっ…クリスティーナ、あの人は仕事に(半強制的に)戻らせたから、緊張しなくていいわよ!もう少しわたくしとお話ししましょう」


(ああ…公爵閣下は貴重なお時間を割いてくださっていたのですね…)と感謝するクリスティーナだったが、実は公爵も交ざりたいとごねた事を…知る術はなかった…。



「さぁクリスティーナ、遠慮は無しよ。貴女何に怯えているのかしら?その理由を貴女は知っているの?」


「母上…今日初めて会ったクリスティーナ嬢にいささか詰め寄り過ぎでは?どうしたのです?母上らしくないのでは?…」


「フハッ!あらやだっ失礼、つい吹き出してしまったわ……フェルベール、その言葉そのまま貴方に返してあげましょうか?………意味が分からないのであれば黙ってお茶でも飲んでなさい。


クリスティーナ…この子が今言ったように…確かにわたくしと貴女は今日が初対面ね、でもね…わたくしこれでも元王家の一員として、沢山の様々な人間と対峙してきて人を見る目だけはあると自負しているの。

だから安心してちょうだい、わたくしは自分が認めた貴女にも胸を張っていて欲しいの。

すごく傲慢ごうまんな事を言っている自覚はあるのよ?でもね…貴女は下を向くのではなく、顔を上げて笑ってる方がきっともっと素敵な女性になれるわ!自分の考えを持って、自分を主張してもいいの、きっと貴女の父親である伯爵も、それを応援してくれる考えをお持ちだと思うけど…違うかしら?」


(自分を…?いいのかしら…マルコムから言われ続けていた事とは全く正反対……でもあの人の言う事を聞く必要も守る必要もないものね!)


「はい……父もきっと、どんなわたくしでも応援してくれると思います…。わたくしもこれからは、人として…商人としても人を見る目をみがいていきたいです…」


「そうね、とてもいい心掛けだわ。それと貴女まず自分に自信を持ちなさい!うちのメイド達がちょっと手を加えただけでこんなに美しくなれた程、元はいいのだから隠すのは勿体無いわ!見た目って大事よ、特に若いうちは!」


「みっ皆様には感謝しております!わたくしもまだ…自分で信じられない程に驚いておりますし…とても嬉しい事ではあるのですが……」


「なぁに?言ってごらんなさい?」


「じっ自分でも卑屈だと…分かってはいるのですが…これまでがずっと、大人しく地味でいなければ価値が無いと…言われておりましたので……」


(「クリスティーナ、君は僕に嫌われたら誰にも振り向いてもらえないよ?僕に捨てられたら君はそれでお終いだ。そうならない為にも僕の言う事だけを信じて僕の後ろをついておいで…。クリスティーナ、僕はそんな服装は好まないよ…。

クリスティーナ、私の言う事が聞けないのか?クリスティーナ、私は忙しいんだ君に会う時間はない…。クリスティーナ、私に捨てられたくなかったら黙って言う事を聞くんだ!」)


クリスティーナはマルコムの言葉がまるで呪言のようにまとわりついていた…「君のため…」と繰り返していたマルコムが、今では信じるに値しない人間だと頭では分かっていても、だ。


ガタンッという音にクリスティーナが顔をあげると…そこには…とてもよく似た美しい顔が二つ、静かな怒りと烈火の怒りでその美しい顔を歪めていたのであった。











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