Epilogue 宇宙(そら)へ・3
「分かった、分かった」
苦り切った顔で小さく頷くと、アディは苦笑しながら改めてリサに向き直った。
「──リサ」
「は、はい・・・!」
いきなり名を呼ばれたリサが、雷にでも打たれたようにビクッとなって振り向いた。
「今日までの俺の人生の半分以上が、イェレと共にあった。大事なことの大半をイェレから教わり、イェレを見習って生きて来た。イェレは俺にとって、父親以上の存在だ」
両手をそっとリサの肩の上に置いたアディが、じっとリサの菖蒲色の瞳を覗き込むように見詰め、穏やかな口調で丁寧に言葉を並べた。リサはメルツェーデスより背が高いと言っても、アディとはまだ10センチ以上の差がある。
「俺はこれからも、イェレと一緒にドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)として生きて行く。君のイェレへの思いと一緒に」
そう言うと、アディはゆっくり腰を落とした。リサが誘い込まれるように目を閉じて顎を上げると、アディはリサの小さな紅唇に唇を重ねた。
「ありがとう・・・ありがとう、アディ・・・!」
唇が離れると同時に、リサの目から涙が筋を作って頬を流れ落ちる。
「父にも母にも、貴方にもメルツェーデスさまにも、心から感謝しています。貴方に再び出会えてよかった・・・!」
涙声のリサはそれだけ言うのが精一杯で、後はアディの胸に顔を埋めたかと思うと、堰を切ったようにわんわん泣き出した。激しく肩を震わせるリサの背中を、これ以上ないという優しい目付きのアディが、そっと包み込むように擦り上げた。
「アディお兄さま」
そう呼ばれて、アディは気が付いた。
先程から、メルツェーデスはアディのことを、“シン”と呼んでいない事に。そしてそれが、ずっと兄を想い慕い続けて来たメルツェーデスにとっては、口で言うほど簡単な事ではなく、決して小さくない寂寥と痛みを味わうものだ、と言う事に。
彼女は此処に来る前に、心の底では覚悟していたのかも知れない。
「このメルツェーデスと、1つだけ約束をして下さい、兄上」
背筋を真っ直ぐ伸ばしたメルツェーデスが、よく透る明るい声で言った。
アディは少し照れ笑いしながらも、実に誠実そうな面持ちで振り返る。リサもしゃくり上げながらも慌てて涙を拭くと、メルツェーデスの方に向き直った。
「年に1度は必ず、このアルケラオスにお顔をお見せにいらして。仮いアディお兄さまが来られなくとも、私の方から出向きます故」
「それで良いのかい?」
「はい。お兄さまのお声を、一生涯耳にすることが出来ぬことに比べれば」
「お安い御用だ、メルツェーデス」
間を置かずアディが大きく頷くと、メルツェーデスも釣られて、はい、と応える。
「その代わりじゃないが、メルツェーデスに良い彼氏が見つかったら、見つけたら、いの一番に俺に教えてくれるかい?」
「勿論です」メルツェーデスは然も可笑しそうに言った。「ですが、お兄さまより素晴らしい殿方は、そうそう居りませぬ」
「物差しは俺か?」
「はい。お兄さまより素晴らしい殿方でなければ、と心に誓いました」
アディが一瞬唖然とした顔を見せ、思わず目の前のリサに目を落とす。リサはアディを見詰め返していて、嬉しそうに小さく頷き返した。
「──そんな事、一体いつ誓ったんだ・・・?」
アディは軽いため息を吐くと、少し呆れたように言った。
「つい先ほど誓いました」メルツェーデスの声音ははっきりしていて、どこか自慢気だった。「アディお兄さまに抱き締めて頂いた、あの瞬間に」
「選ぶのに困るほど、ごまんと居るさ、この世には。それも俺より何十倍と良い男が」言葉とは裏腹の、アディの半ば諦め口調だった。「尤も、ハリマオ・ジョーの近衛を、命懸けで突破する気概だけは、最低限要りそうだが」
「頼もしい貞操の番人ですもの。このままで、行かず後家になってしまうかも」
カラカラと笑うメルツェーデスに、アディは僅かに下唇を突き出して首を竦め、リサは両手で口元を覆いながら困った目付きで主君の姫君を見詰めた。
「それで、不肖このメルツェーデスの戴冠には、ご臨席を給わって頂けるのですよね?」
メルツェーデスは、ミストに浮かび上がる母たる皇妃の美しい写像を見上げ、それからアディを振り返った。
「勿論さ」
アディが晴れやかな笑顔を浮かべ、大きく頷いた。
「君は銀河中から仰望される、このアルケラオスの輝かしき象徴だ。そして俺の誇りだよ、メルツェーデス」
* * *
その日の午後、澄み渡る空に傾いた夕陽がリスクラ湖の水面に反射して、湖全体が美しいオレンジ色に輝いていた。ドラグゥン・エトランジェ(傭われ宇宙艦乗り)・グリフィンウッドマックが、アルケラオスを離れる時刻が訪れた。
騒動の名残がまだ落ち着かないローズブァド城宇宙港は、衙衛隊機材の離発着が頻繁にあり、意外と騒がしかった。皇室専用エプロンの14番スポットには、離陸準備が整ったグリフィンウッドマックの機艦アモンが駐機していた。艦首底部のグラウンド・ペイロード(陸上機材積載庫)の艦尾側にあるボーディング・ハッチ(乗艦口)からタラップ(乗降斜梯)が伸びていて、そのタラップ(乗降斜梯)の前に4人の姿があった。
1人は、鬱金色のアクセントカラーが入った白磁のフィジカル・ガーメントを着込むキュラソ人、グリフィンウッドマックのデューク(頭領)ネルガレーテ・シュペールサンク。その正面に並んでいるのは、リサ、ピアッツァ、モンエーゴの3人だ。ピアッツァとモンエーゴは勿論、肋骨を象ったようなパスマンタリ(肋様前身頃刺繍)釦飾りの、ミッドナイトブルーも凛々しい衙衛隊制服姿で、リサは午前中に陵墓でアディと会っていた折りの姿そのままで、濃紺のミモレ(脹脛丈)ワンピースにジャケットを羽織っていた。
他のアディたちドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)3人は先に乗艦していて、離陸シークエンスのチェックリスト(発進準備)を開始している。外せない公務のため泣く泣く帰都したメルツェーデスの名代として、リサはピアッツァやモンエーゴと共に見送りに来ているが、駐機グラウンドには3人の他に、100メートルほど離れたハンガー(格納庫)前には衙衛儀仗隊がずらりと整列していた。国皇からのイレギュラー・トリートメント(特別な計らい)によるものだ。
「お世話になったわね、ピアッツァ・イーズス監佐」
ネルガレーテが嫋やかな笑顔で、胡桃色の肌をした右手を差し出すと、ピアッツァはその手を握った。折れたピアッツァの左前腕は肩からアームホルダーで吊られ、まだ移植仮骨癒合促進治療と骨髄活性施術の最中なのでギプスで固定されていた。
「とんでもありません、ネルガレーテ。皇室の危機を救っていただいた事、メルツェーデスさまを無事お守り通せたのも、すべてグリフィンウッドマックのお陰です」
「あら、嬉しい事を言ってくれるわね」ネルガレーテがにっこり微笑むと、隣のモンエーゴに向き直り、改めて右手を出した。「──そしてモンエーゴ監佐、こんな私たちへの援助にお礼を」
そう声を掛けられたモンエーゴが、突いていたクラッチ(松葉杖)をピアッツァに押し付けた上に、そのピアッツァの肩を掴むと、不自由な自分の右足を後ろに投げ出した。
怪訝そうな表情のネルガレーテに構わず、ピアッツァの肩を握り潰さんばかりに力を込める左手を支えにしながら、モンエーゴは震える姿勢で静かに腰を落とす。ピアッツァが思わず、何を、と言い掛ける間もなく、目の前に差し出されていたネルガレーテの右手を下から掬うように取ると、自らの口元をネルガレーテの右手の甲に近付け口付けした。
「光栄です、マドモワゼル・ネルガレーテ・シュペールサンク」
そんなモンエーゴの所作に、ピアッツァが渋面を作って呆れる。この期に及んで、俺を支えにしてまでフェミニスト面するのか、と冷ややかな目付きで見ていた。さすがのネルガレーテも、これには優しげな苦笑を返すしかなかった。
「リサ」
ネルガレーテが慈しむような表情で、今1歩リサの方へ歩み寄った。
「リサ・ファセリア・テスタロッサ、本当にありがとう」
6センチほど背丈が高いリサを、ネルガレーテの方から抱き寄せた。
「あたしはそんな・・・」白橡色のふわふわしたネルガレーテの髪が、小さく首を振るリサの頬を柔らかに嬲る。「そんな、お礼を言われるようなこと、何も・・・」
「──そして、ごめんね。貴女の父上、イェレの事」
「謝らないで・・・!」
リサがはっきりとした口調で、今度は明瞭に首を振った。
「ネルガレーテ、貴女に謝られると、あたしはあたし自身を一番責めなければならなくなる・・・!」リサが口をヘの字に曲げて、じっとネルガレーテを見詰めた。「そもそもあたしが、ツィゴイネルワイゼンに乗っていなければ・・・!」
メルツェーデスの護衛官として同船していたピアッツァは、そのリサの言葉を聞いて辛そうに目を瞑り顔を伏せた。
「そうね、貴女の言う通りね、リサ」ネルガレーテが硬い笑みを浮かべる。「貴女には、改めてお礼だけを言うわ。ありがとう、リサ・ファセリア・テスタロッサ」
くしゃくしゃさせたリサの顔に、大きな笑顔が戻る。
「この国でアディに初めて出会って救けられた時に、何故か懐かしさと安堵感を覚えた理由が、いま漸く分かったわ」
夕陽を浴びたリサの表情は金色に輝き、紅い髪は燃えるように煌めいていた。
「アディは、姫さまが敬愛して熄まない実のお兄さまで、しかもあたしの父が命に代えて守り抜いた人。どこかメルツェーデスさまに似ていて、母から伝え聞くあたしの父の匂いを纏った人」
リサの言葉に黙って耳を傾けていたネルガレーテは、温かい眼差しで2度3度と小さく頷いた。
「アディは、最初からあたしの身近な人たちの面影と雰囲気を纏っていたの。あたしの大切な人たちと同じものを持っていたの。こんな思いを抱かせてくれた人は、誰もいない。アディが初めてよ・・・!」
嬉しそうに声を上げるリサに、なんて感受性の強い娘なのかしら、とネルガレーテは目を丸くした。
「──あたし、アディに逢えて良かった。本当に良かったよ、ネルガレーテ・・・!」
「そう言って貰えると、精一杯奮闘した甲斐があると言うものよ」
ネルガレーテはこそばゆそうに、少し首を窄めて見せた。
「母君に、レディ・ジュリアに宜しく伝えて下さいな。今回のクリーム(報酬)については、国皇さまへ何かとても大きな力添えを頂いたみたいなので」
「クリーム?」
「あ、ギャランティー(契約報酬)の事よ」
口元左下の白母斑も蠱惑的な唇で、ネルガレーテが微笑む。
宇宙そのものを活動の場するドラグゥン・エトランジェ(傭われ宇宙艦乗り)へのリウォード(報酬)は、様々な形質があり有形無形を問わず多種多様で、必ずしも直接的な金銭支払いとは限らない。そのリウォード(報酬)契約自体が、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)における個々のレギオ(編団)の、ディール(商売)の巧拙になるのだが、ネルガレーテは大胆にも、グリフィンウッドマックから要請があった場合、アルケラオス国家が機関保証人としてグリフィンウッドマックへの保証委託契約を受ける検討を行う義務を要求した。
この場合のアルケラオスの義務とは、グリフィンウッドマック側から要請があった場合に、アルケラオス国家がグリフィンウッドマックの保証人になるかどうかを“検討する義務”であって、“保証人になる義務”ではない。だからアルケラオス国家が必ず保証人になるとは限らないのだが、それでも少なくとも、グリフィンウッドマックは一国家が“検討”に値するドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)だ、と言う証左に映り、他者に対してのこの上ない与信と為り得る。
ただ、一国家が相手の、大胆に足元を見透かした身のほど知らずな要求には違いない。
グリフィンウッドマックではネルガレーテが好んで用いる交渉スタンスで、幾許かの好条件を勝ち取るためのブラフ(見せ掛け)なのだが、今回は相手が国家なので多少大きく出たに過ぎない。レギオ・デューク(編団頭領)のネルガレーテにしてみても、端から丸々通るとは思っていなかった。
ところが何と、老皇は二つ返事で了解した上に、条件付きながらもグリフィンウッドマックへの無担保融資検討義務まで付帯させて来たのだ。これは、金に困ったら何時でも相談に乗るぞ、と言うアルケラオス皇からの一種の篤志だった。
検討と言えど、ドラグゥン・エトランジェ(傭われ宇宙艦乗り)風情が、国家の保証対象になる、なる可能性があるドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)など、前代未聞だ。天地が引っ繰り返っても本来は有り得ない。しかもその国家が、獅子座宙域では経済力や先進度、社会発展性で一目置かれているアルケラオスとあっては、グリフィンウッドマックの得られる与信は計り知れない。
だからこそ、このギャランティー(契約報酬)はドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)稼業にとって、破格中の破格だった。
「そんな言い方するのね」
リサが少し遠くを見るような目付きで言った。
「あ、駄目よ、他所で使っちゃあ。トッポい連中の言葉だから」
ネルガレーテは、初めて見せたリサの表情に少し戸惑いを感じたが、すぐさま飛び切りの笑顔を浮かべた。
「名残惜しいけど、今日はこれでお別れ」ネルガレーテは改めてリサを見て、それからピアッツァ、モンエーゴを見遣った。「どうせ、間を置かずに来ることになるし、ね」
リサが小さく頷き、ピアッツァとモンエーゴが背筋を伸ばして敬礼する。持ち主の手が離れたモンエーゴのクラッチ(松葉杖)が、地面にカランと音を立てて倒れ落ちた。
ネルガレーテは昂然と胸を張る衙衛官2人に軽い投げキスをすると、さっと踵を返して足早にタラップ(乗降斜路)に駆け込んだ。ピアッツァは顔を真っ赤にし、モンエーゴはクラッチ(松葉杖)を手放したまま片足立ちで固まっていた。当の2人は、ネルガレーテがその燕婉とした容貌に反し、安易に投げキスするほど愛想良しではない、と言う事を知りもしないので、その意味の大きさに気付いていない。
「ネルガレーテ・・・!」
ネルガレーテの後ろ姿を追いながら、リサが声を投げた。タラップ(乗降斜路)上のネルガレーテが、足を止めて振り向く。リサが思わずネルガレーテの元に駆け寄った。
「何?」
「何だかドラグゥン・エトランジェ(傭われ宇宙艦乗り)って──」
そこまで勢い込んで言ったものの、ネルガレーテと目が合った瞬間、リサは言葉を嚥み込んでしまった。そんなリサにネルガレーテが、黙って柔らかい笑みを浮かべて見返した。
「──あたし・・・!」
意を決したようなリサのその一言に、リサが何を訴えたいのか察しが付いたネルガレーテは、少し顔を曇らせた。
「あたし・・・ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)はやった事ないけど、アディの傍でアディと一緒に生きて行きたい・・・!」
「リサ・・・」
やっぱりね、と言う半ば呆れ顔の困惑をネルガレーテが見せ、ピアッツァとモンエーゴは驚いたように目を丸くしていた。
「すぐには無理だけど、必ず、必ず、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)になって見せるの、あたし・・・!」
赤髪の16歳の才媛の、自然と湧き出た痛いほどの心からの声だった。
「うーん、なる、とか言う問題じゃあ・・・」
ふっくらした豊艶な唇を真一文字に結んで、ネルガレーテが言い淀む。リサ自身の身上が身上なだけに、リサがそう思う、そう願う気持ちは分からなくはない。だからこそ、駄目だ、と頭ごなしに言い切り辛い。
「──リサ・・・分かってるでしょ」
そう言いながら、ネルガレーテは心の中で叫んでいた。
“イェレ、リサは矢張り貴方の素敵な一人娘よ・・・! 見えてる? 聞こえてる? イェレ・・・!”
「──やっぱり無理・・・よね・・・」
口を衝くリサの声が、言った傍から力なく地に落ちて行った。一陣の風が吹き抜け、リサの紅の髪とネルガレーテの白橡色の髪がふわりと靡く。
「貴女たちは確かに、今までずっとドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)で──」
リサが強張った笑みを浮かべて見せる。
「あたしは・・・そう・・・16歳の今も普通のテランの女の子だものね」
なんて、物分かりが良いのだろう。
リサが、これは運命なの、などと独りよがりの愚かな寝言を宣う、夢見る乙女ではない事に、ネルガレーテは何故か胸を撫で下ろし、と同時に改めて賛嘆した。そして、貴女は決して“普通”じゃないわよ、と言い掛けて、ネルガレーテは言葉を嚥み込んだ。
“けれどもし、彼女が自分の意志で、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)になる思いを、本気で貫いたら──”
何しろ、オロフと対峙した折りに、弾かれたアディの剣を拾い、大胆にもオロフに刃を向けてアディを庇ったと聞いた。見せた勇気は確かに無茶だが、奮い立たせた気風は顔に似合わずドラグゥン顔負けだ。
“──血は争えない・・・案外ドラグゥンに向いている、かも知れない・・・”
一瞬過ったそんな思いを、ネルガレーテは頭から振り払った。
「じゃあね、リサ。グリフィン・ワイルド・マドモワゼル(赤毛のお転婆お嬢さん)」
そのネルガレーテの言葉に、リサが黙って小さく頷く。
ネルガレーテはタラップ(乗降斜路)を駆け上がり、ペイロード(積載区画)に姿を消すまで1度も振り向かなかった。
「テスタロッタさま・・・!」
ネルガレーテが消えた搭乗口を、ずっと見上げていたリサが、すぐ横のピアッツァから掛けられた声に気がついた。何度となくピアッツァは呼んでいたみたいだが、リサには全く届いていなかった。ピアッツァに促され、脇に駐車していたグラウンド送迎用リムジンの後部シートに腰を落とす。その対座、すでに座っているモンエーゴの横にピアッツァが乗り込むと、アモンのタラップ(乗降斜路)がハッチ(外扉)に折り畳まれながら格納され始める。
リサたちを乗せたリムジンが大きな弧を描いて、衙衛儀仗隊が並ぶハンガー(格納庫)前に移動する。アモン艦底部のグラヴィテーション・ハイドランス・プレート(重力阻害器)の唸りが大きくなり、下部に僅かなタービュランス(乱気流)が起こり始める。アモンのランディング・ギア(降着装置)は荷重分圧のスキッド(橇)型降着脚なので、装輪式のような地上走行機能を備えておらず、離陸シークエンスは駐機グラウンドからの直接の垂直上昇になる。
一般的な宇宙艦の通常宙空間航行用推進主機であるフェルミオン・対消滅エンジンや、大気圏航空機材などに用いられる核融合熱イオン化エンジンのようなジェット(排気噴射)は皆無だが、グラヴィトン交換を阻害する場が形成されることで周囲の空気が乱れ、ロータークラフト(回転翼機)並のダウン・タービュランス(下方乱気流)が発生するため、リサたち送迎者は少し離れる必要がある。
ピアッツァのエスコートで開かれたリムジンのドアから、リサがコンクリート(混凝)のグラウンドに足を着けた矢先、ワンピース・ドレスの裾がタービュランス(乱気流)で激しく戦ぎ泳いだ。リサの眼前で、200メートルの宇宙艦アモンのランディング・ギア(着陸脚)が地を離れる。背後で、儀仗用実弾銃を持った衙衛隊が、グリフィンウッドマックの離去に対する礼砲を、天に向かって一糸乱れず構え上げる。
儀仗隊の礼砲が華やかに響く中、夕陽で茜に染まる薄暮の空へと吸い込まれて行くアモンを、リサは燃えるように紅い髪を激しく踊らせて、いつまでも見上げていた。
★Epilogue 宇宙へ・3/禁姫の想いは星の翼に・完
written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




