5.
前話(4話)で初ブクマいただきました!
とても嬉しいです( ˙꒳˙ )ノ
初めましての方も、再訪いただいた方も、ブクマから飛んできてくださった方も…選んでいただきありがとうございます。
クリスティーナは伯爵家の馬車で、一人で学園に向かっていた。マルコムには暫く休むと伝えたままだったが…向こうからの連絡は相変わらず何も無かった。
比較的揺れが少ない馬車の中…クリスティーナは窓の外を見ながらぼんやりと呟いた…
(十年…か…あんなに好きだったのに、私…薄情なのかしら)
一週間前に教室でマルコム達の話を聞いてショックを受け、数日後更に衝撃的な計画を知ってしまい目の前が真っ暗になった。寝込んで立ち直れなくなってもおかしくない衝撃だったはずなのに、クリスティーナはマルコムに対する感情を吹っ切って前を向いた。
おそらく自分の中でも、薄々気付きつつあったのだ…マルコムの自分に対する態度や興味の無さに。
節目節目の贈り物は互いに贈り合っていたが、いつからかメッセージが無くなり、プレゼントも花束だけになった。顔合わせはしていたが…デートなどは殆どなく、本当に最低限の付き合いだったのだと今なら分かる。
(学園が忙しいと言うのは嘘…だったのよね…)
一つ年上のマルコムが入学してからは特に希薄な付き合いとなっていたが、クリスティーナはそもそもがインドアで、社交的でもなく友達もいなかった為…屋敷で刺繍やガーデニング、そして商会の勉強や扱う商品の開発などを手掛け学んだ。そして父親から出された難題にも取り組み忙しい日々を送っていた。
(はぁ…学園で顔を合わせたらどうしようかしら…やっぱり見た目も変えて来た方が良かったかも…)
朝、メイドのサーシャから髪型を変えて化粧をしてみては?と助言されたがそれを断った…。クリスティーナにはいきなり全てを変える勇気がなかったのだ
自分が化粧したところで…と思う反面、年頃の娘らしく興味はあった。キラキラと可愛いものや流行のアイテム、それこそ商会で扱う商品としてだったが……
(まっ…おいおいかしらね…それよりもヴェントラー公爵夫人様との事の方が心配だわ…)
公爵夫人からの手紙に対してこちらに否やなどあり得ないので、夫人の都合に合わせる旨と感謝の言葉を添えて返事を出した。
すると、なんとその日の内に返事の返事が届いたので伯爵家はひと騒動だった…。
公爵夫人から明日迎えの馬車を出すので、学園からそのまま公爵家へ来てくれ、その時にクリスティーナの刺した刺繍があれば見せて欲しい…との事だった。なので作品を何点か持って来ている。ハンカチやクラヴァットの様な小さな物からテーブルのセンタークロスにクッションカバーなどを持参している。
(私の刺繍が公爵夫人様のお目に留まるだなんて…夢みたい…昨日お父様にお話しした時もかなり驚かれていたもの…あぁ…もう今から緊張してしまうわ…)
そうして学園に着き変わらぬ様子で一日を終え…いよいよの放課後がやってきた。
高位貴族専用の馬車が並ぶそこには、ヴェントラー公爵家の紋章が入った一際優美な馬車が停まっており、なんとか人目につかぬ様その馬車に近付いた。すると御者がクリスティーナに気付くよりも早く馬車の扉が開き、中からフェルベールが顔を出した。
(えっ?)
「さぁ!お手をどうぞ」
笑顔で手を差し伸べられ、驚きで固まってしまったクリスティーナ……それを見た御者が慌ててクリスティーナの荷物を預かり乗車を促した。
馬車に乗って意識を取り戻したクリスティーナは慌てて挨拶をするが、フェルベールは心配そうにクリスティーナに声を掛ける。
「堅苦しい挨拶も、堅苦しい呼び名もなしで頼む、それよりも…昨日の今日で母が無理を言ってすまない。その後体調は戻ったのだろうか…?」
「はっはい!その節は公爵令息様に大変…」
「肩の力を抜いてくれ…謝罪も礼も昨日君から手紙を貰った、それで充分だ。それにその呼び方…さっきも言っただろう?」
「では…なんと…お呼びしたら…」
「ふむ、これから我が家に来てもらうのだから家名ではなく、名前で呼んでくれ。あっ!しまった!君には婚約者はいるだろうか?」
「!!??っ……いえ……おりません…」
「あぁそうか、良かった……いや、その…、婚約者がいるのであれば一緒に馬車に乗るのも、名を呼ぶ事を許すのも、ご令嬢に迷惑がかかるから一番に確認する様、母に釘を刺されていたのを失念していた…順番が逆になってしまってすまない…」
そう言ってシュンと肩をすくめる美丈夫を目の当たりにしたクリスティーナは、自然と力が抜けてフェルベールに自分から話しかけた。
「お気遣いいただきありがとうございます。それではフェルベール様と呼ばせていただいてよろしいでしょうか?体調は問題ありませんし…わたくしも、その…緊張はしておりますが、公爵夫人様にお会い出来るのを楽しみに参りました。本日はよろしくお願いいたします」
「あぁっそうか、それは良かった!呼び名に関しても問題ない!母も楽しみにしていたから緊張しなくて大丈夫だ。」
そうこうしている内にどうやら目的地に着いた様だ…
と思っていたが…門からの距離が長い…その広大で美しい公爵家の敷地を馬車の窓から楽しんでいると…
「クリスティーナ嬢…母に何か言われても嫌な事はハッキリと断ってくれ、今日は私も一緒にいるから大丈夫かと思うが……」
何やら不穏な事を言われた様な気がしたが、「着きました」と御者から声が掛かった為、その事を深く考える事なく…クリスティーナはいよいよだと姿勢を正した。
マルコムの面倒臭さを隠そうともしないエスコートとは全てが違う完璧なエスコートを受け、公爵家へと降り立ったクリスティーナは、その荘厳さと優美さ…そして両脇へと並び迎えてくれる使用人の多さに圧倒され、くらりと血の気が引いていくが…隣に立つフェルベールがガッチリとホールドしてくれたので倒れ込む事は免れた…。
(フェルベール様…ごめんなさい…私には無理です出直して来ます…。)
クリスティーナが俯いてプルプルとしていると…
「まぁっ!まぁまぁっ!ハリーッ!ちょっとハリー、あのフェルベールが女の子をエスコートしてるわ!」
「はいっ!はい、奥様!左様でございますね!本日を記念日といたしましょう!」
「ンンッ!ン!二人とも落ち着いてください。クリスティーナ嬢が驚いている。早く屋敷に入りましょう」
「あのっ…申し遅れました、わたくしブロワ伯爵家が長女クリスティーナ・ブロワと申します。本日はお招きに与りましてまことにありがとう存じます」
「あなたの事はフェルベールから聞いているわ、顔をあげてちょうだい。緊張しなくていいのよ、こちらこそ急な招待を受けてくれてとても楽しみにしていたのよ!さっ入って入って」
あまりにもにこやかに、好意的に歓迎してくれている公爵夫人にクリスティーナは戸惑ったが、隣のフェルベールも笑顔で頷き背中をそっと押してくれている。
ずっと奥の方まで続く美しい庭園を過ぎ、近付く程にその大きさを増す屋敷に着き中へ入ると…そこは夢の様な空間が広がっていた。広い空間に磨きあげられた品の良い調度品の数々…足下には芸術品の様な絨毯に屋敷の奥へと続く鮮やかな赤いカーペット、そしてその両側に並ぶ使用人達。
(私…お部屋まで辿り着けるのかしら…既に体力…いえ精神力が殆ど削られてしまったもの…)
クリスティーナの歩調が変わったのを気付いたフェルベールが声を掛けた
「クリスティーナ嬢?どうした?何かあればなんでも言ってくれ」
「あの…フェルベール様?本日はこちらで夜会やパーティーが開かれているのですか?」
「いや、今日はその予定はないが」
「でっ…では…フェルベール様は毎日あの様なお出迎えを受けてらっしゃるのですか?」
「まさかっ!王族の方達や国外の賓客を招く時ぐらいで…今日はきっと母上が声を掛けたのだろう…君を招いていたから」
「では…わたくし一人の…為に…?」
「ん?すまないよく聞こえなくて…君と私は、その…身長差がある上…俯いて話されると聞こえ難いんだ…よければ私を見て話してくれないか?」
「もっ申し訳ございませんっ!」
慌てて顔をあげて謝罪するクリスティーナ
「ん、謝る必要はないが、それでいい。…おや?」
顔をあげたクリスティーナに、満足そうに頷くフェルベールが何かに気付き、言葉を続けようとしたところで部屋に着いた様だ。
通された部屋は広いサロンで、落ち着いた雰囲気の家具や調度品で統一されており高級な茶葉の香りが漂っている。
先程記念日を制定した執事のハリーに「こちらへどうぞ」と大きなソファーに促されたクリスティーナは、フカフカのソファーに…身の置き場が無さげに控えめに腰掛けた。
すると、その隣にフェルベールが座ってきたので驚いて顔を向けたのはクリスティーナだけではなかった…
「フェルベール?…あっあなた何故…そこに?」
「坊っちゃま!こちらへどうぞっ」
フェルベール以外の三人が驚いているが本人はそれに気付かずクリスティーナをまじまじと見ている…
いくら二人きりでもなく、親の目があり…執事も側にいて…間隔も空いている…とは言え、婚約者でもない男女が…という事なのだが当の本人は
「クリスティーナ嬢は声が小さいからここでないと聞こえない」
「はぁ…、クリスティーナさん、驚いたでしょう?ごめんなさいね…この子悪気は無いのだけど、女性がきら…苦手で…交流がないから、余計に配慮の無い言い方になってしまって…」
「いぇっ…その…わたくしの声が小さいのも事実ですし…ご令息様は、この様なわたくしにも…手を差し伸べてくださる、とても…お優しいお方だという事を存じあげております……」
「まぁーっ!まぁっ!まぁっ!ハリーッ!聞きまして?この子、この堅物女嫌い冷徹腹黒男を優しいって……」
「えぇ、えぇ!近くで聞かせていただきましたとも!お顔だけはすこぶる特級品で、他の追随を許さない美貌をお持ちの坊っちゃまが…唯一克服できないのが女性であり、悩みの種でございましたが……。あ…失礼いたしました、頭脳と剣術も大変優れておいでです。あと…お家柄も追加いたします」
「はぁ…二人の私に対する評価がどの様なものか、よーく理解しましたよ……。それとハリー、坊っちゃまはやめてくれ」
怒り?…とはまた別の、困った様な…照れくさい様なそんな表情で溜息をついているフェルベール…
"キュンッ"
(いやいや…キュンて何?キュンじゃないでしょ!クリスティーナ!しっかりしなさいっ)
クリスティーナは正気を取り戻す為にも、居住まいを正すのであった……。
後書きまで来てくださりありがとうございます!
『次回!クリスティーナついに夫人とガチバトル?』
〜果たして勝利の行方はっ!〜
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