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紅のドラグゥン・禁姫の想いは星の翼に  作者: サザン 初人(ういど)
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Act.3 追憶の皇子・3

「ありがとう、話してくれて」ジュリアはどこまでも気高かった。「貴女(あなた)がたにも、辛い出来事だったのですね」


「イェレと一緒に宇宙を駆け回った16年間、イェレは常に私の兄であり誇りであり、追い掛けるべき背中でもありました」ネルガレーテは背筋を伸ばして言った。「今のグリフィンウッドマック、アディ、ユーマ、そしてジィク、みんなイェレの背中を見て、イェレを追ってドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)として生きてきました」


「あの人らしい」哀愁を帯びたジュリアの笑みが、静かに憂いを誘う。「そうやって、貴女(あなた)がたの心の中で今も生きている。私が慕い続け、信じ続けたあの人を、心から愛して良かったと思っています」


「──ここまでお話したからには、肝心な事を、イェレがドラグゥンになった切っ掛けを、お話ししなければなりません」


ネルガレーテが、フロースガール皇に向き直る。


「事は、皇陛下が疑念をお抱きの16年前です。当時のグリフィンウッドマックは、私の祖父エラン・グリフィンウッドマックが率いていました。と言いましても、祖父 (じい)さまも当時72歳、引退を考えて郎党を独立させたばかりで、付いていたのは齢17を超えたばかりの私だけでした。ご承知かもしれませんが、祖父エランはグリフィンウッドマックとして、そこな奥方の良人(おっと)イェレ・ヴァンキッシュ卿から何度か仕事の依頼を受ける仲でした」


ネルガレーテは強張らせた顔付きで、遠くを見るような目付きをした。


「2人の出会いは存じ上げません。傍から見ていても(たち)の合う様子で、こう申しては身贔屓かもしれませんが、宇宙で生きることを稼業にしているエランに対して、イェレは仰望の念さえ持っているようでした。そこで依頼を受けたのが、近隣宙域への宇宙進出においての、アルケラオスが先覚者として確たる立場を得るため、アイドル・ディメンション(虚時空)ドライブによる恒星間航行システムを備えた艦船の、他国より一刻も早い保持でした。それをイェレはエランを通じて、ノルン人から導入しようとしていたのです」




恒星間航行を支える基盤テクノロジーは3つある。


超対称性場を用いて質量位相させ、リアクタンス加速とコンダクタンス減速を用いる、超対称性場推進と呼ばれる超光速航行、もう1つは位相空間ゲートを使う方法、そして虚時空ドライブを用いる恒星間航行だ。


このうち位相空間ゲートとアイドル・ディメンション(虚時空)ドライブは、言わずと知れた、孔雀座宙域ノルニル太陽系のノルン人が実用化したシステムだ。


位相空間ゲートは、文字通り静動次元相補理論に立脚した位相空間を通ることで、超光速移動を可能にする、そのための出入り口だ。通常空間における特異点を相互に結んでいる常設のバイパスみたいなものだが、ゲート自体の設置ポイントは限定的な上に空間座標的に静止的存置されているので、ゲートのない位置へのドロップオフや、ない場所からのオンエントリーは不可能で、途中でのドロップオフも出来ない。


一方のアイドル・ディメンション・ドライブ(虚時空航法)は位相空間ゲートと違い、超対称性場推進と同様に航行宇宙艦船自体に実装するシステムだ。


パワー・トレーンの動力補機であるディメンション・コンジュゲート(時空共役)エンジンから供給されるアキシオン粒子を量子パリティ変換し、ローレンツ・ブーストさせることで運動ベクトルに対して時間が逆行するタキオン現象を生じさせ、当該システムを含めたタキオン場空間全体を、結果的に瞬時に虚時空移動させる。

タキオン場の影響を受ける被覆空間全体が移動対象になるので、強大な虚時空ドライブ機構が一つあれば、大船団や一大艦隊を一時にフェードインさせ、一斉に時空転移させることも可能になる。客船ツィゴイネルワイゼン救助の際、下船させた乗員乗客を移乗させる救難用宇宙船3隻を、機艦アモンと一緒に現場へフェードアウトさせた用法だ。


太陽系の主星が保持している引力圏でなければ作用しない、超対称性場推進のリアクダンス加速とコンダクタンス減速と違い、作用空間を選ばない。


ただ、位相空間ゲートと虚時空ドライブはノルン人しか製造不可能な工学システムであり、現存する2つのシステムは1つ残らずノルン人から技術供与されたもので、メンテナンス(点検整備)やリペア(補修)もノルン人でしか施せない。


「──その先駆けに就役したのが、先代の御料宙船ステラートと聞いています」


ネルガレーテの言葉に、フロースガール皇は小さく頷いた。


「ステラートは当時、アルケラオス近隣宙域において、虚時空航法エンジンを艤装した唯一の宇宙船で、しかもエッジセーク皇の御諚(ごじょう)であったアルケラオス宇宙軍創建の足掛かりとなった、とはエランから聞いたことがあります」


「アルケラオス、そして近隣のネスン・ドールマ宙域一帯の治安を、アルケラオス宇宙軍が担えるとなると、我が国は地域国家間貿易で圧倒的に優位に立てる、とはエッジセークの目論見でもあった。数年後には大きな宇宙戦艦が就役し、アルケラオス宇宙軍が正式に創設されたのだ」


フロースガール皇の言葉に、今度はネルガレーテが頷いた。


「そのアルケラオス宇宙軍の創建記念式典に、グリフィンウッドマックはイェレから非公式ながら招待を受けました。エランは固辞したようですが、陰の立役者を呼ばずに宇宙軍は誇れないと、その辺りイェレは大変律義で・・・」


僅かに相好を崩すネルガレーテに、ジュリアも目を細めて笑みを返した。


「イェレは我々を招待してくれるに当たり、驚くべき計らいを用意してくれました。先程フロースガール皇陛下もおっしゃられた、宇宙軍創設と同時に就役したアルケラオス宇宙軍の旗艦となる戦艦アンボワースを、エッジセーク皇が観艦される際に御料宙船ステラートにて宇宙へ上がられたのは、ご承知のことと存じます。その際イェレは祖父エランに、自身と一緒にこのステラートに同船して、エッジセーク皇の謦咳(けいがい)に接する栄を、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)如き族輩(やから)に用意してくれていたのです」


「──ではそなたたちは、我が息エッジセークと言葉をも交わしていたと言うのか」国皇が少しばかり目を丸めた。「ウェーデン卿からは、そんな話はついぞ聞いた事がなかった」


「残念ながら私はその折、2000キロの距離を置いて、グリフィンウッドマックの機艦アモンにいましたので、ステラート船内において皇陛下とエランとの間にどのような事があったのか、委細は承知していません」


「あのヴァンキッシュ卿が、それほどまでにそなたらに礼を尽くしていたとは、余程の知遇を得ていたのであろうな・・・」


フロースガール皇は感慨深げに言いながら、ジュリアを見やった。


「ですが、さすがのイェレもエランも、予見できていませんでした」ネルガレーテは少しの間、口を真一文字に結んだ。「──あの(ゆる)されざる暴挙が起きたのは、エッジセーク皇がドッキング・ステーションに足を踏み入れた時、でした」


「匪賊どもが飛び出して来た──」

目を細めて彼方を見るフロースガール皇が、乾いた声で言った。


「送信されて記録に残っておる映像は見た。とてもではないが、2度と見れたものではない」

そう言うと、老皇は瞑目して2度3度と首を振った。


「記録映像をご覧になられましたか・・・」辛そうな口調のネルガレーテが、老皇を見てジュリアを見た。「以下にお話することは、祖父のエランから聞き及んだことです。何分イェレ自身がこの件については口が重く、それ以後も進んで話そうとはしませんでしたので・・・」


ネルガレーテは一呼吸おき、フロースガール皇とジュリアを見ると、1度唇を引き締めてから(やお)ら言葉を紡ぎ始めた。


「あのステーションは、エッジセーク皇が観艦されるに当たり、ドッキング用途にのみ使われる簡易に建造されたものだと聞いていますが、賊徒どもは、そのステーション内の戦艦側の気密区画の両脇に設けられた、宇宙空間活動用の機材ハンガー(格納庫)に隠れていたようです」眉根を寄せ、ネルガレーテが思い出すように話を紡ぐ。「記録映像にも残っていたとは思いますが、突然飛び出してきた賊徒は、ステーション内は護衛と言えど火器の携行が禁じられているのを知っていたらしく、いきなりフォノンメーザー・サーベル(電磁剣)を振りかざし、居並ぶ宇宙軍の儀仗兵に不意打ちを食らわせました」


ネルガレーテは口元を隠すように、指先を合わせた両の手を唇に押し当てた。


「しかしエッジセーク皇は、本当に勇敢なお方だったようです。迫る賊徒に1歩も引かず、加勢しようとしたイェレにエッジセーク皇はシン皇子を連れて後退れと、ご命じされたそうで、イェレが抱き抱えるようにしてシン皇子をステラート船内へ」


ちょっと間を置いたネルガレーテが、ジュリアを見やる。ジュリアは目を(つぶ)って話を聞きながら、自らの心の中に描いた良人(おっと)の姿を見詰めているようだった。


「シン皇子を追い掛けようとした5人に、剣を向けられたエッジセーク皇が1人を、さらに付いていた衙衛(がえい)官が1人を斬り(たお)しましたが、3人がステラートへ侵入しました。ステラートの操船室でモニターを見ていたエランは、すぐさま助太刀に駆け出し、イェレの方はシン皇子を船内の厨房に(かくま)いました。エランは、入り込んで来た賊徒2名を(たお)したものの、深手を負ってしまった、その矢庭──」


ネルガレーテがフロースガール皇の方を振り向くと、じっと見返していた皇と目線が合った。


「船体全体を震わせた爆発のような振動に、当初エランもイェレも、何が起こったのか、見当が付かなかったようです」


「エッジセークの死──か・・・」

フロースガール皇は沈痛な面持ちで首を振った。


「おそらく・・・」ネルガレーテも静かに瞑目しうな垂れた。「私もエランも、そしてイェレも、残念ながらエッジセーク皇のご最期は、後日に風の噂に聞くだけで・・・」


「我が息エッジセークは、最期まで立派だった。匪賊に組み付かれても臆することなかったが、背後から脇腹を一突きされ・・・」老皇は一旦言葉を切り、目頭を軽く押さえると再び語り始めた。「戦艦内から兵たちが駆けつけたものの一歩遅く、完全に包囲されて観念した賊徒は、あらかじめ仕掛けておいた爆弾を爆発させたのだ」


長い沈黙が流れた。ネルガレーテは口を開く勇気を出せなかった。


その静謐(せいひつ)を破ったのは、フロースガール皇だった。


「それでシン皇子は──」


「はい・・・」ネルガレーテは自らを落ち着かせるように、深呼吸をした。「エランが討ち漏らした賊徒の1人が、どうやら操船室に入り込むと居合わせた衙衛(がえい)官1人を斬り伏せ、残っていた航海担当士官の衙衛(がえい)官を脅し、太陽系クワインへ時空跳躍しろ、と要求したらしいのです」


彼奴(きゃつ)らの窮余の一策であったか、クワインへ逃げ込もうと目論んだのは。やはりオロフ・ウェーデンが洞察した通りであったな・・・」


そのフロースガールの言葉を聞いて、ネルガレーテが一瞬顔を曇らせた。


「イェレが操船室に駆け付けたのは、ステラートがフェードインする直前でした。イェレは虚時空からフェードアウトと同時に背後から賊徒に忍び寄り、組み付いたのです。その隙に加勢しようとした航海担当士官でしたが、賊徒は衙衛(がえい)官から奪ったレイガン(光線拳銃)で頭を射貫かれ落命しました。次に銃口がイェレに向けられ、あわやと言うところに負傷したエランが駆け付け、2人して最後の賊徒を排除しました」


「おお、やってくれたのか、そなたたちは・・・!」

フロースガール皇は僅かに目を剥いて、ジュリアを見やった。


「ところが──」

ネルガレーテのその一言に、国皇と女御長がはっとする。


「安堵する間もなく、激しい衝撃がステラートの船体を突如襲いました。突き上げるような、巨大な物に無理やり擦り付けられるような激しい揺れに、2人とも操船室で投げ出されました。と同時に近接警告音が鳴り続けているのに気づき、エランが這う這うの体で操縦席に飛び込みました。間近に巨大質量物がある事だけは判りましたが、それ以上の事が判然としません。ひょっとしたら何かに接触、衝突したかも知れない、とにかくステラートを操船して、巨大質量物と思しきものから離脱しました。すると、突然通信が入って──匪賊どもに警告する。無駄な抵抗はやめて、投降しろ。こちらは栄えあるアルケラオス宇宙軍麾下の宇宙戦艦シャンボールである。刃向かったり逃亡した場合は、即撃沈する、と」


「おお・・・なんと・・・! 救助に向かったのではないのか・・・?」

驚くフロースガール皇に、ネルガレーテが静かに首を振る。


「イェレの方が返信を試みたのですが、軍側の作戦行動中による通信管制なのか、通信システムの運用に慣れていないのか、はたまたトラブルなのか分かりませんが、シャンボール側からは応答がありませんでした」


ネルガレーテの言葉にフロースガール皇は息を呑み、ジュリアと顔を見合わせた。


「それ以上の離脱行動を取るなら撃沈する、と最後通牒を告げられたステラートですが、賊徒が乗っ取って逃亡に使われている、と軍側は判断していたのかも知れません。とにかく通信回線が繋がらなければ、状況の説明もできませんし、本当に逃げ出そうにも、ステラートのパワー・トレーンは、虚時空ドライブ機関と言っても性能的に連続のフェードインが不可能で、次のフェードインが可能になるまで時間を必要とします」


ネルガレーテが僅かに顔を(しか)めると言葉を継いだ。


「相手は700メートル級戦艦、100メートルちょっとのステラートの船体など子ネズミ同然。衝突された衝撃で、弾かれたステラートは漂うように戦艦から離れて行っていましたが、このまま何もせず慣性運動をしていれば、抵抗しないとの意志判断と見なして、制圧に乗り込んでくる筈だから、その時に説明すれば良い、とイェレは言ったのですが、エランが反対したのです」


「反対した? 何故だ?」


「間髪を入れない、アルケラオス宇宙軍の追撃です」ネルガレーテが国皇に頷いた。「ご存じないかも知れませんが、虚時空航行はその航法特性上フェードインしたら、どこにフェードアウトするかは、通常空間からはトラッキング(追尾)もトレース(追跡)も不可能なのです。あの時もアルケラオス宇宙軍は、ステラートがどこへ逃亡したのか、知る由もない筈なのです。なのに、すぐ後を追うようにして、クワインにフェードアウトして来たのです。しかも接触したほどですから、設定座標自体が同じだ、と見なして間違いありません」


「──匪賊どもの逃げ込むのが、太陽系クワインだと、アルケラオス宇宙軍はあらかじめ知っていなければ、できぬ話だと・・・?」


「それでイェレが、思い当たる事がある、と。イェレが操船室の賊徒に忍び寄った際に、全滅じゃないか、どうなってるんだ、こんなのありえない、とにかく指定のポイントにフェードインだ、との賊徒の独り言を聞いていたのです」


「それがどうした?」


「エッジセーク皇を襲った連中は、端から逃げる場所を指定もしくは指示されていた、と取れます。それが太陽系クワインです」


「国家として、クワインが関与していると言う意味か?」

フロースガール皇が、厳しい顔付きで目を(すが)めた。


「それは正直定かではありませんが、少なくともアルケラオス軍側にとって、逃げ込む場所は既知であり、その通りにクワインに逃げ込んだのですから、軍側がステラートをリベラルジャンキー(革新過激派)の残党と見なしているのは間違いありません。軍は警察機構と違い、逮捕、拘束という司法行動の義務はありませんから、敵と見なしたら武力による排撃を厭いません。そんな、この上ない国賊の追撃に来た軍が、投降の勧告をしておきながら通信回路を開けない──この戦艦シャンボールの行動は、時間稼ぎだと、エランは推測しました」


「時間稼ぎ? 何のためじゃ?」


「問答無用で、ステラートを撃沈するためです」

ネルガレーテは小さく頷いた。


「エランの話だと、その時点で戦艦とステラートの距離はおよそ15キロ、フェードインした時点の空間とフェードアウトした空間のエントロピー差によって慣性運動が変位しますが、ステラートは衝突された際の慣性運動エネルギーで、戦艦とはお互いに遠ざかっていました。戦艦は相対ベクトルを詰めるため、姿勢制御を行っていましたが、これを砲撃態勢を整えるための姿勢制御行動だと、エランは判断しました。その砲撃態勢を整えるための時間稼ぎ──そう考えれば、通信に応じないのも意図的だとなります」ネルガレーテが目の前を2人を交互に見た。「何にしろ通信が繋がらないかぎり、ステラートが動けば国賊の逃亡と見なして砲撃、反撃しなくても投降しないのなら、他国領宙域を侵犯してまで追撃して来たのに、このまま国賊を見逃す訳にも行かないので撃沈、となるでしょう。しかも勧告はした、と言う口実付きで」


「確かに、結果的にはステラートは撃沈されたな、宇宙軍の手によって」

老皇は肩を落として息を吐き出した。


「残っている時間は多くはないと判断したイェレとエランは、即座に下船を選択しました。エランが操船していましたが、負傷している上に700メートル級の戦艦相手では、ステラートでは無事には逃げ切れません。何にしろ、国賊のレッドネック(左巻き)と断定しているからには、容赦はしないでしょうから」


「しかし船を降りると言っても・・・」

そこは漆黒の宇宙ではないか、と言いたげに国皇は女御長と顔を合わせた。


「エランは、アモンにいた私に救助を担わせました」

ネルガレーテは淡々と、事も無げに言った。


「下船して宇宙遊泳を楽しむから、至急救助に来い。ただし戦艦がいるから気をつけろ──アモン宛てに、メッセージに救難コードと現在位置の座標情報を付帯させて、通信を寄越したのです。主機にタキオン・エキスパンド(虚時空拡張)エンジンを搭載していれば、例外なく虚時空タキオン通信が可能です。私たちが昔から使っているソリトン・パラメータ(通波粒子写像変性)値域帯で、専用アルゴリズム・プロトコルを使ったヘッダーを付帯させれば、情報を正確に受信できるのは、この宇宙でまずグリフィンウッドマックだけです」


話にきょとんとする皇とジュリアを見て、ネルガレーテが慌てて言葉を継いだ。


「エランが私に位置を送信している間に、イェレは厨房に(かくま)っていた皇子を連れ出し、ハビタブル・オーバーオール(気密与圧服)を着てもらいました。勿論イェレとエランも気密服を着用し、ステラートを自動操縦に切り替えた後、それに余っていた気密服にスラスターを装着したダミーを、エアロック(気密室)から目晦(くら)ましに放出しました。ステラートが自動操縦のプログラム通り、回頭するためスラスターを噴射すると同時に、3人は宇宙空間へ飛び出しました。ステラートの自動操縦は、戦艦シャンボールへ舷側から突っ込むようにプログラムしてありました」


「それでシンも、シン皇子も、確かに一緒だったのだな? 無事だったのだな?」

今にも泣き出しそうなほどに顔を歪める老皇に、ネルガレーテは大きく頷いた。


「エランから受け取った座標空間に、アモンがフェードアウトするのと同時でした。シャンボールの直撃弾を浴びて、ステラートが爆沈した瞬間を目の当たりにしたのは」


それが真相か、と言わんばかりに、フロースガール皇が口を半開きに驚き目を剥いていた。


「フェードアウトした私の方も、アルケラオス宇宙軍の艦船がいるのはすぐ判りました。ステラートの船影も見当たらないので、あの爆発はステラートのもので、ステラートを爆沈させたのは戦艦だと容易に想像が付きました。勿論、必要ならば一戦交えるのも(やぶさ)かではありませんが、エランたちを救出するのが先決と判断した私は、シャンボールに善意の第三者を装って、何かトラブルでもあったのか? と一般商用の標準帯域で交信を入れてやりました。アモンがアルケラオスにいたドラグゥンの機艦で、しかもずっとワッチ(看視)していた、と相手が知っているとは思えませんし、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)の(ふね)ならどこに現れても、まあ不思議ではありませんから」


フロースガール皇は感心するように、ふーむと声にならない声を上げた。





★Act.3 追憶の皇子・3/次Act.3 追憶の皇子・4

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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