表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/29

エピローグ 〜ソフィー〜

今回はソフィーのお話です。


少し長いですが…お付き合いいただければ幸いです。


 ガタンッガタッ…ガタッ


ハッ…となる意識。

舗装されていない道に入ったのであろう…馬車の揺れと音がその事を教えてくれる。


窓の外を見れば…護衛の為でなく見張り役としての騎士が、馬車の両サイドを挟む様に並走している。

…まるで罪人を護送するかの様な扱いに首をひねるのはこれで何度目だろう…。



途中までは楽しかったパーティー会場で、あの女を見た時…自分でも抑えられない程の怒りを感じた。


何故なら、私が着たかったドレスを着て、学年一…いいえ、学園一優秀で美男子のフェルベール様と楽しそうに踊っていたからだ。


普段から他人ひとを寄せ付けないオーラを放ち、涼やかで宝石のブルーサファイアを想起させるその瞳には誰も映す事のない孤高の存在…


入学当初から女生徒達の憧れの的であった彼に、私は何度もアプローチした。体調不良や迷子、か弱い女性を装っても彼には何故か通用しなかった…。私の他にも同じ様な女が沢山いたけど、その誰もが彼を射止める事は出来なかったから、少し安心した。

そして女嫌いならしょうがないと諦める事にした…だって私は私だけに優しくしてくれる人が好きだから…そう言い聞かせて…。


それなのにっ!知らない女と笑顔で見つめ合い、身体を寄せ合い…幸せそうに踊る二人の姿を見て、裏切られた気持ちになった…誰のものにもならないと思ったから諦めたのに…と。


あの人の踊る姿も、初めて見せる笑顔も、隣の女のものだと思ったら無性に腹が立って…ダンスが終わり二人が離れるタイミングで二人に近付いて、あの人が背を向けた瞬間っ!…


私は手にしていた飲み物をあの女のドレスにかけて、何食わぬ顔で人混みに戻るはずだった…。ただ困らせて…ドレスを台無しにしてやろうと、ちょっとした憂さ晴らしのつもりだったのに…


よごしてやろうと思ったドレスは無傷で当の本人は彼の腕の中…。


一番バレてはいけない人に見られてしまった…


冷たくも美しい…そのブルーサファイアに射抜かれ、両の足がその場に縫い付けられた様に身動き出来ず、更にその足はドレスの中で震えていた。


否定しようが誤魔化そうが…彼の耳には届かない。


でもマルコム様が庇ってくれたから大丈夫だと思った。涙を流して反省したフリさえすれば、大抵の男の人は許してくれるしお父様にだって怒られた事なんてないもの、可愛いは武器なのだ。


それなのに状況が変わった。マルコム様が貧乏?ブロワ伯爵家の跡取りになれない?なんでそんな話になってるのよ!それより…それよりもっ…クリスティーナって…あの子を何度か見た事あるけど…まるで別人じゃない!

マルコム様にさえ相手にされない女が、なぜ彼の隣に立ってるのよ!


あぁっなんて事!彼はだまされてるんだわ……私がこの女の化けの皮を剥いで、一刻も早くフェルベール様の目を覚ましてあげなきゃ!



……って、良かれと思って声を上げたのに…マルコム様はあれから口も利いてくれないし、私を見ようともしなかった。どうして?悔しいわ…!

私が奪ったつもりだったのは何も残らなかった。

しょうがないから屋敷へ帰ったらお父様に泣いて謝って、しばらく学園も休みだし反省してる振りをして…それから私も自分のお店が欲しいって言ってみようかしら…


そんな考えは父に頬を打たれた事で消え失せた。二発目の手を上げた父を母が止めてくれているが…思考が追い付かない。


「お前がっ!お前が何をしでかしたか、全て聞いたぞっ!なんて事をしてくれたんだっ…この王都いや、この国でヴェントラー公爵家とブロワ伯爵家を敵に回すなんて…あり得ない。終わりだ…我々もこの子爵家も」


「そんな…大袈裟だわ…。私ちゃんと反省してるし、あの女に謝罪の手紙でも出せばいいんでしょう?それなのに私の顔をぶつなんてあんまりだわ!腫れちゃうじゃないっ」


バシーーンッ!


「お前はもう口を開くな!怒りで頭がどうにかなりそうだっ、いいか?両家には当主である私の謝罪も拒否されたのだ!この意味が分かるか?」


「それが分からないから、こんな事になってるんですよ…。ハァ…父上、デンゼル家の当主から私とテレサの婚約は白紙にすると連絡が来ました。その理由もちゃんと書かれてましたよ…この馬鹿のせいだってねっ!だから言ったんだ…甘やかすなと、厳しい教育をしないとコイツの為にもならないって!…せめて貴族の繋がりや常識ぐらいは叩き込んで学園にやるべきだったのに、それなのに…なんで…俺までこんな目にっクソッ!」


「何故お兄様の婚約が白紙になるのよっ、何故お父様が謝罪するのよ!学生同士、たかが子供の喧嘩じゃない…それも謝るって言ってるのに…マルコム様の事だって、私だけのせいじゃないわ」


「たかが…だと?そう言う事は、こちら側が言うべき言葉じゃない。被害を受けた側が、子供同士の事だからと許しを与える時だけに使うべき言葉だ。しかもお前達は成人してるんだぞ!おそらくハンセン家も無事ではないはずだ…

ソフィー、お前は何がしたかったんだ…俺や父上達や子爵家を潰してまで…。どんな高望みをしてたんだ」


「デンゼル家に切られたか…。すまないフレミネ…私達親の責任だ…。遅くに生まれた娘だからとお前の言う事も聞かずに甘やかしてしまったんだ」


「いいえっ!母親である私が…私がいけなかったのです。私とこの子は違うのに…自分が高位貴族との政略結婚に失敗したからと…勝手に同等か下の貴族に嫁いだ方が幸せになれると決めつけて、……厳しさよりも自由を選ばせてしまったのです…。甘やかすだけが親の愛情ではなかったのに…、まさか、こんな事になるだなんて……」

 

「そん…な、嘘よ…。家が潰れるなんて」


「たとえ残ったとしても、社交界にも戻れずブロワ家との取引きも出来ない家など爵位のない平民の方がまだマシだ!慰謝料だってどれだけ請求されるか…

相当なお怒りなんだ、ご沙汰が下るにも時間はかからないだろう、覚悟はしておくべきだ。

ソフィー、それまでお前は部屋を出る事はならん!」



あれから三日、五日、頬の腫れは引いたが部屋からは出してもらえない。十日後やっと部屋から出れたので、ようやく許されたと思ったのに…告げられたのは絶望だった。


「ソフィー、お前を子爵家から籍を抜き…ウェールズの修道院へ送る事にした。出発は…明日だ」


「なんでよっ!十日も閉じ込めておいて、許してくれたんじゃないの?ウェールズってどこよ!いやよっ私行かないわ!どうせあの女の嫌がらせでしょう?私から全て奪って家族からも引き離そうだなんてっ許せない」


パシッ!


「いい加減になさいっソフィー!あなた…この十日間ずっと反省している振りをしていたの?何故そんなにも愚かな考えになるのっ。いい?ブロワ家のお嬢様はあなたを許してくださったのよ!あんなに酷い事をしたあなたを、わたくし達家族に託してくださったの」


「なら…なんで……」


「私達の決断は間違っていなかった様だな…。ソフィー、三日前フェルベール卿がいらっしゃって…全てを聞いた。パーティーの事しか知らなかった私達は、お前達の学園での様子も…ブロワ家に対し、何を企みどう計画していたかをな!

いくらクリスティーナ嬢が許してくれても我々は…許せない…、いやっ許してはいけないんだ」


「わたくしも同じ女性として…その話を聞いた時、あなたを軽蔑したわ、だから決めたの。貴族の在り方なんてものより…人としての更生をさせるべきだとね」


「そんなっ……。わっ分かったわ、これからは心を入れ替えてきちんと反省するわ!だから修道院なんて言わず、ここにいさせてっ!ねっ?お願いよお父様!」


「その入れ替える為のまともな心も無く、何を反省するかも分かっていない今のお前の願いなど誰が聞く!いいか?これはお前が真っ当になれるかどうかの最後のチャンスであり、父上達の愛情だと思えっ!

いい加減甘えた考えを捨て、自分の愚かさと欲深さを知れ!そして己の罪の何たるかを理解するんだ。それが出来るまで帰ってくる事は許さない」



 ガタンッガタッ…ガタッ


翌日、まだ朝も来ていない時間に馬車に乗せられ…遠い場所へと向かう馬車の中で、やる事もない私は眠って…目を覚まして、夢ではないと知り何度も自棄を起こしそうになった。その事を何度も何度も繰り返しながら考える時間は沢山あったのに、パーティーの事もマルコム様の事も、……私を捨てた家族の事だって全て、思い出したくもなくて隅に追いやって蓋をした。


でも土地が変わったのか、寒くなってきて…急に不安になってきた。知人も頼る人もいない知らない土地で…何年過ごせばいいの?何をさせられるの?私は…帰れるの?私の中で怒りよりも不安が膨らんできた時、馬車が止まり御者から荷物を渡された。中を見ると厚手のコートやひざ掛け、マフラーなどの防寒具と本が数冊入っていた。そして手紙が一枚…筆跡の違う文字が三行だけ、


『 いつまでも待っている 』

『 これからも愛している 』

『 本読んで勉強しろバカ 』


それは手紙とも呼べないメモの様な物だったが…それを見た私は初めて心からの涙を流した。

無償の愛をくれる家族になんて事をしてしまったのだろう、年下の彼女をあんなにも傷付けてまで手に入れたいと欲したものは、全て私の指の間からすり抜けていったのに…全て失ったと思っていた私の手の中には家族の愛情が残されていた……。


私はコートを抱き締めながら声を上げて泣いた。


馬鹿な娘で…妹でごめんなさい。

クリスティーナ様…貴女の大切な人をそそのかしてしまい、

パーティーでも酷い事を言ってしまってごめんなさい。

フェ…公爵令息様、大切な人を傷付けてごめんなさい。


今、私のこの声が届く事はなくても心から謝罪をした。

私が犯した過ち…過去は変えられないけれど、いつかそれが許される時が来るならば…戻りたい、家族の元へ。


ここまで更に長い時間がかかった、己を悔いて沢山涙を流した。しかし、目的地に着く前に気付けて良かった…。私の不安感が心の拠り所を求めただけかもしれない…。それでも…怒りを捨て、傷付けてしまった人達の温情と愛情に気付けた事はマイナスではない筈だ。


「もうすぐ着きますので、ご準備を」と、御者から声が掛かったので私は涙をぬぐって答えた。


「準備は出来ました、大丈夫です」と。



欲深く愚かだった彼女は弾劾され、断罪を下された。


しかし彼女が断罪へと向かう途中、茨の道に新しい道が出来たのだ。これから待ち受ける試練の中、元の道に戻るか更に新たな道が増えるのかは…きっと彼女自身の成長にかっていくのだろう。

心が成長した彼女が、その時何を望むのか…


その望みが、彼女を思う家族のものと同じものである事を願うばかりである。




ソフィーの持ち物の中に、刺繍セットと、銀箔を使った美しい刺繍糸が入っている事は…ここだけの話。



今回…

前話とは打って変わり少しシリアス味が出ましたが、

如何だったでしょうか?勿論この結果には賛否両論あるかと思います。作者自身、どうギャフンさせてやろうかと思っていましたが…

何故か情が湧き、この様な結果と相成りました…。

皆様の広いお心で受け入れていただけると幸いです!


残すはあと一人…そうマルゲスが残っています!

なので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 

                    雪原の白猫



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ