14.
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クリスティーナが学園帰りに公爵家での教育を受け始めるようになって、しばらく経った頃です。
「で?何故君は…、こんな所に隠れてモソモソと一人で食べているんだ?それにその前髪も…」
学園の昼休み、人気の無い木陰で昼食を一人でとっていたクリスティーナに、フェルベールが腕を組みながら質問をしている。
前髪を下ろし、人目を避けるように過ごしているクリスティーナは、顔を上げ…フェルベールの目を見て答える。
「フェルベール様、声を抑えてください…。この件はエメリアーナ様も交えてお話ししましたでしょう?」
父であるランドルフからの許可も出て…教育を受ける為、公爵家に通うようになっていたクリスティーナは、フェルベールに対して少しずつ慣れていき…幾分かは普通に会話出来るようになっていた。
そして…公爵家の高度な教育により、これまでよりも磨きがかかったクリスティーナの姿を見て、マルコムの態度が変わり…警戒されても困るので、マルコムと決着がつくまで学園ではこれまでの姿で生活しようとクリスティーナ達は決めたのであった。
「まぁ…変に縋られても困るからな…。それはそうと昼食は一緒に食べようと言っていただろう?」
「またその様な事をっ!フェルベール様は、ご自分の人気を認識なさるべきです!わたくしなんかと一緒に居てはフェルベール様の沽券に関わってしまいます」
プイッと顔を背けるクリスティーナの耳が赤くなっているのを見逃さないフェルベールは、片手でクリスティーナの頬に手を当て自分の方に顔を戻し、もう片方の手で下ろされた前髪をよけその瞳を見つめる…
「クリスティーナ嬢?今また…自分なんかと発言したな?」
他人の感情や考えている事がある程度分かってしまうフェルベールは、クリスティーナが嫌がっているわけでもなく、怒っていない事も分かっていた。
(全く…俺の事を利用すればいいものを…本気で俺の心配をしているんだから、クリスティーナは相変わらずだな…)
フェルベールは責めるような口調で…内心では、クリスティーナがスミレ色の瞳を大きく見開き、何も言えず真っ赤に頬を染め自分を見つめる姿を見て楽しんでいただけなのだが…
そんな…二人の頭上から声が聞こえてきた…。
「マルコム様?今度のパーティー、エスコートしてくださるのですよね?それでしたら〜お互いの衣装も合わせたいですわ!」
「おいおいソフィー嬢…エスコートに揃いの衣装でパーティなんかに出たら、さすがにマルコムの婚約者殿も気付くんじゃないか?
マルコムも…クリスティーナ嬢をエスコートしなくていいのか?それに、最近一緒にいる所を見ないが…」
「あぁ、しばらく放置し過ぎていたから…この前帰りに送って行くと声をかけたんだが、それをあいつは…用事があると断ったんだ、その上俺も忙しいだろうから、今後も送り迎えはしなくていいと言ってきた…。
フンッ、独り立ち大いに結構!自分が相手にされていないと、ようやく気付き始めたんだろうな…こっちはあいつのお守りから少しでも解放されるとせいせいしてるんだっ!だから俺はこれからも好きにするつもりだ」
「お前それとこれとは話が違うだろ?…何をやけになってるんだよ、お前それでいいのか?パーティどうするんだよ」
「俺が誘わなかったら参加しないだろうね、ドレスも贈っていないし…あいつ一人では参加なんて出来やしないから、俺が誰と参加しようが関係ないだろう…まして誰かと揃いの衣装になろうがバレやしないっ」
「いやいや本気か?いくら学生のみの参加とはいえ…学園内とは違って正式なパーティーなんだぞ?」
「ねーキリアン?…何がそんなに問題なんだよ、これまでだってマルコムはソフィー嬢とばかり一緒にいたけど…誰にも何も言われてないし、当のクリスティーナ嬢だって…」
「ダニー様の言う通りですわ〜!マルコム様の婚約者のクリスティーナさんよりも、わたくしの方がよっぽど婚約者だろうと周囲には認識されてますのよ?勿論公言はしてませんけど…そんな私達二人がパートナーとして学園のパーティーに出席して何が悪いんですの?」
「はぁ…ダニーはともかく…君は子爵家だろう?」
「っ…なっ!」
「おいっ、今…俺の男爵家をバカにしたなっ!」
「まぁまぁ二人とも落ち着いてくれ、キリアンもそんな言い方はやめるんだ。お前が言いたいのは…どうせ婚約は家同士の契約が〜ってやつだろう?」
「当たり前じゃないか!俺はお前達と一緒にはいるが婚約者に対して最低限の義務は果たしているぞ?それが公式の場なら尚更だ…」
「いいんだよ、俺とキリアンの最低ラインが違うだけさ!所詮クリスティーナには俺しかいないし、伯爵からの信頼も厚い。両家もそれを望んでいるんだから…そんな簡単に壊れる様な関係性ではないんだ。
俺は幼い頃からあいつの面倒を見てきてやったんだ…少しの自由と学生時代の遊び心ぐらい、目を瞑って許してもらわないと割に合わない」
「まぁっ!もしかしてマルコム様はわたくしの事も遊びだとお考えなのですか?」
「ソフィー、そんな事ある訳ないだろう?心配いらない、今度のパーティーも一緒に行こう!私と君は一蓮托生なのだから…ね?分かっているだろう?」
「フフフッ…マルコム様ならきっとそう仰って、わたくしを選んでくれると思ってましたわ〜」
「たくっ…俺は注意したからな!ダニー…お前も貴族の生活を手放したくないのなら、婿入り先や実家に見放される真似だけはするなよ!」
「お…おぉ、分かったよキリアン…」
マルコム達が食事を終え戻って行ったのだろう…静かになった階下の木陰で、フェルベールが鬼のごとき形相でクリスティーナにマルコムの事を確認するのだった……。
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