11.
読んでいただきありがとうございます。
今回はクリスティーナの素が見え隠れするお話です。
手触りの良い高級寝具のおかげもあり、有り得ない状況下でもぐっすりと良質の睡眠をとれた私は、寝起きの頭をフル回転させ…状況を今一度整理した。
軽く身支度をして心構えをしたところで
「お嬢様、お目覚めでしょうか?」とメイドさん達がやってきて、あれよあれよと支度を整えてくれる。
前髪は…やはりサイドに流されておでこがペカーッと出ていて落ち着かない…。髪のセットもお化粧もドレスも全て流行のもので、朝からドキドキが止まらない。私がいくら遠慮しても「奥様から申しつかっておりますのでご安心ください」と笑顔で返されて為す術なしなのだ…。
食堂には、公爵夫人様とフェルベール様がいらっしゃったのでお礼と挨拶をするが…お二人が眩し過ぎて目が潰れそうになった…
(朝の日差しのせい?磨き上げられた調度品のせい?物理的に遮るものがなくなったから?前髪がないと直視出来ないわ!)
心の中で盛大に慌てている私をよそに公爵夫人様が
「クリスティーナ体調は?」と心配してくださり、私の呼び方をやんわり注意された。
「……奥様…」
「……貴女はうちの使用人ではないでしょう?」
「…っ!……エメリアーナ様…」
「フフッ嬉しいわクリスティーナ!」
(ああっ!なんて事っ、私が公爵夫人様のお名前をお呼びするだなんて…!豪華な朝食も何を頂いたか記憶が………えっ?これは何…見ただけでプルプルしてるのが分かるわ…デザートよね?)
給仕の方が「こちらのプリンはスプーンでお召し上がりください」と教えてくれた。
フェルベール様もすくって召し上がっていらっしゃるので私もそれに倣って口へと運んだ。
(ンムーッ!………な…なんて事…なんて事っ!こっこれはっ…つぅるんとしてて、甘くて、とろけて……こんなの食べた事がないわ!なんて…なんて美味しいのっ!プリンね…覚えたわ!サーシャが言っていたお洒落なカフェで流行りだしたデザートも確か同じ名前だったわ…これが…そうなのね……。はっ!落ち着くのよ、ここは公爵家…私の目の前には高貴な方達がいらっしゃるのよ!取り乱してはいけないわ、深呼吸して……スーハー…っ!いやだっ!鼻から抜けるこの甘い香り!異次元へと誘われてしまいそうになるわ…。この滑らかな甘さと美味しさはかなり罪深いわね……あっ、あっ…なんて事!最後のひとすくいになってしまったわ、より味わって………えっ?)
コトッと私の前にプリンが置かれた。よく見なくても先程のプリンなのはわかったが……しかしこれは…
(えっ、えーー!プリンの上に生クリームとフルーツが……えっ?これはどういう事?…もしかして私が頂いてもいいのかしら?)
給仕の方と目の前のお二人を交互に見やるとどちらも笑顔で頷いてくれている…。
(あっ…あー!どうしましょうっ…私のなけなしの淑女という名の理性が飛び立つ準備をしているわ……
こうなってしまっては覚悟を決めるしかないわね、さぁ…その白い鎧とカラフルな武器を手にしたあなたはどんな進化を遂げたのかしら…)
私は一旦口の中を紅茶でリセットして、慈しむような手つきでそれに挑んだ……。
(完敗だわ……この完璧かつ、甘美なる誘惑に勝てる人間などいないわ…。完膚なきまでの敗北を認めるから…どうか存分に味わわせてちょうだい……)
滑らかで甘い生クリームと、僅かなフルーツの酸味…その二つを卵の風味と優しい甘さで包み込み、これぞ正しく三位(味)一体が具現化していると言えよう…私は深く感動しながらその至高のプリンを余す事なく味わった。
「フフッフッ…フ、クリスティーナ、プリンが気に入ったのね!いいわ、お土産に持って帰れるように追加で作らせましょうねっ」
(…!っ冷静に向き合っていたつもりだったけれど…エメリアーナ様にはなんでもお見通しなのですね…恥ずかしいわ…)
クリスティーナが夫人に控え目にお礼を言いつつ、顔を上げ視線をそちらに向けると…夫人の隣のフェルベールは顔を背け手を口に当て、肩を揺らしている。
「あの…フェルベール様はいかがされたのですか?わたくし…その…申し訳ありません、プリンに我を忘れてしまい…淑女にあるまじき姿で…」
「違うのよクリスティーナ…貴女の姿を悪く思う事なんてないのだから、この子の事は気にしないで」
「し…しかし…ハッ!…では、もっもしかして…私が頂いた先程のスペシャルなプリンは……フェルベール様の為のプリンだったのでしょうか?……」
「ブハッッッ!ハッーハーもう…もうダメだっ……」
「ちょっとフェルベールったら!フフッフハッ…」
クリスティーナの愛おしそうにプリンを食べる姿や、盛大な勘違いからフェルベールの心配をしている姿に、笑いを堪えきれなくなった二人が大爆笑していると…
「ささっ…ブロワ様、紅茶のおかわりをどうぞ。このお二方はほっといて大丈夫でございますよ」
執事のハリーはクリスティーナを気遣いながらも、お腹を抱えて笑っているフェルベールを見て、嬉しそうに微笑んでいた。その慈愛を感じさせるハリーの笑顔はクリスティーナの不安や心配な気持ちも和らげてくれたのでクリスティーナもそれからは紅茶を楽しみ、客室へと戻り…帰り支度をメイドに頼んだ。
するとそのメイドから「お昼からは奥様とご一緒にお過ごしになると聞いておりましたが…」と言われたので、確認に戻ると…
「あぁ、そうだった!言い忘れてたわ。
クリスティーナ、貴女しばらくうちに通って公爵家の教育を受けてみない?今後の仕事に関しても、わたくしは資金と名を預けますが…個人的に貴女の応援もしたいの!行儀見習いや花嫁修行だと思って、ね?試しに今日の午後もうちの家庭教師を呼んでいるから受けてみて!きっと貴女の自信に繋がるわっ!」
「…っ!!……エメリアーナ様のお心遣い…有り難く頂戴いたします。今後の事は父に話を通してから、改めてお返事させていただきますが…本日はお言葉に甘えさせていただきとうございます。貴重な機会を与えていただき感謝いたします」
夫人の爆弾発言に内心ではとても驚き、慌てていたが、これからは仕事でも指示を仰ぎ、繋がりを持ち続けたい相手でもあるので…先程飛び立った理性を総動員して動揺を抑え込み粛々と返事を返したのであった……。
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