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ささいなことで別れてしまった

作者: 一布
掲載日:2023/11/19


 彼女と別れた。

 三年も付き合っていたのに。

 結婚だって考えていたのに。


 考えていた、というよりも、その予定だった。

 ただ、すぐに結婚できない理由があった。


 俺の借金だ。


 恥ずかしい話だが、昔の俺はクズだった。キャバクラの女に入れ込み、数百万の借金をした。それでも、キャバクラ通いをやめられなかった。


 そんなときに出会ったのが、彼女だった。


 彼女は、俺の目を覚まさせてくれた。キャバクラの女に入れ込み、どんだけ貢いでも、決して振り向いてくれることはない。ただの金づるに過ぎない。


 俺の目は覚めた。キャバクラに足を運ぶことはなくなった。


 当たり前のように、目を覚まさせてくれた彼女に恋をした。


 俺達は付き合い始めた。幸せだった。少しずつ借金を返しながら、一緒に暮らした。それほど裕福ではないが、幸せだった。


 付き合いが長くなれば、当然、結婚の話も出てくる。


 結婚したい。一生一緒にいたい。結婚しよう。


 そこでネックとなったのが、俺の借金だ。


 俺は必死に働いて、借金を返した。

 彼女も協力してくれた。


 彼女のお陰で返済のペースは格段に上がり、とうとう完済できた。


 二人で苦難を乗り越えた。その事実は、俺達の絆をより一層強めたはずだった。


 それなのに。


 こんなささいなことで、俺は、彼女に別れを告げられた。


 困難を乗り越えた二人だからこそ、ささいなことなど許し合えると思っていた。


 互いに好きだからこそ、ささいなことなど許して貰えると思っていた。


 それなのに、俺達は終わった。


 遠くの夜空を見つめて――虚空を見つめて。


 俺は一筋、涙を流した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 彼氏と別れた。


 結婚しようと約束し合った彼だった。


 けれど、彼には数百万もの借金があった。そんな状態では、とても結婚なんてできなかった。


 借金を返し切ったら、結婚しよう。そう話し合った。


 それからは必死だった。彼は残業を積極的に行ない、遊びに行くこともなく借金返済に充てた。


 私も協力した。残業をして、お金を貯めて、彼の借金に充てた。


 けれど、私達にも生活がある。生活費を捻出しながらでは、なかなか借金は減らない。なんといっても数百万だ。簡単な額じゃない。


 私は、彼には内緒で、キャバクラで働き始めた。昼間の仕事よりも、格段に稼げた。贔屓にしてくれる太客もできた。お金はどんどん貯まり、借金返済のペースは一気に上がった。


 そして、借金を完済した。

 同時に、私はキャバクラを辞めた。


 私達は喜び、家で、久し振りのお酒を飲んだ。乾杯。これでようやく、結婚できるね。二人で、涙を流しながら喜び合った。


 ある日。


 借金がなくなって身が軽くなったのか、彼は、仕事の同僚と飲みに行きたいと言った。


 私は快く許可した。


 飲み会の日。彼は、終電の時間を過ぎても帰ってこなかった。連絡をしても、通じなかった。


 彼が帰宅したのは、朝の九時だった。


 当然、私は、彼に何をしていたのか問いただした。


 彼は同僚数人と飲みに行った。その中には、女もいた。酔った勢いで、女とホテルに行った。ホテルでやることと言えば、ひとつしかない。


「寝ちゃって、気が付いたら朝になってたんだ」


 その「寝ていた」は、「眠っていた」とは別の意味のはずだ。


 彼は平謝りしてきた。挙げ句、こんなことを言った。


「一緒に頑張ってきただろ? ごめん。謝るから。こんなささいなことなんだから、許してくれよ」


 ささいなこと?


 私は激怒し、家を出た。彼に別れを告げた。もちろん、結婚の話はナシだ。


 私は、彼の借金返済のために、キャバクラで働いたのに。太客を捕まえて、一生懸命奉仕したのに。


 枕営業までしたのに。


 家を出て、あてもなくフラついていた。とりあえず、今夜泊るところを探さないと。


 考えていると、ポケットの中でスマホが振動した。通話着信のバイブだ。


 スマホを取り出し、画面を見た。例の太客からだった。


 私は電話に出た。


「もしもし?」

「よかった。繋がった。ねえ、店、辞めたの?」

「はい。もう、目的は果たしたんで」

「目的?」


 私は、客に事情を話した。彼の借金返済のために頑張っていたこと。でも、彼に浮気されたこと。浮気を「ささいなこと」なんて言われたこと。もう別れたこと。


「じゃあさ、提案なんだけど」


 客は、ベッドの中で囁くような優しい声で言った。


「俺のマンションに来ないか? 君と暮らせたら、楽しそうだ」


 私には、今夜の寝床すらない。彼氏の借金返済を手伝ったから、大してお金もない。


 断る理由などなかった。


 即答して、私は、彼のマンションの場所を聞いた。


(終)

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