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お立ち寄りいただきありがとうございます。
今回最終話となりますが、前話同様…女性軽視と思われる言い回しや表現がありますので…苦手な方はご注意ください。
それでは最終話本編、お楽しみいただけると幸いです。
クリスティーナを納得させ、二人に向き直ったフェルベールは先を続ける…。
「それから…ここにいる皆にも誤解のない様に言っておくが、クリスティーナが俺の同情を買ったのではなく、俺と俺の母…ヴェントラー公爵夫人がクリスティーナの才能を買い、その上でクリスティーナの経営するウェンティーナへの支援を決めたのだ。
そしてこのドレスは、今言ったクリスティーナの店から購入した銀糸を使い仕上げ、俺が贈ったドレスだ。
ブロワ伯爵家にしても、この女は成金などとふざけた呼び方をしたが…王都の物流はブロワ商会があってこそであり、その上他国との繋がりも強い。その人脈や財力は王家も頼りにしており、俺達の親世代の貴族であれば誰もが知る所だ。
そんなブロワ伯爵に、領地ごと何度も助けられ…最大の恩があるにも拘らず、仇で返すどころか…後ろ足で砂をかけるような貴様の所業を知ったハンセン伯爵であるお前の父や兄達はどうするだろうな?」
「クックリスティーナ!さっきの婚約者ではないとは…どういう事だ…。俺に捨てられて困るのは、おっお前や…後継者がいないブロワ伯爵家だぞ!今ならまだ聞かなかった事にしてやる…。俺はな…ブロワ家を継ぎ、父や兄達にも俺に頭を下げさせ…そして貧乏領地ではなく、何不自由なく暮らす為…長年冴えないお前と一緒にいたんだぞ!
そもそも額に醜い傷が残り、女としての価値も無いお前なんて…」
「ですが貴方は面倒だと言った!私が慕う事も、跡を継ぐ事もっ。精神的にも肉体的にも解放されて……自由が欲しいと……そう望んでいる事をっ…わたくしはこの耳でハッキリと聞きましたっ!
それでもブロワ家を継ぐのは、せめてっ!せめて…実家や領民達の為だと…いっ…言って…言って欲しかった…
それっそれなのにっ、真実の愛を貫くでもなく…虚栄の為だなんて………」
…怒りのせいか…悲しみからなのか、クリスティーナは大粒の涙をポロポロと流し…マルコムを責めた…。
そんなクリスティーナをフェルベールが背後から抱きしめ声を掛ける。
「クリスティーナ…もういい…泣くな…。いくら幼馴染とは言え、こんな奴に情なんて残さなくていいっ!
さぁゆっくり呼吸して落ち着くんだ…。俺を見て…。
フフッいい子だ!よしっ、乱れた髪を直してやろう」
「先程…フェルベール様が…撫で回したからです…」
グスグスと泣いているクリスティーナの頭を再度撫でながら、ハラリと落ちてきている前髪を…フェルベールの長い指で横に分け…そしてその額に愛おしそうにキスを落とす…。
額へのキスは、本来子供が眠る時に悪い夢から守り、良い夢を見られる様にと…親が子供に贈るキスなのだが……泣き止ませる為とはいえ、そのキスにはあまりにも愛が込められているかのように誰の目にも、そう映った…。
「クリスティーナ、傷なんてどこにも無いぞ。それにたとえ傷があろうとも…それぐらいで君の価値は落ちたりしないし、君の素晴らしさは俺だけが知っていればいい…。君は俺の唯一であり、特別なんだ。だからどうか…俺、いや…私の婚約者になってほしいっ…」
クリスティーナの額にキスを落とした後、クリスティーナの両頬を包み上を向かせていたフェルベールは、おもむろに跪き…クリスティーナの手を取り懇願する。どうか自分を選んでくれ…と。それを聞いたクリスティーナは…
「っ!!…はっはい?…フェルベール様っ!おっお気を確かっっヘブッ!!」
「ああっ!ありがとうっ!…ありがとうクリスティーナ!こんなに嬉しい事は初めてだっ!俺は世界一の幸せ者だっ!」
ガッ!と立ち上がり、ガバッ!とクリスティーナに抱きつき、ムギュッと抱きしめるフェルベール…。その顔は喜びに満ち溢れ、先程マルコム達に制裁を加えていた時とは…まるで別人だ。
それを見守っていたフェルベール以外の観衆の殆どは、
(ん?今ブロワ伯爵令嬢のはい…YESのはいだった?)
(ぇえっ?お気を確かにって…言われてましたよね?)
(語尾に?ついてたのに?公爵令息…絶対わざとだ!)
(即抱きしめ二の句を継がせないとは噂に勝る策士!)
(嫌よっ孤高の銀狼様が…こっ婚約なさるだなんて!)
(あ〜ん、ショックだけど笑顔が超レアすぎて神ィ!)
(ブロワ伯爵令嬢って初めて見たけど…天使すぎん?)
(美男美女でめでたしめでたしか…末永くお幸せに!)
(公爵令息に喧嘩を売るとは…あの二人終わったな…)
(あの話題のお店の経営者様?お友達になりたいわ!)
(異世界転生きたーー!!え…ざまぁ終了?私モブ?)
(あいつら忠告したのに…まぁ因果応報、自業自得か)
様々な思いや感情が交錯するパーティー会場。
その中心には…今まさに人生の明暗を分けた二組のカップルの姿があった…。
これから先の長い人生…
周囲から祝福され、輝かしい道を歩むだろう二人と、
周囲から背を向けられ、茨の道を歩むしかない二人…
彼らの分岐点にはクリスティーナがいた。
クリスティーナの愛は要らぬと捨てたマルコムと、愛していると手を差し伸べたフェルベール…この先彼らの人生が交差する事は決してないだろう。
先程のフェルベールの申し出を…奇行に走ったと焦り驚いたクリスティーナだったが、隣を見上げると、笑顔を返してくれる優しいフェルベールがいる。
自分達の未来も未知のものではあるが…信じてみようと思わせてくれた人物…。そう遠くない未来、彼の手を握り返す自分の姿を想像してしまう。
そして目の前には往生際悪く、現実を見ようとしないマルコムがいる。駄々をこねる幼子の様なその姿に、クリスティーナは幼い頃のマルコムを思い出し…思わず胸が締め付けられる…。どうか彼が歩む茨の道にバラの花が咲く瞬間が訪れる様にと祈らずにはいられなかった…。
そしてかつて愛した男と決別する。
…「貴方が望んだ事ですよ」…と、そう胸の中で呟き…パーティー会場を後にしたのであった……。
〜完〜
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
有り難い事に、ブクマや評価もいただきそれらを糧に
最終話まで頑張れました。
「それぞれのその後をどうしようかと悩みましたが、
20話とキリの良いところで一旦完結としましたが…お声をいただけたり、時間があればエピローグなど追加したいと思っております」
(なので少しでもこの作品を面白かったと思っていただけていたらブクマを外さないで、また立ち寄ってもらえると嬉しいな〜)なんて希望を込めたお願いです。
それではまた…この他の作品や、次回作にて…再び皆様と繋がれる事を切に願っております。
最後にもう一度だけお礼を言わせてください。
この作品を選び、そして最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。とっても楽しかったです!
ー雪原の白猫ー




