2位の栄冠、誰の手に?
初めましての方も、再訪くださった方も、
この作品を読んでくださりありがとうございます!
今回は、
ご要望いただいた、お孫様の話とハリーの話です。
続編投稿から10日経ちましたが、ご感想とご要望いただけた嬉しさで、勢いで書き上げてしまいました…。
どうかなぁ?楽しんでいただけるかなぁ?と不安と期待でドキドキしながら投稿しました!
広いお心で読んでいただけると幸いです!
由緒あるヴェントラー公爵家は王家に忠誠を誓う臣下ではあるが…その勢力と影響力は言わずもがなの一族であり、また当主であるダンディール・ヴェントラーは、城の一切を担うほどの偉大なる宰相であった為、国外でも政府の要人で彼を知らない者はいない程、彼の名は浸透していた。
しかし彼に会った事のない人間は、大抵は…細身で眼鏡を掛け、神経質そうなイメージを持つのだったが、実際の彼は王国騎士団の騎士団長よりもガタイが良かった。
彼の執務室には、大きな執務机が置かれているが…彼が座るとそれも窮屈そうに見える程。
最近…その宰相様の姿が城から消えたのだ。
いや消えた…とは大袈裟かもしれないが、体の大きな彼はどこにいても目立っていたし、仕事の虫でもあった彼が、登城の時間が遅れたり、定時に帰る事など今までなかったので、城で働く者達は不思議に思っていた。
エメリアーナ・ヴェントラー公爵夫人は現国王の妹で、その身が王族であった時から社交界にその名を轟かせていた。
彼女は他人にも自分にも厳しいが、懐に入れた人間にはとことん心を尽くす人だった。しかしその人選は厳しい目で行われ、悪意を持つ者は近付けもしない程に正確であったのだ。
華やかな場所には彼女の姿があり、彼女はその能力で、貴族界や社交界の膿を出すべく奮闘していた。
最近…その彼女の姿が社交界から消えたのだ…。
ランドルフ・ブロワ伯爵は、ブロワ商会の商会長であり王都を始め他国との取引もあり、その信用と信頼から様々な国と太いハイプで繋がっていた。
先代から引き継いだ小さな領地と小さな店舗を、若いながらも一代でそこまで発展させ、資金や政治面でも惜しまず裏から貢献してきた。
なので国王からの覚えも良く、陞爵の話も出るが、ランドルフは頑なに断り続けていた。
貴族としてよりも商人でいた方が間違いなく国に貢献出来る、とそう言って。
彼は…城、沢山の店舗、伯爵家と…ランドルフ・ブロワという人間は実は三人いるのでは?と言われる程にその姿をあちこちで目撃されていた。
最近…その伯爵の姿がどこからも消えたのだ…。
ーヴェントラー公爵家にてー
そこでは熾烈な2位決定戦が繰り広げられていた…。
「アルル〜こっちよ〜!ふわふわが沢山あるわよ〜」
「アル〜こっちはかっこいい剣と盾が手に入るぞ〜」
「アル〜これは音が鳴るおもちゃだぞ〜楽しいぞ〜」
「アルヴィンこっちだ!ここは甘い物が沢山あるぞ」
夫人はぬいぐるみを、閣下は玩具の剣と盾、ランドルフは算盤なる東洋の計算道具、フェルベールはプリンやマフィンの甘い物……。
歩き始めた孫(息子)が誰の所に行くのか競い合っているのだ…
勿論一位は何も持たずとも、母であるクリスティーナが勝ち取った。(全員大人しく納得…)
続いて息を飲む2戦目……の、前に…。
クリスティーナが産んだ一人目の子は…それはそれはとても元気な男の子で、銀髪にブルーの瞳をした彼は…まさにフェルベールジュニアであり、彼がこの世に産声をあげた日…公爵家では、上を下への大騒ぎでお祭り騒ぎであった。
そしてここで終わらない…終わらせないのが公爵夫人エメリアーナであり、公爵家と伯爵家の権力と財を惜しみなく…ここぞと注ぎ込み、王都で祭りを開催してしまったのだ…。
妹にデロ甘な国王も、孫だ!慶事だ!お祭りだ!のノリで、申請書が通るまでの最速記録を叩き出した。
そんな生まれたばかりの小さな彼は、優しくも少し大袈裟な大人達に愛され、すくすくと健やかに成長した。
アルヴィンと名付けられた彼の歩き始めは早く、まだ一才にならぬ時から歩き始めて今ではその足取りもしっかりとしている。いよいよ、その彼が向かった先…選んだ二人目は……
「おやおや!お坊っちゃま抱っこでございますか?はいはいお待ちくださいね」
茶器をテーブルに置き、執事のハリーがアルヴィンを抱き抱える。と同時に叫声や怨嗟の声が上がるが、アルヴィンはキャッキャッとハリーのブローチを触っている。
「アルヴィン様は素晴らしい審美眼をお持ちですね、将来が楽しみでなりません!このハリーめも長生きせねばなりませんな」
執事長のハリーの胸にはその証が輝いていた。以前はピンタイプで装飾もしてあったのだが、アルヴィンが生まれ、公爵家からは鋭利な物や、危険と思われる物が消えたのだ。
それは執事長の証の様な小さな物から、壁に掛けられた絵画や肖像画のフレームに至るまで…。
小さなアルヴィンは…そのちっちゃなお手てで、銀糸で縫い付けられ、ツルツルとしたキラキラ光るブローチを触っている。
「ハリー!貴方よくも裏切ってくれたわねっ!」
「大奥様、大きな声を出されては坊っちゃまが驚かれますよ?さぁお坊っちゃまお好きなところへどうぞ」
フラフラとそしてしっかりとアルヴィンが次に向かう先にいたのは…
「アル〜!君はなんて賢いんだっ!うんうんこれも気になるなぁ、将来有望な商人になれるぞ!うちの子になるか?」
「ランドルフ殿、音が鳴るのは卑怯だ!アルは鳴り物に興味を持っただけだぞ!」
「いいえ閣下、アルは私を選んだのです!うちが責任を持って育てますのでご安心ください!」
「まぁ!伯爵の様な一所不住の方に初孫を任せるとでも?アルルはわたくしがクリスティーナと共に育てますから、ご心配なくどうぞ諸国を巡ってくださいな」
「ほら、アルヴィン?お父様だぞー!こっちにおいで」
「まぁまぁ皆様、その様な剣幕ではお坊っちゃまに嫌われてしまいますよ?お茶でもお飲みになって…」
「黙れハリー!2位の余裕か?父親の俺に勝ったのがそんなにも嬉しいのか?何故だっほら、アルヴィンお前のお母様も大好きなプリンだぞーいっぱいあるぞ〜」
トテトテ…タタタッ…ポフンッ
「まっ!まぁまぁまぁっ!アルル〜いい子ね〜!ほらっ、ふわふわのお友達がいっぱいいるわよ〜。可愛いアルルは将来も素敵な仲間に囲まれる事間違いないわ」
「ん?こっちも気になるか?よしよしこれもあげよう!早く大きくなって一緒に鍛えるぞ!そうして、しっかりと母を守れる様な男になるんだぞ!いいな?」
「そ…そんな…父親の俺が…選ばれなかっただと…?」
そんな意気消沈のまま、その場に座り込んでしまったフェルベールを背後からギュッと抱き締めてプリンをねだるクリスティーナ。
「旦那様、アルヴィンは賢い子です。私の好物のプリンと大好きな旦那様をわたくしに譲ってくれたのです!」
「ティーナ!!…あぁ…クリスティーナ〜!」
すかさずクリスティーナを前からしっかりと抱き締めて、その肩に顔を埋めるフェルベール。
「大旦那様方はお仕事はよろしいのですか?アルヴィン様を愛でてお過ごしになりたいのは理解しますが、こう頻繁に屋敷に入り浸っていては…そろそろ多方面の方々にご迷惑をお掛けしてしまいます。
大奥様もお手紙や招待状が溜まっておりますし…若様も早くお城へ戻りませんと、王太子殿下が押しかけてきて…また若奥様にちょっかいを出さんとなさいますよ?」
執事のハリーの言葉に、四人は後ろ髪を引かれつつも…在るべき場所へと戻って行った。
急に静かになった広い部屋で、アルヴィンに抱っこをせがまれたハリーは、愛おしそうに彼を抱き上げる。
ハリーがこの公爵家に来た時、フェルベールは既に十歳を迎える少年であった。その時の彼の面影をアルヴィンに重ねながら、己の過去を思い返す。
若い十代の頃は王家の影として…国の為とその手を汚し、そしてその身を隠し仕事に生きた。二十代半ばは、成人した王妹であるエメリアーナの専属として働いた。彼女が結婚する際一緒に誘われたがハリーは後進を育てる為と城に残り、再度その身を暗闇に堕とした。
仕事に誇りと自信を持ってはいたが、決して日の当たる場所ではなかった。心に迷いが生じては仕事の妨げになると独り身を貫いた。ふと虚しさを感じる事もあったが、元より天涯孤独の身であると頭を振って気付かないふりをした。
そうして過ごした三十代、思いがけない人から再度声が掛かった。
「ハリー、あなたいい加減後進に道を譲りなさい!そして早くうちに来てちょうだい!何年わたくしを待たせれば気が済むの!」
お嬢様は…そのお立場や年齢が変わろうとも、変わらずお嬢様のままだった…。
そして、フェルベール坊っちゃまの成長を見守って…早十年。
日陰者として生きてきた己が、優しさに包まれた日影の道を生きられるなど、想像もしていなかった。
それがどうだ、このか弱くも幸せの象徴である宝を…この腕に抱ける喜び…。
嗚呼…己はなんと幸せ者であるか。と、ハリーは何度も反芻し…その幸せを噛み締めていた。
「ハリー爺やのお陰で助かったわ!皆この子に構いっきりで、ちっとも離れない上に対抗意識を燃やして甘やかしてしまうから…。勿論ありがたいのよ…可愛がってもらえるのは嬉しいし、この子も愛情を注がれて幸せな事なのだけど…それでも限度はあると思うの!」
「フフフ、若奥様ご安心ください。先程坊っちゃまが、この生い先短い爺に華を持たせてくださり…若奥様の次に選んでいただいたのですから、少しでも長生きをして…坊っちゃまに求められる間はしっかりと抱っこにも応えて、お守りして見せますからね!」
「あら?でもハリー爺やはまだそんな歳じゃないでしょ?うーんお義父様と同じくらいか少し上くらいと思ってたのだけど、違ったかしら?
それに私知ってるのよ!この子が危険な目に遭いそうな時、目にも留まらない速さで助けてくれているのを」
「わっ若奥様…ご存知だったのですか?」
「ええ、私ハリー爺やの立ち姿がとても好きなの!隙が無いのに威圧感は感じないし、とても穏やかで…ただそこに居てくれるだけで安心できるの。だからかしら?不思議な動きをしても気にならないし…いいえ、洗練された動きは目で追ってしまうわ!所作も上品で、紅茶だって一番美味しく淹れてくれるし!
まぁ…さすがに?この子に迫った蛇にナイフが飛んだ時はびっくりしましたけど…周りのメイド達も何事も無かった様に処理するから私も黙っていたの。でもね、それで私……気付いた事があるの。
ハリー爺や?……貴方の以前の仕事って、もしかして…」
「わ…若奥様……」(ゴクリ…)
「サーカスの人だったんじゃないかしら!?」
「へっ? サ…サーカスでございますか?」
「ええ、なんでも器用だし、ナイフ投げも得意でしょう?子供をあやすのも上手だし!でも…隠れる様にやってるって事は…表向きは秘密にしているの?」
「フフフ…フフ、若奥様には敵いませんな!年齢から何まで全てがご推察の通りでございます!若奥様のご慧眼に感服いたしました。どうぞ幾久しくそのままの若奥様でいらしてくださいませ。
ささ、そろそろお休みになりませんと…若奥様お一人のお体ではないのですから」
「そうね、私に何かあったら…隠しておけなくなるわ。それこそあの人達が騒ぎ立てて、ベッドの住人にされかねないから…。ハリー爺や、何度も言いますが、お義母様にも秘密なんですからね?
その代わり、さっきの貴方の秘密も、貴方も…私が守ってあげるわ!だから約束よ……。フフフ、一緒にみんなに打ち明けましょうね!とっても楽しみだわ。
さぁ、アルヴィン…あなたは三人もお爺ちゃまがいてとっても幸せ者ね…フフフ、言葉が分かるの?本当にいい子…とてもいい笑顔だわ!
さっそろそろ母様と一緒にお昼寝しましょうね…」
ベッドで眠る二人の顔を見て、エメリアーナに抱く感情とは…また別の愛おしさを心から感じたハリーは、初めての感情を与えてくれた二人に感謝しながら…クリスティーナから贈られたハンカチでそっと目尻を押さえるのであった…。
クリスティーナのお腹の中にふたつの小さな命が宿っているのは、ここだけの話…。
作中の『日影』は、日の光の意味合いがございます。
(日陰の対義語として採用しております。)
今回の…お孫様&ハリー編、いかがでしたでしょうか?
少しでもお楽しみいただけていると幸いです( ˙꒳˙ )ノ
ご感想、ご要望、誤字脱字の訂正、本当にありがとうございます!この場でお礼申し上げます。
1つお知らせがございます。
20話の断罪後に一瞬だけ登場した転生モブ…覚えていらっしゃいますでしょうか?あの子にスポットを当ててしまった作品を投稿中ですので、お時間ございましたら…ぜひお立ち寄りください。( ˙꒳˙ )ノ
夏の暑い折柄、
体調崩されないようお気を付けください。 雪原の白猫




