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17.

お立ち寄りいただきありがとうございます。



 クリスティーナ達が通う王立学園では貴族の令嬢令息が多く通っており、長期休暇の前には授業の一環として盛大なパーティーが開かれる。交流会から夜のダンスパーティーまでが流れとなっており、学生のみの参加なので友達同士や一人で参加する者も珍しくはなく、婚約者を持つ者達は互いにパートナーとして、また…その日までにパートナーを作るのだと意気込む者達もいた。

十六歳から十八歳までの成人を済ませた若者達が集うパーティーなど、なかなか機会がないので年に二回開かれる学園のパーティーは公式なものと見なされ、殆どの生徒が参加を希望するのでそこそこの規模のパーティーなのであった。




準備を終えたクリスティーナを見た専属メイドのサーシャは、公爵家から送り込まれた美容専門のメイド達と喜びを分かち合い、父ランドルフは大袈裟にも母ビオレッタの姿絵をテーブルの上に置いて話しかける有様だ…。

周囲のこの反応から安心したクリスティーナはメイド達に丁寧に礼をして、今流行りの物や…美容グッズについて話をして緊張を和らげていたが、ついにその時が来てしまった……


玄関ホールへと続く階段を降りて行くとその先には…黒を基調とした礼服に身を包み、華やかな色気をまとったフェルベールがこちらを見て笑顔になる。


「クリスティーナ嬢、予想していた以上によく似合っている!綺麗だっ!とても美しいっ!俺の色だっ!

あぁ…目立たないつもりが、これでは男子生徒全員の注目を浴びてしまうじゃないか!伯爵っ私はどうしたらいいだろうか…」


「フェルベール卿…この度は娘が何から何までありがとうございました。今日こんにちのクリスティーナがあるのは、ひとえに公爵家の皆様のお陰でございます。ブロワ家家長として…父親として心よりお礼申し上げます。しかしながら…クリスティーナは長年婚約者もどきと共に過ごしてきたとは言え、色恋にうと初心うぶな小娘でございます…。ですので…どうか、どうかお手柔らかにお願い申し上げます…」


「ブハッ!いや!すまない伯爵。貴殿の仰る事は肝に銘じます。私とて刺し違える覚悟を持った伯爵に刺されたくはありませんからね!クリスティーナ嬢と誠実に向き合う事をお約束します。

公爵家や私の名を利用する事は微塵も頭に無く、クリスティーナの幸せだけを願う貴方を私は尊敬します」


「なっ!フェルベール卿…そっそんな物騒な……しかしご配慮いただき…ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします…」


「任されました。では、クリスティーナ嬢会場へ向かう前に一度公爵家へ寄らねばならないから、そろそろ出発しよう!」


爽やかな笑顔でクリスティーナをエスコートし、伯爵家を出発した二人の乗った馬車を見送りながら、ランドルフは先程のやり取りを思い出し…身が縮む思いであった…。


馬車の中ではフェルベールもその事を思い返してクツクツと笑っていた。


(全く…伯爵はああ見えて血の気が多いのだな…)


『いくら公爵家の嫡男であっても、クリスティーナが涙を流す事にでもなったら…刺し違えてでも許しはしない。クリスティーナに誠実に向き合う男しか許さん』


これまで自分の娘を利用してでも近付いて来ようとする貴族ばかりを相手にしていたフェルベールは、聞こえてきたランドルフの強い声に驚き…とても嬉しくなってしまい、ついランドルフの言葉を借りて返事をしたのだった…。


公爵家に立ち寄ると、エメリアーナは嬉しそうにクリスティーナを褒めて、フェルベールの隣に立つ最後の勇気に必要な自信を授けた。

そんなエメリアーナに母親の姿を重ねたクリスティーナは涙を滲ませるが、一緒に戻ってきた公爵家のメイド達の素早いお直しによって、何事もなく学園へと向かう事が出来た。




馬車の中では、クリスティーナの事を気遣うフェルベールから手を握られ、緊張してるのか…安心できるのか…どちらともわからないドキドキに苦しめられたが、鏡に映っていた自分の姿を思い出し…深呼吸で心を落ち着けた。


(大丈夫よ…前髪の無くなった私の顔を知る人はいないし…マルコムだって覚えてもいないはずだわ。そもそも広い会場で、学年も違うのだから余程で無い限り顔を合わせる事もないかも……。

大丈夫、今日の私は謎の令嬢よ!謎に包まれた令嬢に徹するの…いざとなったらラファールの名前を出そうかしら?初顔の令嬢は実は隣国のご令嬢とあらば誰も私に結びつけないでしょうし…これならフェルベール様の汚点にもならないわ!今日さえ乗り切ればっ)


「クリスティーナ嬢?…あまり変な事を考えないでくれないか?フフッ君は存外想像力が逞しいのだな…」


「わっわたくし…声に出て…ました?」


「いや…まぁ、その…とにかく、色々考え過ぎずに…気楽に楽しもう!一応あいつらの動向を追うように手配はしているから、君は俺の側から離れないようにしてくれ」


御者から到着したと声がかかり、エスコートを受け馬車から降りたが…それはもう、分かりやすいほどに注目されていた。


同じ馬車から降りてきた事、意匠を凝らし…さり気なく揃えた二人の装い、そしてエスコートをするフェルベールの優しい表情。女性の悲鳴さえも混じる声は…ザワザワと波紋の様に広がっていった。


「前を向くんだクリスティーナ嬢、君なら大丈夫だ」


沢山の注目を一気に浴びた事で、思わず馬車に戻りたい気持ちだったクリスティーナは、フェルベールの言葉にハッとして考える。自分が今…誰の隣に立っているかを……。

気持ちを切り替え…会場までを堂々と優雅に歩き、広い会場へと入るが…いかんせん前髪の無くなったクリスティーナの視界はすこぶる良いので周囲の様子がよく分かる。

「何かに困ったり、緊張した時は俺を見るんだ」と、馬車でのフェルベールの言葉を思い出し隣を見上げると、険しい顔から途端に笑顔を向けてくれる。ホッと安心したクリスティーナは険しい顔の理由を聞いてみた…

「フェルベール様も緊張なさってるのでしょうか?」


「緊張?フフッ…いや普段の俺は大抵こんな顔だぞ。今はクリスティーナ嬢を見てくる男どもを威嚇しているところだ」


「まぁっ!でしたらわたくしも…フェルベール様のお姿を見て、頬を染める沢山のご令嬢達を威嚇…いえ、笑顔を返しておきますわね!」


フフッとふわりと微笑むクリスティーナを見て、

「その調子だ」とクリスティーナを褒めるフェルベールは頬を赤く染めながらも周囲への威嚇を強めた。


立食形式で会話を楽しむ交流会では、フェルベール達が話題となっていた。

普段女性と目も合わせず、常に厳しい表情のフェルベールが、パートナーの女性を優しくエスコートして側を離れないのだから…その姿を一目見ようと遠巻きに学生達が集まるが、パートナー以外には容赦無く殺気をも放つフェルベールのせいで、誰も二人には近付けないまま時間が過ぎていった…。


音楽のボリュームが上がりダンスの時間が始まると、フロアの中央で、その二人が優雅に踊り始める…


二人の美しさに…熱のこもるため息や歓声が上がるが、互いを見つめ合い…息の合ったダンスを踊る二人は、周囲を気にする事なく二人の世界を作っていたのだった……。











次回ようやく登場します…

広いお心で付き合っていただけると幸いです( ˙꒳˙ )ノ

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