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3.


 (ん……あら?……ここ…どこかしら……)


白い簡易ベットに仕切りのカーテン、そして微かな薬草の匂い。


(医務室……かしら…?)  ギシッ……


「目が覚めたかしら?カーテンを開けるわよ?」


クリスティーナが身体を起こし返事をすると、白衣姿の女性の養護教諭が顔を出し、これまでの経緯を話す。


「気分はどう?大丈夫?倒れた貴女を、2学年のヴェントラー公爵家のフェルベール卿が運んでくれたのよ。後でまたいらっしゃるそうだから、その時にお礼を言うといいわ。それまでもう少し休んでなさいね」


ニコリと笑いながらカーテンを閉める教師に礼を言って横になるクリスティーナ…


(…夢……ではなかったのね……記憶…も…あるわ)


ベッドに潜り込み両手で顔を覆って悶えていると、ドアが開く音が聞こえ…ドキドキと焦っていると、


「失礼します、先生ベッド空いてますか?彼女具合が悪い様なので…少し休ませてもらえますか?」


「ええ、大丈夫よ。一番手前のベッドに寝かせてあげて、症状はどんなものかしら?」


「少し眩暈めまいがするそうです、少し休めば大丈夫かと…。あっそれと…こちらに来る途中にアルベド先生が食堂に向かっているのを見ましたよ…先生も昼食まだなのでは?彼女には私が付き添いますのでご心配なく、大丈夫ですよごゆっくりどうぞ…」


「あっ…あらそう?じゃあ…少しだけ席を外すわね…にっ…いえ、三十分ほどで戻るわ…薬品棚には鍵がかかっているけど不用意に近付かない様に、それと奥のベッドにも休んでる生徒がいるから静かにね。もし他の生徒が来て手がいるようだったら呼びに来てもらえるかしら?じゃあ頼んだわね!」


(この声…マルコム…の声だわ…)


扉が閉まる音がして養護教諭が出ていったのだろう…


「フフフッ…マルコム様ったら悪い人……」


「フッ…君が教えてくれたんだろう?ここの先生がアルベド先生に想いを寄せていると…互いの益が合致してるのだから有益にこの時間を過ごそう…」


「いけませんよマルコム様…向こうのベッドに人が居ると仰っていたではありませんか…恥ずかしい…」


「大丈夫…きっと寝ているさ、さっきから物音一つしないじゃないか…それにカーテンで仕切られているから見られる事はない…さぁ安心してその綺麗な顔を近くで見せてくれないか…」


「マルコム様…でも…わたくし不安なのです…貴方から、どんなに愛されても…どんなに優先してもらっていても……この先の事を考えてしまいます。望んではいけない事だと頭では理解しているのですが、わたくしの…ここが…貴方と離れたくないと叫ぶのです…。でも…貴方に触れられるだけで…こんなにも鼓動が早くなりますのよ…わたくしのこの歓喜の鼓動がマルコム様にも伝わりまして?…」


「ああっソフィー勿論だっ!柔らかさと共にしっかりと伝わったともっ!君はなんって…いじらしくて可愛いんだっ!安心してくれいとしい人…私が伯爵家を継いだら君を迎え入れるよ!義父がいる間は難しいだろうが…君が望めば正妻の座だって差し出させるっ!」


「マルコム様っ!嬉しいっ!でもっ…その様な事現伯爵様は引退したとしてもお許しにはならないでしょう…入婿が大事にされるのは、自分の娘と生まれてくる跡取りがあるからこそですわ…なのでわたくしが正妻の座まで望んだとなると…伯爵家の乗っ取りだと言われかねません…。代替わりしたとて伯爵様がご健在である以上…叶う訳が…ないのです。」


「違うよっソフィー!まず、君を望んでいるのは私なんだ!二年後…卒業後すぐと言う訳にはいかないが、いずれは当主だ!それに…あの人も今はまだお若く、お元気だが…その期間何があるかわからないだろう?それに…確かにあの人は娘には甘い、でもあいつは私に従順だから反対などしないしさせない!」


「本当ですかっ?わたくし貴方を信じて待っていてもいいんですのね?…」


「勿論だともっ!君のいを払い、願いを叶えるのは私でありたいっ」


「素敵…そんなマルコム様が大好きです!…でもあまり無理はなさらないでほしいです。貴方に何かあったらと思うと…ほら…お確かめになって……ねっ?…まるで早鐘の様でしょう?」


「あぁソフィー…なんて健気けなげなんだ…」


「わたくしは貴方様と寄り添えるだけでよいのです……願わくば、わたくしも女に生まれたからには愛する人との愛の証となる子を…産みたい…と浅ましくもそう願ってしまいます。しかしそう願うのと同時に…それが出来る貴方様の婚約者が羨ましいと嫉妬の心にまみれてしまうのです…」


「君があいつに嫉妬だなんて……ん?いや、待てよ…ソフィー聞いてくれ!私はあいつと結婚してもあいつを愛する事はない。しかし婿入りするからには義務は果たさねばいけないと思ってた…しかし…しかしだよ、君がいてくれればそれも回避出来るかもしれない!」


「まぁ!それはどういう事ですの?」


「いいかい?君が僕の子を産んでくれたらその子を後継として育てるんだ!そうすれば私は精神面だけでなく、肉体面でも解放されるんだ!きっと上手くいくはずだ…あいつは私に依存しているし口答えなどさせない。夫婦の生活など使用人達の鼻先に金の匂いを嗅がせればいくらでも誤魔化せる!」


「まあっ!それって…つまり…心も身体もわたくしだけが愛されて、わたくし達の子供が伯爵家を継ぐという事ですか?……しかしそれでは余りにも婚約者様があわれでみじめではございませんこと?」


「いや、私達の『真実の愛』を貫く為に…これは必要な犠牲なんだ…わかるだろう?」


「…『真実の愛』……素晴らしい響きですわね…」


「ああ…私達にピッタリだろう?…さぁ…先生が戻ってくる前に、もう少し君に触れさせてくれ…」


「きゃっ…もう…少しだけですよ…」



ーコンコン…コンー


「聞くに耐えないので病人でないのなら退室してくれ」


「なっ…盗み聞きとは!それも黙って入室してくるとは失礼ではないか」


「はっ!そういう事は顔を出して面と向かって言ってはどうかな?それに私は入室前にノックをして声を掛けたぞ…。中に休んでいる人が居るのだから小声で配慮はしたが…それに気付かないほど盛り上がっていたのはそちらであろう?」


「だっ黙れっ!」


「声を荒げないでいただきたい!病人がいると言っただろう!はぁ…君達を詮索するつもりはないし興味もないっ…顔も見ないから早く出ていってくれ!」


コツコツと奥のベッドに向かう気配がした為、手前のベッドに居たマルコムとソフィーは入口側のカーテンを開けコソコソと出ていった…。


奥のクリスティーナが寝ているベッドのカーテンを開ける事なく椅子に腰掛けたフェルベール…本でも読むかと取り出した時、カーテンの向こうからグスグスと鼻をすする音が聞こえてきた…。


「クリスティーナ嬢?起きているのか?俺だフェルベールだが…ここを開けてもいいだろうか?…」


返事の代わりにグスグスと変わらず聞こえてくる…


「泣いているのか?…今すぐ先生を呼んで…」


「大丈夫!…だっ大丈夫ですので…ヴェントラー公爵令息様もお戻りになって…くっください…。」


「……わかった…。勝手をして申し訳ないと思ったが…ここの先生に君の荷物を頼んだ…。馬車も手配しているから送迎がなければ使ってくれ…今日はもう帰ってゆっくりと休むといい。母への返事も急がないから、どうか負担に感じないでくれ…それじゃあ」




「…あっありがとう…ござ…います…」



それからクリスティーナは荷物を受け取り、フェルベールが用意してくれた馬車で家まで帰った。


帰宅すると、サーシャが驚きながらもすぐに冷たいタオルと紅茶を用意してくれて…執事が知らせたのだろう…父が心配して部屋に来てくれた。


この時間に父が屋敷にいる事は珍しく……私はこの偶然に腹をくくった。

いつもの様に目を逸らし、自分が我慢するのではなく…父に話そう、信じてもらえなくても全て打ち明けようと決意して父と向かい合った…。












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